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Process-Based Therapy勉強会:第3章 The Extended Evolutionary Meta-Model

PBT勉強会の第2回が,2022年4月27日に開催されました!第2回後半では,Learning Process-Based Therapy の「第3章 The Extended Evolutionary Meta-Model」を扱いました。発表者は重枝 裕子さん (国立精神・神経医療研究センター),感想記事の執筆係は杉田 創さん (国立精神・神経医療研究センター) でした。


第3章 The Extended Evolutionary Meta-Modelの発表スライド

発表者の重枝 裕子さん (国立精神・神経医療研究センター) のご厚意で,発表スライドの公開に同意していただきました。下記より,登録なし・無料でご覧いただけます。

EEMMという,PBTの中核にありながらも初見では理解しづらいメタモデルについて,コンパクトにわかりやすくまとめていただきました。このメタモデルを臨床で実際にどう活用していくのだろう・・・先の章をぜひ読んでみたい・・・という気持ちになりました!

第3章の感想記事

担当の杉田さんに,感想記事をご執筆いただきました。「感想をできる範囲でまとめてくださいな~」とお願いしたところ,参考文献込みで,「これだけで1つの価値ある資料じゃん」というクオリティで仕上げていただきました。すごい。。。必読です。

自己紹介

杉田 創
国立精神・神経医療研究センター、認知行動療法センター
研究補助員

昨年(2021年)の9月にイギリスのヨーク大学(University of York)の心理学部を卒業(学士)したばかりの見習い生です。いまは認知行動療法センターでAIを用いた精神の超高精細ケアの研究に携わらせていただいています。『人間の苦しみの根源とは何か』に興味があり、いまはアクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)と関係フレーム理論(RFT)の勉強をしています。

Hayes 先生の本を読んでいると、HexaflexやEEMMのようにシンプルでキャッチーなアイディアが多く、文章の書き方も彼が掲げるビジョンやミッションにロマンを持たせるような言い方をしているなとよく思います。例えば、 “The end of the era for protocols for syndromes game” という一文もまるでスローガンのようで面白いと思います。Hayes 先生のこういう特徴が人気を集めている理由の1つなのかもしれないとも想像しつつ、楽しく勉強会に参加させていただいています。 

印象に残ったポイントについて

進化論的な観点について
3章で導入されたVRSCDLの観点はPBTの最も特徴的で新奇的な要素でした。私は「複雑な生物心理社会的メカニズムの根底にはシンプルな法則がある」というアイディアに惹かれて担当を希望させていただきました。初めは進化論的なアプローチは統一的でダイナミックにプロセスの維持と変化のメカニズムを説明できるかもしれないと思っていたのですが、読んでいるうちにHayes & Hofmann先生たちがなぜ進化論的アプローチを選択したか、そしてVariation, Selection, & Retentionの分析を行う意義について説明が少なかったような印象を受けました。

私なりに考えたのは、この進化論のアプローチというのはつまり、人のプロセスも動物行動のようにVariation → Selection → Retentionの順番で処理され、その中で保存と淘汰を繰り返すため、セラピーでも注目される問題維持の機序や新たな学習、あるいは行動や認知などの変容に関しても同様に考えられるということでした。また、ABC分析が強化(Retention)に着目しているのに対して、VariationとSelectionにも目を向けることによってより丁寧に維持と変容可能性について理解できるのかもしれないと考えました。これに基づいて介入を考えた場合、例えば、はじめから適応的な行動を導入して練習・強化するのではなく、まず自然とそのような行動が発生しうるようなVariationを導入するところから始めることが効果的であるケースがあるかもしれません。「現在にとどまる」マインドフルネス(注意)のプロセスは情動や認知のVariation を高めるため、クライエントはその方が自然と新たな学習や行動の練習ができるかもしれません。本にはこのようには書かれていませんでしたが、こうやってプロセスの問題がVariation, Selection, & Retention のどの段階にあるかを分析することで、問題となっているプロセスに対してどのようなアプローチが最適かを考えるのに役立つのではと考えました。また、ネットワーク上でプロセス間を繋げる矢印の関係性をより詳細に捉えるのに役立ち、先の例のように戦略的にどのプロセスをどの順番でターゲットとするかを考える判断材料にもなるのかと考えました。

文脈について
もうひとつ、気になった点は『文脈』の位置と役割づけでした。Hayes 先生は本家PBT Book Club で “Variation selection and retention has to always be context bound because nothing is successful everywhere” (第1回;00:45:57)と話しており、進化論的アプローチもニッチや状況などという文脈が適応/不適応を定義づけるためなるほどと思いました。そこから、具体的にはPBTでもACTのように細かい出来事の時系列をたどって細かい機能分析をするのかと思ったのですが、128ページ(Action Step 7.1)のEEMMの記入例では学習歴や強化について記載されていたので、様々なオリエンテーションから来る臨床家に対して抵抗がないように本には記載したのかもしれません。

