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カマラ・ハリスとジル・バイデンのファッション解説。勝利宣言時の装いをテレビで解説。テレビ朝日グッドモーニング出演時に伝えた内容を詳しくエデュケーション。スーツやミディードレスの価格も。

米大統領選で当選確実となったジョー・バイデンと次期副大統領のカマラ・ハリスは、11月7日の夜、勝利宣言を行った。

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ハリスの演説は、特に世界中の女性達の注目を集め、エールを送られる結果となった。「私は初めて副大統領になる女性かもしれないが、最後にはならない。今夜これを見ているすべてのちいさな女の子たちが、アメリカは可能性の国だと理解するからだ」と熱く語る。
女性であり黒人であること、その事実背景をもってしてあらゆる分断や差別がなくならないアメリカだけではなく、世界に向けての勇気ある発言に誇りを感じた女性や子供達は沢山いると思います。もちろん、性別に関わらず、世界中の人々が、新しい風、未来を感じたことは言うまでもありません。そんな覚悟に満ちたスピーチをより価値のあるものへと後押ししたのは間違いなくこの日のカマラの服装だったと思う。

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ハリスが着用したキャロリーナ ヘレラ(Carolina Herrera)のスーツの色はホワイト。この白が意味するのは婦人参政権を象徴する“白”。歴史的意味合いが込められている。

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そしてジル・バイデンのドレスは。オスカー デ ラ レンタ(Oscar de la Renta)のもの。左右非対称、アシンメトリーなフローラル柄ドレスは、どちらも「移民デザイナーによるファッションブランド」である。

二人のファッションの共通点は歴代のファーストレディたちにも愛されてきた移民デザイナーの起用であり、その意味は
【ファッションで多元主義(複数の人種・宗教・政治信条などが平和的に共存している様子)を表現している。】
ここのポイントについては、私が語ったコメントの最重要ポイントになる。

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では、二人の服装についてそれぞれを詳しく解説していこう。

◆ジル・バイデン
オスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)のドレス

1、ブランドについて

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オスカー デ ラ レンタ(Oscar de la Renta)は1934年、ドミニカ共和国生まれ。母はドミニカ人で父はプエルトリコ人。18歳でスペインに渡り大学に通う。その後、マドリードの美術学校アカデミア・サン・フェルナンドで油絵を学ぶ。
63年、ニューヨークに渡り、エリザベス・アーデンのデザイナーに就任。ニューヨークのクリスチャン ディオールのデザインも担当。
65年、自身の名を冠したブランド「オスカー デ ラ レンタ」でブランドをスタート。シンプルなアメリカのスタイルに、ヨーロッパのエレガントなスタイルを融合。女性らしさ、職人技、時代を超越したスタイルを基軸に、ロマンチックなシルエットを提案する。複雑な刺繍も得意とし、特に世界の上流階級の女性たちから高い支持を得る。
その後、ソウル出身のローラ・キムがオスカー デ ラ レンタに参加。
2017年、オスカー デ ラ レンタのクリエイティブ・ディレクターに、ドミニカ共和国・サンドミンゴ出身のフェルナンド・ガルシアが就任。
2019年 2019年の夏コレクションより、スリープウェアラインがデビュー。最高級のシルクやレースの使用、また全てメイド・イン・イタリーといったこだわりを持つラグジュアリーピースとなっている。

2、着用したドレスについて、政近のエデュケーション。

勝利宣言時のミディードレスは韓国とカナダで育ったローラ・キムと、ドミニカ共和国とスペインで幼少期を過ごしたフェルナンド・ガルシアが共同でデザインした、2020年リゾートコレクションのもの。

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実際に売られているもの、であり、価格は約60万円。  
現在は完売であり、ジル・バイデンが着用したことで人気が上昇、ただ、歴代のファーストレディも好んで着用してきたブランドでありアメリカでは特にトップブランドとして安定感がある。

