短編『監視カメラのある家』

「ちょっとあんた、いいですか」
 Sは歩行を止めて声のする方向に目を凝らした。暗闇の中に白髪の男が立っていた。
「あんた、ここは私有地だよ。そこの立ち入り禁止って看板が見えないのか?」
 Sはまた暗闇に目を凝らしたが、恐らく看板であろう小さな長方形のものの輪郭がうっすらと見えるくらいで、文字はとてもではないが読めなかった。
「あんたね、他人の家の庭を横切っているのですよ。家宅侵入罪だからね。訴えたらね、会社クビになるよ。うちはねちゃんと監視カメラをつけているから、誰が通ったかわかるんだからね」
 そうか、とSは合点した。自分が今いるところだけがライトアップされているのは、監視カメラに人を写すためだったのだ。でも、とSは思った。それじゃあまるで誰かがここを横切っていくことを期待しているみたいじゃないか。
「あんたみたいなのが多くてね、腹が立つよ、本当に」
 白髪の男はそう言い残すと、暗闇の中に消えた。

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