考察

心理療法の統合としてのPBT
統合療法のアプローチは大別して共通要因・技法折衷・理論統合・同化的統合アプローチの4種あるそうです(Lazarus, 2005)。PBTはこの中でも技法折衷に分類されると思うのですが、系統的脱感作法の発案で知られるWolpeとLazarusが少し似たことをしていたということを勉強会後に知りました。彼らが提唱したMultimodal therapyでもEEMMのDimensionsに似た、行動や情動など7つの「モード」に沿ってアセスメントを行い、各モードに対して効果的である技法を選択することでクライエントに最も適した手続きを活用することを目標としていたそうです(図1)。ただ、技法折衷アプローチそのものが技法中心であるがために、適応されるものが認知・行動療法的なものが多かったそうです。この点においては、PBTもプロセスやモデルが満たすべき基準が厳しく定められており、全てのオリエンテーションが受け入れやすいわけでは恐らく無いのかと思います。また、Multimodal therapyもEEMMも選択されたDimensionsが恣意的に感じる臨床家もいるのではないかと考えました。治療同盟やMultimodal therapyの「イメージ」モードのようにEEMMには含まれていないものもあります。DSMの代替としてPBTのアプローチが成功するためには十分に普及し受け入れられる必要がありますが、実際に様々なモデルがどのようにEEMMに代入できるのでしょうか。この勉強会でひととおり本を読み終わったら、様々なモデルをPBTの枠組みに組み込んだらどうなるか一緒に考える時間があっても面白いかと思います。

図1:https://www.getselfhelp.co.uk/multimodal-therapy/

Nomothetic prototype
機能分析の10のステップに度々 “nomothetic prototype” という言葉がありました。言葉から察するにこれはつまり、プロセスのネットワークもしくはEEMMをパターンごとに類型化するということでしょうか。だとすると、これがまさにDSMやICDの代替となるプロセスに基づく診断マニュアルになるのかとおもいますが、これならば、症状を恣意的に分類するよりも、クライエントの問題の予測と影響を補助するヒューリスティックとしてより役立つと思います。特に、ネットワークに時系列的情報を組み込むことができるのならばなおさら臨床的な判断に有用とは考えられます。

 しかし現実問題として、現時点ではプロセスに基づくケースフォーミュレーションはアナログに行う方法しかないため主観的にならざるを得なく、他の測定方法にするとしても尺度・頻度・モダリティなど様々な問題においてどのように合意をとっていくのでしょうか。プロトタイプの分類をどう行い、その数が結局恣意的にならざるを得ない恐れもあると思います。また実用的な側面においてもDSMは疾病と健康の二元論であったため、保険会社や医療機関が扱いやすかったというメリットもあります。また、RCTの除外基準も明らかでした。もちろん、ACTのようにプロセスに基づく介入であっても診断ごとのRCTを行う意義はあるとも言えるかもしれませんが、その場合は何に基づく診断カテゴリーを用いるのかが重要となるのでしょうか。プロセスに基づく診断を採用する場合はやはりプロトタイプの範囲と妥当性をどう定義するのかが議論のポイントになるのかもしれません。Nomothetic prototypeは作ることができたら、臨床的には役立つであろうアイテムですが、いざ作成と運用となると課題が多いので、これからどのようにアプローチしていくのか、RDoCやHiToPどどのような相違・類似が見られるのかが楽しみです。

参考文献

Hofmann, S., Hayes, S., & Lorscheid, D. (2021). Learning Process-Based Therapy: A skill training manual for targeting the core processes of psychological change in clinical practice. Context Press

Hayes, S., Hofmann, S., & Stanton, C. (2020). Process-based functional analysis can help behavioral science step up to novel challenges: COVID - 19 as an example. Journal Of Contextual Behavioral Science, 18, 128-145. doi: 10.1016/j.jcbs.2020.08.009 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7445588/

Hayes, S., Strosahl, K., Wilson, K. (2011). Acceptance and Commitment Therapy, Second Edition: The Process and Practice of Mindful Change 2nd Edition. The Guilford Press. New York.

Lazarus, A., (2005) Multimodal Therapy. In J. C. Norcross & M. R. Goldfried (Eds), Handbook of Psychotherapy Integration, Second Edition, (pp 105-120). Oxford University Press.
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次回勉強会の告知

第3回の勉強会は,2022年5月下旬に開催予定です。

PBT勉強会にはいまからでも新規にご参加いただけます。会の主旨や参加方法については,下記のnote記事をご確認ください。


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