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ローラ・キムと、フェルナンド・ガルシアは、2014年に死去したオスカー・デ・ラ・レンタが長年に渡って築き上げてきたホワイトハウスとの関係を現在も引き継いでいる。ジャッキー・ケネディからミシェル・オバマに至りるまで、今後もホワイトハウス、政治家や各界のセレブの信用と人気を守り続けていくだろう。

デザインは左右非対称のアシンメトリーで軽やかな印象。アシンメトリーデザインはその動きがある裾ラインに目がいき、年齢を感じさせない美しい脚が自然に目に入る。若々しさをナチュラルに表現した。ブランドが得意とする花の刺繍は西洋・東洋が入り混じった花の種類が丁寧にちりばめられおり、華やかな印象の中にも世界中の人々の友好への願いが込められているのではないかと解説させて頂いた。

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またカマラが白を着ることを想定し、白以外の一歩引いた黒を選び、カマラ氏を立てバランスをとられたはずだ。白という色は、政治的意味合いもあるが色としては格式の上でも最上級。場面においては主役が纏う色であり、たとえ時期ファーストレディーであろう立場においても、政治的な瞬間にはスピーチを求められ、バイデン勝利に大きく貢献したカマラに花を持たせた。

また夫のバイデン氏と並ぶことを想定し、男性のスーツ姿とのバランスとしても黒は邪魔をすることがなく、地味にならない刺繍柄にて存在感を保ち、ファッションのセンスも感じさせた。

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◆カマラ・ハリス

キャロリーナ・ヘレラ(Carolina Herrera)のドレス

1ブランドについて

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「Carolina Herrera」は、母娘同名の2名のデザイナーによるブランド。1981年にニューヨークでデビュー。 母のキャロリーナ ヘレラは、資産家の娘として1939年ヴェネズエラに生まれ、12歳で渡米。13歳でクリストバル・バレンシアガのオートクチュールショーを観る環境に育つ。その優雅さとスタイルで80年代のベストドレッサーの一人として世に認識され、世界中の著名なカメラマン達によって写真に収められる。Vogueの編集長ダイアナ・ヴリーランドの支持を得て1981年に初のカプセルコレクションを発表。 86年にはキャロライン・ケネディのウェディングドレスをデザイン。4人の娘の母親であり、娘のキャロライナ・ヘレラ・デ・バエスは、1997年からHerreraのフレグランス部門のクリエイティブディレクターに就任。2001年にスタートした「CH Carolina Herrera」は、男性、女性、子供向けの既製服やアクセサリーを取り扱う。ライフスタイルに合わせ、カジュアルなスポーツウェアからドレスまで幅広く展開。2013年、銀座に日本初の直営店がオープン。2018年に引退後はウェス・ゴードンがクリエイティブデザイナーに就任した。

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2白いスーツとブラウスについて、政近のエデュケーション。

スーツはキャロリーナ ヘレラのクリエイティブ・ディレクターであるウェス・ゴードンが手がけた、2021年リゾートコレクション。ピークドラペルの白が眩しい姿だった。
ベネズエラ出身のキャロリーナ・ヘレラによって創設され、2016年に引退するまでの約40年に及ぶキャリアにおいて、ナンシー・レーガンやヒラリー・クリントン、ローラ・ブッシュ、ミシェル・オバマ、メラニア・トランプにいたるまで、数え切れないほどの服を提供してきている。歴代のファーストレディたちがこぞって愛用してきたことは有名で、この度は時期アメリカ発の女性副大統領からも選ばれたということになる。
女性の政治参加を象徴する「白」であることはヒラリー・クリントン(2016年大統領候補)
ジェラルディン・フェラーロ(1984年女性初副大統領候補)と同じ白であり政治的に大きな意味を成し、その思いを引き継ぐという覚悟を示している。
これまでのカマラの演説のファッションについては、
カジュアルなファッションやスニーカーを愛用など親近感とアクティブな印象であるファッションが主流。ジャケットやスーツ着用の際でも、インナーはブラウスよりカットソー、Tシャツタイプのものを好んで着用。

