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『富士山ブック2024』東北の高校生の富士登山・取材インタビュー2021年参加:福地理史さん第2弾

2024年5月に山と渓谷社から刊行されました『富士山ブック2024』にて、「東北の高校生の富士登山」についてのご紹介いただきました。その中で過去参加者へのインタビュー取材を実施いただきました。今回は2021年に参加した福地理史さんのインタビューを2回に分けてご紹介する2回目です。

『富士山ブック2024』(山と渓谷社)

インタビュー:
福地理史さん(東京大学・2年生 19歳 / 東北の高校生の富士登山2021参加)

インタビュアー:
谷山宏典氏(執筆・編集)/佐々木 亨氏(山と渓谷社編集部)

東北の高校生の富士登山2021(富士山頂上・浅間大社前)

谷山宏典氏(以下、敬称省略)
:日本一の山として憧れがあった富士登山を実際に経験してみて、想像した通りに楽しかったのか?それとも意外にちょっと辛かったのか?など富士登山の思い出を教えてください。

福地理史さん(以下、敬称省略)
:登山中に僕は、軽い高山病をどっかのタイミングで発症していまして、経験上おそらく3400m前後かなと思うのですが、それぐらいでちょっと頭痛いな、、、その後もずっと何か頭痛いなと言う状態が続いていたなという記憶があるんですけど、東北だと高山病を発症できる標高の山がないので、それが初めての経験で“山でしんどくなれるんだな、面白いな!”というのは一つ感じましたね。
実は今も富士山にはよく登っているのですが、東北の高校生の富士登山で連れて行ってもらう側っていうのを最初に体験できたことで、登る側は自分のことでいっぱいいっぱいなんだなっていうことを身をもって体感しました。
今は、自分がガイディングをする側になって、登山未経験の高校生でも無理をすることなく楽に登れる美しいペース管理などを参考にしながら、今も富士山を登っています。
 
谷山:富士山でガイドをされているとのことですが、それはお仕事として?

福地:吉田ルートの8合目の太子舘ガイド会所属で、富士山ガイドをしています。
大学で東京大学運動会スキー山岳部(TUSAC)所属で、そこの先輩の紹介で太子舘ガイド会に入って、去年の夏からガイドをさせてもらっているので、富士山にはだいぶ行っています。
 
谷山:大学の山岳部に入られているということは、富士山のガイド以外でも、山は続けているんですか?

福地:かなり頻繁に山に行っています。
 
谷山:東京大学運動会スキー山岳部(TUSAC)は自由だから、個人個人が好きにできて面白そうですよね。
 
福地: 東京大学運動会スキー山岳部(TUSAC)は、本当に行きたいところがあれば、技量さえ見合っていれば行かせてもらえるので、すごくいい経験をできているなと思います。
谷山:富士山で出会った、人との繋がりからいろいろ得るものがあり、登山自体も楽しめたと感じている今の福地さんにとって、東北の高校生の富士登山を通じて学んだり、得られたものがあれば教えてください。

福地:結構大きなものとしては人生観が変わったことですね。
社会で一般的にイメージされるような、小学校入って、中学校入って、高校入って、大学行って、就職して、そこでずっと働いてみたいなレールがあるかと思うんですけど、自分もそういうふうに行くんだろうなと東北の高校生の富士登山に参加するまでは漠然と思っていました
しかし、富士登山に参加した後からは、180度考え方が変わってしまいまして、自分にはレール通りの生き方は合わなさそうだし、合わないからレールの外側を行ったとしても特に何も問題はなさそうだし、実際その方が楽しめる人間もたくさんいるし、何か人に感動を与えることができるんだろうな!ということに気づかされました
それもあって、農家になりたいとかって言い出したんだと思うんですけど、東大出て農家やることに対しては、「は?」っていう顔を結構されます。
それは全くもって“レール外”だとは思ってはいるのですが、その方が楽しいじゃんって思うんですよね。
富士登山後は、何でもやろうと思ったことはポンとやってみるということができるようになりましたし、本気でやるなら人と本気でぶつかって、本気の人間を仲間にしてということを田部井進也さんからから学んだので、それは自分も同じようにしていきたいなと思っています。
 
谷山: 富士登山に参加することで、価値観の逆転が起きて、そういう方向に向かうようになったのは本当にすごいことですよね。
 
福地: すごい影響がありました!もし行ってなかったら今こうは思ってないと思います。
 
谷山:東大で理科系に進むとしたら、研究職とか農学部でもバイオテクノロジーとか、そういう方向に行きそうなところを、東北の高校生の富士登山に参加したあとに自分が何をやりたいかということに向き合った結果、あえて農業の現場で自分の事業として何かをやるという方向に進んでみたい!という考えに至ったんですかね。
 
福地:富士登山は、すごいパワーがあるなと思いますね。
そこで得られるものは人それぞれだとは思うんですけど、それこそ田部井淳子さんがおっしゃっていた、「山は一歩一歩確実に足を前に進めていれば、そのうち山頂に着く」ということを身をもって体感できる場所だなと感じています。
富士山には技術的難易度が高い場所があまりないので、歩くという人間の基本的な機能だけで富士山登頂というすごいことを達成できる場所という意味もあって、ぜひみんな富士山に登ってほしいなと思っています。
 
谷山:富士山ガイドをしていると、自分は何度も富士山に登っているので、1度目と同じ感動を得ることはなかなか難しいじゃないですか。でも一緒に登っているお客さんはほとんどが初めての方で、新鮮な感覚で富士登山を楽しんでいる人の姿を間近に見ることが自分の喜びにもなる素敵なお仕事ですよね。
 
