SPAC『アンティゴネ』空間デザインノート(4)「動かすべからず」
法王庁でダンス公演を視察した翌日、私と堀内さんは再び法王庁へと向かった。明るい状態で舞台周りやバックステージを見せてもらうためだ。
前の晩、私たちはダンス公演の後、食事をしながら、あれこれと「法王庁対策」の作戦会議を行っていた。課題はやはり巨大な城壁の存在。しかし、石切場でも同じような問題に対して、舞台と客席の形状を大きく変えることで解決できた。今回も何らかの方法があるのでは無いか?そのヒントを探す事もこの日の重要な目的だった。
そこに待っていたのは、フェスティバルのテクニカルディレクターのフィリップ氏。ピーターブルックが石切場で伝説となった『マハーバーラタ』を上演した際に、テクニカルを務めたという、いわば生き字引的存在であり、フェスティバルのあらゆる公式演目を技術面で統括する、いわゆるドンである。
そして何より、私たちが2014年に石切場で『マハーバーラタ〜ナラ王の冒険』を上演し、その年のフェスティバルで最も成功したパフォーマンスのひとつであるという評価をいただけたのは、このフィリップ氏のお陰と言っても過言では無い。例年通りの客席を設置する事を取りやめ、全く新しい野外劇場空間を作るという我々の提案は、フィリップ氏無しに実現する事は、文字通りあり得なかったのだ。
「ジュンペイ、また君と仕事ができて嬉しいよ。」
熊の様に大きな手とガッチリと握手を交わし、再会を喜んだのも束の間、次瞬間にフィリップ氏の口から出た言葉に、私の笑顔はひきつったまま固まった。
「でも、客席はこのまま動かすなよ。これは絶対だ。」
~つづく
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