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服装を語られるよりも中身を見てほしい、私の主張をちゃんと聞いてほしいというカマラの戦略でもあったが、この日のカマラはその戦略を超えての新しい姿だった。
メディアが外見や服装を政治政策より先に注目することを嫌い、徹底した無難ぶりを貫いていたが、カマラが今まで服装で叩かれるような不始末を一度も起こさなかった、注目されることはあくまでも政治政策であることを強く賢く纏ってきたことは、無駄な敵をなくし本業に徹してこれた要因でもあった。しかしこの日ばかりは華やかさ、知的さ、希望や未来、女性の活躍、いや性別を超えた【今】を象徴するような装いだった。

価格は上下あわせて35万ほどである。ウエストラインをここまで絞ってはいないので別途オーダーなのでは?と思うが、同じブランドの同型で出されているものはこちら。

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歴史的な演説のなかで、インド系移民であった亡き母について
「母はアメリカでこのような瞬間が訪れることを深く信じていました。ですから私は今、母に想いを馳せています。そして同時に何世代にもわたる女性たち、黒人女性、アジア女性、白人、ラテン系、アメリカ先住民の女性たちのことを考えています。彼女たちが、我が国の歴史のなかで平等と自由と正義のために戦い、多くの犠牲を払ったことで、この瞬間への道が開かれたのです」
と語ったハリス、この思いが服装からも強く、そして晴れ晴れとに世界中に伝わったのではないだろうか。ただ、マスク着用が選挙に勝つための政策戦略だったわけで、この日もその象徴の黒マスク。ジルもカマラも同じマスク着用で政策が伝わった狙いはいいが、コーディネートの美しさとしては、黒いドレスを選んだジルに軍配。

カマラの黒マスクは全体コーディネートの中ではさすがに浮いている。このマスクが白と黒のコントラストを強め、褐色の肌とのバランスを少し崩してしまった。全員統一な黒マスクだっただけに、どうせ浮くのであれば、大阪なおみさんのような何かメッセージがあるものでも良かったのかもしれない。

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ジャケットの下に着用したリボンタイ付きのブラウスは、イエローよりのシャンパンゴールドのサテン生地が艶やかで、上質なシルク素材だと思われる。着心地、見栄えともに最高で、中心に結んだリボンはメンズライクなスーツに女性らしさをプラス。ブラウスのブランドはどちらのものか確定はできないがおそらく同ブランドのものかと。キャロリーナ・ヘレラが用いるシルクブラウスの品質はコストパフォーマンスを感じさせる感度のよいもの、と私は常々感じているが、このブラウスもそうではないか。
このボータイに対する解説は、弊社が主催するファッションレスキューアカデミア・スタイル&アート・ファッションエデュケーター学科で勉強中の、金子春美さんがエデュケーションしているので、ここに紹介することにします。

