SPAC『アンティゴネ』空間デザインノート(7)「城壁を制するものは」
「城壁だ。」
この目の前に聳える城壁。巨大で舞台を圧迫する、厄介な存在。だが、この空間の圧倒的なエネルギーを生み出しているのも、この城壁。これを使わずしてこの空間を味方につける事はできない。
問題は舞台の位置なのだ、勾配の急な客席から見下ろす舞台は決して見やすくない。そのストレスは後方の客席に行くほど顕著だ。それに比べて、真正面の壁はどの席からでも無理なく視界に入る。という事は、この城壁を舞台にできれば理想的な客席と舞台の関係が出来上がるではないか。見下ろしによる俳優の矮小化の問題も解決できる。水平に置かれていた舞台を垂直に立ち上げ、城壁全体を使って上演できれば、この空間でしか出来ないスペクタクルが可能なのではないか?でもどうやって?
過去にも城壁をスクリーンとして使った演出があった事はあった。俳優の演技をアップで撮影して城壁に映したり、城壁全体にプロジェクションマッピングを行ったらしい。しかし、映像の類いは使いたくない。映像は観客の想像力を削ぎとってしまうからだ。人は見えないものを想像で補う力がある反面、見えてしまったものを見なかった事にはできない。情報処理の引き算が苦手なのだ。精細な映像の持つ情報量は過大すぎて、観客の想像力を立ち上がらせる余地を残さないのだ。これは演劇の表現において致命的だと私は思っている。
では映像ではなく、生身の俳優が壁をよじ登ったり、窓から顔を出したりすればどうか?これも聞くとこによると以前あった演出らしい。しかし巨大な城壁と小さな俳優の身体というスケールの問題が解決できないので、これも良い方法ではない。どうにかして、30メートル近い高さの城壁を、生身の俳優が支配する様な空間は作れないだろうか?
悶々と自問自答する私の頭の中に、突然、雷光のようにあるイメージが浮かんだ。
〜つづく
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