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SPAC『アンティゴネ』空間デザインノート(3)「法王庁、のるかそるか」

舞台を見下ろしながら、私は心ここに在らずだった。

その日の法王庁のプログラムは著名な舞踊家による振付のモダンダンスだった。美しいステージングが見事な公演だった。四角く切り取られたステージの上にダンサーの軌跡がダイナミックに描かれる。上から見下ろす舞台をスクリーンに見立てた美しい映像作品を見ている様だった。照明も計算し尽くされ、舞台面に観客の意識が集中し、城壁の存在が気にならない様になっていた。この空間を使う上での模範解答の様だった。しかしその一方で、この圧倒的な空間との勝負を上手に避けている様にも感じられた。作品は素晴らしい。既に高い評価を受けている作品の再演だという事だったので、仮に私がこの上演に参加していたとしても同じことを考えたかもしれない。しかしこれでは法王庁と言うこの特別な場所で作品を作る意味がない様な気がした。

SPACはここで一から新しい作品を生み出すチャンスを与えられている。演劇を容易に寄せ付けない厳しいこの空間と真正面から勝負をしないでは、誰もみたことのない演劇作品を生み出すすことなどできないのだ。

ダンス公演を見終わった頃、私の心は決まった。
それは無謀な挑戦かもしれない。
大成功か、大失敗か、どうなるかは誰にも分からない。「そこそこの成功」は望めない。いや望まない。

のるかそるか、である。

~つづく
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