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ボウタイ(bow-tie)に宿る意志
女性初のアメリカ副大統領が期待されているカマラ・ハリス氏が白いパンツスーツで演説を行ったのは記憶に新しい。サフラジェット・ホワイトとも言われる白い色のスーツはカマラさんの笑顔を引き立て、人々の未来に光を灯した演説とともに世界から高評価を得ました。
爽やかな力強さを感じさせる美しいスーツと、やわらかく艶のあるブラウスの組み合わせが、カマラさんの深い人間性を感じさせ、蝶々に結ばれたボウタイがエレガントさを添えていました。
このボウタイ、 実は女性の社会進出の象徴とされている面もあるのですね。1960年代にイヴ・サンローランが女性のために「ジャケットとパンツ」をデザインし、ボウタイブラウスとパンツスーツの組み合わせが、オフィスにいる女性たちの役割を、サポート役から更に力強いものに押し上げました。
1970年から80年代には、女性のリーダーが出現します。たとえばマーガレット・サッチャー氏。「女性初の」イギリス首相です。パワードレッシングにボウタイを取り入れたセンスは抜群で、今でもファッション雑誌に特集を組まれるほど。
そして、サラ・ダニウス氏。2015年に就任された「女性初の」スウェーデン・アカデミー賞 の事務局長です。ボブ・ディランや、カズオ・イシグロが文学賞を受賞した時の事務局長を務められました。サラさんもまたボウタイブラウスをよくお召しになり、その凛とした姿がファッション雑誌に掲載されていました。
しかし残念な事に2018年にセクハラをはじめとする様々な問題で組織内に混乱をきたした事に責任を取り、辞任されました。
一連の辞任劇に対し多くの人がサラさんへの擁護を表明し、辞任に追い込んだ組織に対してはボウタイを結んだ姿を各々ツィッターに投稿することで抗議をしました。
#knytblusförsara
ある時はパワーを与え、ある時はフェミニンさを表現し、ある時は象徴となり、人々はボウタイに様々な意味を投影してきました。
カマラさんは演説をする前に、ボウタイを結びながら何を思ったのでしょうか。女性初の副大統領になる喜び、誇り。これから押し寄せる重圧に震えていたかもしれません。けれど、自分の意志を言葉で伝えようと決意を固め、ステージに向かったのでしょう。
ボウタイを結ぶ時は、何かを決意した時のような気がします。
決意とともに結ぶボウタイには意志が宿るのでしょう。
来年発売100周年を迎えるシャネル5番のCMにもボウタイが。。(ここまで金子春美、記)

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ボータイデザイン解説に付け加えるとするならば、ボータイには 繋がる 結ぶといった意味合いがあり、コロナによって人々がリアルな接触を避け、コミュニケーションの分断がおき、心は非常に不安定な状況を強いられた。孤独、不安で日本では自殺者も急増、人間が生きていくに一番重要であるつながり、温かみの欠如は誰もが感じている試練だ。そんな中、繋がりや温もり、結ばれるというイメージがあるボータイ、特にリボン型に結ぶ柔らかな仕上がりは包み込む母性のようなものも表現されている。私自身、普段はリボンデザインを好んで着るほうではないタイプなのだが2020年は何故かリボンをはじめ、ボータイ、メンズ用のネクタイまで日々ファッションに取り入れることが非常に多かった。結ぶ行為には何故か落ち着きを感じられる。また優しさだけではなく私自身は結びながらそこにいつも 何らかの意志を込める。はたしてカマラがそこまで考えて装ったかはさておき、こうした想像をもって演説を聴いている人間もいるということは確か。結び目を真ん中に納めたのも、安定感とジャケットを着るという想定での見栄え効果であろうと思う。

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最後に。

新型コロナウイルスによってさい大打撃を受けている世界中のファッション業界だが、史上初の次期女性副大統領とファーストレディという2人のスタイルアイコンを得て、ファッション熱が冷め切ってしまわない大きな希望になったはず。実際、パーソナルスタイリスト業に日々励む私自身、この二人のファッションを手がけるデザイナーの作品を、最も似合う二人の顧客に提案したことをはじめ、微力ながらも市場の潤い貢献させてもらった。着ていくところが今は無い、という風潮はわからないでもないが、たとえリモートであっても発信できる場はゼロじゃない。事実お二人とも、オンラインによるイベント登壇やHPリニューアル撮影に着用する洋服のオファーであり、【着ていく】用というより自身のプロデュース強化のための一着だったと思う。もちろん、いずれ着用なさって出かけられる日も訪れると思いますが、その際は、より人々を元気にし、装いの深さ、尊さ、楽しさを伝えてくれるだろう。

次回は、なぜ政近が、このブランドを選んだのか?を着用しているお二方のご紹介とともに解説したいと思う。どうぞお楽しみに。




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