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「子供」か「子ども」か? 漢字使用のルール考

PTAの役員になったら、細かい文章表記のルールが送られてきた……
という投稿がTwitterで話題になりました↓↓↓

ものすごい反響で、以下のようなご指摘(反論)がありました。

  • 「達」のつくりは、「幸」じゃない(「幸」より横棒が1本、多い)

  • 「御礼」と「お礼」は違うと思う

  • 「忙」は縁起が悪いから使わないってルールは、結婚式などの祝辞の話では?

なかでも、「子供」に関するご意見が多かったように見受けられました。
そこで、ここでは「子供」と「子ども」を通して、漢字のルールを考えてみたいと思います。


公用文では「子供」で統一

「子供」は「改定常用漢字表」(平成22年6月7日文化審議会答申)に載っているので、公用文では「子供」で統一します。

「改定常用漢字表」の検索結果

「改定常用漢字表」とは、「漢字で書く(ひらがなで書かない)語」の一覧表です(以下、「常用漢字表」と略します)。
これは、

⼀般の社会⽣活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使⽤の⽬安を⽰すもの

「改定常用漢字表」(平成22年6月7日文化審議会答申)

です。
つまり、「常用漢字表」の影響は、役所の文章だけではなく、教科書や新聞記事にも及びます。

ただし、「目安」であって「絶対」ではありません。
「子ども」と書いたからといって、その文書が無効だとか、違法だということではありません。

「公用文」といっても3種類ある

2022(令和4)年1月の建議「公用文作成の考え方」によれば、公用文とは、「国が発出するすべての文章」を指します。ただし、ひとくちに「公用文」といっても、以下の図の三つの分類があります。

(1)告示・通知等(例:告示・訓令、通達・通知、公告・公示) 読み手:専門的な知識がある人 (2)記録・公開資料等(例:議事録・会見録、統計資料、報道発表資料、白書) 読み手:ある程度の専門的な知識がある人 (3)解説・広報等(例:法令・政策等の解説、広報、案内、Q&A、質問等への回答) 読み手:専門的な知識を特に持たない人
「公用文作成の考え方」(令和4年1月7日文化審議会建議)より

この三つのうち

広報・解説等では、より親しみやすい表記を用いてもよい

「公用文作成の考え方」(令和4年1月7日文化審議会建議)より

とされています。

つまり、法律や条例など、「従わないと罰せられる」ような強い効力を持つものは、「常用漢字表」に従う必要があります。でも、それ以外の文章では、「常用漢字表に載っている漢字を、何が何でも使わなければいけない」わけではありません。

「供」の意味は「供える」? それとも複数?

「供」はお供えの意味があるから? この字を使うのはよろしくない……とPTAの「文章表記」には書かれています。そこで、辞書で調べてみました。

古語では、「供」が複数を意味する接尾語です(「古典基礎語辞典」大野晋 編/角川学芸出版)。

現代語では、「供」に複数の意味はありません。複数の場合は「子どもたち」などと言いますよね。

どうやら現代では、「子供」の「供」に実質的な意味はなく、固有名詞と同様の扱いになりそうです。例えば、「小田」の意味を考えれば、「小さい田んぼ」ですが、私は田んぼを持っていません。祖先は持っていたのかもしれませんが、「小さい田んぼを持っていないくせに、小田を名乗るのはけしからん!」と言われても困ります(笑)

そのため、「実質的な意味を持たない語」だからひらがなで書く……というのが、報道機関などが「子ども」と書く根拠であるようです(「明鏡国語辞典第二版」北原保雄 編/大修館書店)。

小田が使っている辞典(国語辞典は北原先生の直筆サイン入り♪)

国語のルールの自己矛盾

先ほどの建議「公用文作成の考え方」には、<常用漢字表に使える漢字があっても仮名で書く場合>として、<漢字の持つ実質的な意味が薄くなっているもの>と、書かれています。

「公用文作成の考え方」(令和4年1月7日文化審議会建議)より

一方で、「常用漢字表」に「子供」と書かれているのは、矛盾があるかもしれません。
「常用漢字表」も建議「公用文作成の考え方」も、国語の専門家会議(※)で作られたものです。

※文化庁所管の文化審議会に設置されている国語分科会の中に、国語課題小委員会があります。この委員会の構成メンバーは、国語(日本の国語としての日本語)の専門家です。具体的には、言語学者、国語の先生、各種メディアや書籍・出版業界の団体の方、作家など文学に造詣が深い方です。そのため、私は「国語の専門家会議」と呼んでいます。

こういった矛盾や問題は複数あって、現在、国語課題小委員会で議論されています。直近の小委員会では、以下のような資料がありました(私は傍聴しました)。

文化審議会国語分科会国語課題小委員会(第49回)(令和4年2月21日)より

「子供」表記についても、きっと、小委員会の委員の方々や文化庁国語課のご担当の耳にも入ることでしょう。

では、どう書けばいいのか? 何をよりどころにすればいいのか?
それは、「文章の種類によって判断する」ということになろうかと思います。
「公用文」(それに準ずるような「契約書」など)と、お客様にわかりやすく説明するための文章とでは、書き方が異なります。

  • 文章の想定読者は誰か?

  • その読者に読めるか? 理解しやすいか? 違和感を持たれないか?

こんなことを意識して、使い分けたいものです。
ちなみに、私は「子ども」と書きます。元公務員ですが、広報担当でしたから。法律や条令、契約書を書くこともありませんし(笑)

追記

こんなニュースが流れていましたー


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