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【つぶやき絵本書評】『エイモスさんが かぜを ひくと』(光村教育図書)


あっというまに師走。
忙しい年末がやってきますが、
体調管理はだいじょうぶですか??


『エイモスさんが かぜを ひくと』(光村教育図書)
は、風邪でダウン気味のときにこそ、
そっと手渡したくなる絵本です。

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『エイモスさんが かぜを ひくと』
フィリップ・C・ステッド 文
エリン・E・ステッド 絵
青山南 訳
光村教育図書 2010年



動物園ではたらくエイモスさんは、
動物たちとなかよし。

考えてばかりのゾウとはチェス。
かけっこが得意なカメと競走をし、
恥ずかしがりやのペンギンのそばには黙って座ります。
鼻水に悩むサイにハンカチを貸してあげて、
怖がりなミミズクには本を読んであげます。

ところが今日はエイモスさん、
風邪をひいてお休み。
すると動物たちが家にやって来て…。



***



絵がなんとも味わい深い風合いでおしゃれです。
木版画をベースに、
彩度を抑えた赤や緑など、
上から彩色がほどこされています。

のっぺりとした色面や、
カクカクとした輪郭線など、
平面的・直線的な表現は
いかにも "ザ・版画" という印象。

でも、
上から細い線でこまやかに描き込まれているから、
ザラザラとした繊細な質感が
アンニュイな雰囲気をもたらしています。


ほの暗い彩色は、
ビンテージ加工みたいな味わい。
動物たちのデザインも、
小物のアクセントカラーが効いていてすてきです。


詞は短く、
繰り返しの展開を活かした
ごくシンプルなストーリーです。
淡々と穏やかな物語には、
絵との相互作用で、
やっぱりビンテージのような奥深さが漂っていて心地いい。



それは、
エイモスさんと動物たちの距離感
にも通じるところがあります。


その動物の個性を尊重し、寄り添うこと。
むりに、世間一般の価値観を押し付けたりしないこと。
そんなエイモスさんだからこそ、
動物たちは動物園をぬけだして
お見舞いに来てくれたのでしょう。



一見、大人向けに感じますが、
ストーリーの長さやシンプルさは、
子どもたちもばっちり楽しめるものです。
ゆったりとした心穏やかな読後感が、
おやすみ前の読み聞かせにぴったりですよ。


子どもが大人に読んでもらうのはもちろん、
大人がじぶんのために読んでも
また違う楽しみ方ができる
作品といえるでしょう。


いわゆる "大人向けの絵本" は
最近とても人気ですが、
"大人と子ども、どちらにも成立する絵本" って
意外とレアかも。


読み聞かせを
「子どものためにやってあげなきゃ」と
義務みたいに感じる方も多いと思いますが、
ほんとうはお父さん、お母さんを含め、
大人自身が楽しんで読むことが大切
なんて言われますよね。

「そうは言ってもそんな絵本ないじゃん!」って
思った方にこそ、
読んでみてほしい1冊です。


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