福地:そうですね、
それこそ僕がガイドを始めて1番最初の仕事の時に、体力の消耗が激しくて8合目でリタイアという形で帰ることになってしまい、1番上まで一緒に登れなかったお客さんがいたんですが、その夏の間、シーズンの終わるギリギリ9月頭ぐらいのツアーに、道中でそのお客さんが下ってくるのとすれ違ったんですよ。
あれっ、どうしたんですか?って言ったら、上まで行けました!って嬉しい返事が返ってきました。
シーズン中に1人でリトライするっていうことをなさったお客さんがいたことに、すごく感動して泣きそうになりました。
その方は、60歳を超えていて僕よりずっと長く生きていらっしゃる方ですけど、自分の目の前の富士山という場所で、自分とその人が関わって、富士山という場所でその人が成長したんだということを実感したときに、きっと東北の高校生の富士登山を運営する側って、こういう喜びもあるんだろうなというのを感じましたね。
 
谷山:田部井進也さんとはその後も連絡を取り合っているんですか?
 
福地:頻繁に何かやりとりするわけではありませんが、去年僕が高校卒業したときに進也さんに卒業報告とともに、これから大学でこんなことをしようと思っていますということをメッセージで送らせていただきました。
あとは、当時富士山で関わった皆さんのフェイスブックやインスタグラムをお互いにフォローしていたりするので、見かけたらよくいいね!を押したりするような繋がりはあります。

東北の高校生の富士登山2021(富士山頂上剣ヶ峰)

佐々木 亨氏(以下、敬称省略)
:福地さんは、高校で山岳部だったとのことですが、山を始めたきっかけを教えてください。
 
福地:山岳部に入ったきっかけとしましては、もともと中学では野球をやってまして、山をやった経験は、祖父と蔵王に登ったぐらいのもので別にやっていたわけではないんですけど、この部活に入ればどうやら毎月キャンプができるらしい!毎月テントで泊まって山に行ける校外学習みたいなことがいっぱいできるんじゃないか?と、結構子どもっぽい考えではありますけど、それを期待して入ってみようと思いました。
 
佐々木:高校で初めて本格的な山登りに接するようになって、大学でも山岳部に所属しているということは、経験すればするほど山がどんどん好きになっていったということでしょうか?
 
福地:皆さんよく分かると思うんですけど、まさに沼にはまるっていうような感じで、山でしか得られない空気であったりとか、体の疲れがただであったりとか、景色であったりとかっていうのが忘れられず、どうやら下に降りてきたらまた山に行きたいのが常になってしまったみたいで、どんどんのめり込む形でハマっていきました。
高校の時はそもそも部としては、県内では割と弱小のチームで大会ではあまり結果を残していないチームだったんですが、外の山、県外の山、東北じゃない山にも登りたいっていう気持ちからインターハイを目指そう!となり、部内でもずっと歩荷訓練などのトレーニングをしていました。
結局、あと0.1点足りなくて上位大会には進めなかったんですけど、そういう部活チックなこともしつつ山をやっていましたが、コロナ禍でテント泊ができなかったり、富士山以外で2000m、3000m峰に登る機会がなかったのもあって、大学でもっと登りたいなという気持ちがより強くなりました。
それこそ、僕は最終目標に剱岳を見据えていたんですけど、、そういう山に、より険しい山に登りたいという思いがあって、どんどん深めていった感じですね。
 
佐々木:本当に山が好きなご様子が伝わってきてました。
先程、この富士登山がなかったら、全然違う人生になっていたかもしれないと言われていましたが、それは高校生での経験だったからですか?
同じようなことが、例えば中学生とか大学生などの違う時期にあったとしたら、どこまで自分の人生観や思考の変化があり得たと思いますか?
 
福地:僕の考えとしては、どの時期にそういうことに接するかによって、変わり方は、全然違うと思います。
仮に今そういう大きく、価値観や考え方を変えるような体験を大学生としてしたとしたら、もしかしたらもう自分の将来についてのビジョンがより固まってきてしまっている状態で、あまり大きな変化が生まれないとか、あとは安定を求めるっていう気持ちが強かったりするのかなとも思います。
逆に中学生だったらどうかな?と考えた時には、君たちのために何人もの大人たちが、たくさんお金を使って本気でやってくれてるんだよって言われても、すごい!ってなって終わりだったかなとも思います。
その高校生っていうのが、きっとすごく絶妙な時期なんですよね
自分の将来がはっきり見えてるわけでもなく、はっきり見てるつもりだけど足場が固まってるわけではなかったり、ただちょっと大人なところもあって、周りの大人がどういうふうに普段動いてるのかが少しずつ見えてきていたり、あとお金っていうのも結構大事だと思っている時期でもあったりして、、、自分の年が上がるにつれて、自分の裁量で使えるお金って増えるじゃないですか。
だからお金を稼ぐのがどれだけ大変で、10万円というお金の価値がどれくらいなのかとか、そういうことが分かり始める時期が高校生だと思うので、だからこそ高校生で参加するというのは、インパクトとしては一番大きいんじゃないかなと思っています。
小学生だったら山登りって本当に楽しいな!で終わっちゃう気がするので、実際自分が山に感化されたっていうのも、高校生で山を始めたっていうのが一つの大きなきっかけだと思います。
自分の体力も有り余ってる時期なので、自分の限界突破を結構カバーできると思うので、だからのめり込みやすかったりもするのかなと思いつつ、そういう観点でも高校生を登らせるのは最適なんじゃないかなと思っています。
 
佐々木:ありがとうございました!素晴らしい!
 
 
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