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わきまえない男の怪フィーバー『麻薬王』

 初めて買ったプロマイドは千葉真一でした、じゅんぷうです。

「肉体-アクション-は俳優の言葉だ」と千葉ちゃんは言いましたが、ソン・ガンホは肉体もお顔もズルいぐらいに雄弁です。まずお顔のサイズ感です。パーツは半島的だけどそのスケールが大陸的。大地を支えるあの頬骨。すわった目。太く吊り上った眉。広大な大陸に埋もれるようなお口許。首はいつもちょっと前に出ていて、厚みのある背中にウエストラインから下は意外にシュッとした体形。だからシャツにベルトのスタイルが似合う。

 そのソン・ガンホ主演の『麻薬王』は1970年代の麻薬事件をモチーフにしたNetflixオリジナル映画。韓国経済が成長していく中で、一介の小悪党にすぎないイ・ドゥサム(ソン・ガンホ)が「台湾で安く原料を仕入れ⇒韓国でヒロポン製造⇒日本へ密売」という新ビジネスを確立させていく。日本からお金が入るうえ日本人ダメにしちゃうからこれは愛国心!と悪びれることなく、その名も「メイド・イン・コリア」というブランドのヒロポンをばんばん捌いていく(そもそも発明者は日本人なのだからこれも皮肉)、絶好調!な前半から、朴正煕大統領が暗殺され軍事化独裁政権vs民主化運動へと時代が大きく変わり、滅びの気配しかなくなる後半。昭和の人ならもれなく知ってる薬物防止のスローガン「人間やめますか?」が真実味をおびてきます。

 テーマがテーマだけにハッピーエンドはあっちゃいけないし、事実日本で蔓延した時代があるとはいえ、まあ<ダメ、絶対。>であることは大前提として。それでも前半のドゥサム・のし上がりパートは演じるソン・ガンホの『パラサイト』同様、小気味よいサクセスストーリー。まるで名峰の雪解け水で仕込んでいるからうまい酒ができるとでもいうように、釜山は水がいいからいいヒロポンが作れる、という言葉に納得して歯車が回りだすあたりも嫌いじゃない。

 ただ本当にこのドゥサムという男、おしっこ飲まされても、パンイチ逆さ吊りで拷問されても、腹を刺されても、びっくりするほどめげない。むしろ無邪気に次の手を打ちにいくのです。これをタフというの? ヤクなしでもぶっ飛んでいるし、いったいどこからくるハングリーさなのか…満州生まれで、父も祖父も殴り殺されたとは言っていたけど細かい心情や背景まで描かれてはいません。時代が生んだ怪物…とでもいうのでしょうか?

 政財界のステータス、ジョンア(ペ・ドゥナ)には「分をわきまえろ」と突き放されるかと思いきや心をつかみ、彼女の人脈でビジネスを広げ、ヒロポンで稼いだ金をあちこちに寄附しまくって地域貢献活動をする名士の顔まで持つようになったドゥサム。家族愛も深いこの男の根っこは最後まで謎でした。

 とにかく音だけ聞いてたら、それこそ千葉真一さまあたりがハッスルする東映アクションかなと思うような世界観。70年代歌謡やショッキングブルーの『ヴィーナス』、ジグソー『スカイハイ』がゴキゲンに鳴っている大フィーバーな前半と、シューベルトの『魔王』に憑りつかれていってしまう後半で、またまたソン・ガンホの恐ろしさを見せつけられた作品でした。

 ドゥサムにコネを与える悪女ペ・ドゥナ、熱血検事チョ・ジョンソク(昭和顔だったんだなあ)、ほかにもユ・ジェミョンなど脇もばっちり固められていたし、70年代のヤクザな男たちの髪型やファッションがツボでした。

 中でもいろいろな作品でよくお見かけするチョ・ウジン(『トッケビ』のあの人!)が演じた釜山最大の組織のボス、チョ社長が異様に色気があって異彩を放っていました。

※世界が変わった1980年、ソン・ガンホはタクシーへと乗り換えるわけですかね…





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