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泣きながら食べたカントリーマアムの味

休日、散歩の途中でコーヒーを飲もうとコンビニへ寄った。コーヒーを飲みながら公園のベンチで読書でもしようと思ったからだ。

平日の昼時もあって昼食を買い求めるレジへの列ができていた。コーヒーだけなのですぐさま列に並んだ。レジの順番を待つ列はお菓子コーナーに並んだ。そこでふと懐かしいお菓子が目に止まった。お菓子を食べない私には「まだカントリーマーム売ってるんだ」と懐かしく思えてと同時な淡い思い出が鮮明に思い出された。少しボーッとしていたのだろう後ろの作業員風の男性がめんどくさそうに「兄さん、前!」「あっすいません!』ととっさにカントリーマアムを手にとってしまいそのままレジでコーヒーを注文してコンビニを後にした。

近くの公園のベンチに座り、コーヒーを一口飲んだ。カントリーマアムの袋を眺めながら・・・私がお菓子を食べなくなったのはこのカントリーマアムのせいだ。高校卒業以来25年ぶりに袋を開けた。一口頬張ると自然と涙が出てきた。「京子ちゃん・・・」


私の高校生活は華々しいモノだった。私服の公立高校に通っていた私は同学年からの人気者で友達が多かった。先輩からも可愛がられ後輩からは慕われていた。周りにはいつも沢山の友人がいた。ある日友人の中の一人が私の家の近所の塾へ通っているというので大学へ進学するか迷っていた私を塾へ誘ってくれた。とりあえず見学に行ったら一クラス6人程度のこじんまりした教室だった。一番前の席で見学の授業を受けた。参考書を持っていなかったため後ろの方に見せてもらう事になった。後ろの席の方は今まで私が接して来なかった知的な色白の女性だった。一瞬で興味をそそられた。どこの箇所を勉強しているのか微笑みながら教えてくれたが私は参考書を指差すその姿と指先から見が離せなくなった。休憩時間に勇気を持って話しかけてみたらなんと同じ学校だというのだ。私は面識なかったが彼女は私のことを知ってくれていた。なぜ今まで彼女の事を気付かなかったのだろう…後悔した。次の日、学校の廊下をいつものように沢山の友人達と燥ぎながら歩いていると塾での彼女が友達と話しているのが見えた。何気なく通り過ぎようとした時に彼女は「おはよう」って挨拶をしてくれた。とまどいながら「おはよう!昨日はありがとう!」上手く言えたか分からないが挨拶を交わした。たまらなく胸が締め付けられた。当日の私は学校中の女性から距離を置かれていた。何人かの女性とお付き合いをしたがしっくりこないって理由だけで別れたりしていた。勝手に軽いとレッテルを女性から貼られていた。だから余計に男性からは人気者だった。
どこか地味目でガリ勉風の彼女は京子ちゃんと言うらしい。できるだけ京子ちゃんと時間を過ごしたいって思い親に塾へ行きたいと伝えると親は喜んで月謝を出してくれた。何か勘違いしていると思う。
それから学校でも塾でも京子ちゃんと過ごす時間が増えた。学校では京子ちゃんが居そうな教室の前をわざわざ歩いて偶然を装ったりして挨拶を毎日のようにしていた。
知り合って3ヶ月ぐらいの頃球技大会が行われた。昼休憩の時に学食へ行こうしていると京子ちゃんと偶然会い「学食行くの?」なんて返せばわからず「腹減ったからねー」すると京子ちゃんが持っていたお弁当袋を突き出して「一緒にたべる?」聞き間違いかと思い「えっ?なんて?」赤面しながらか「お弁当作りすぎたから一緒に食べてほしいな」って…二人赤面しながらか微笑んだ。おにぎりに玉子焼き、ウインナーなどシンプルだけど嬉しくて頬張った。「京子ちゃんどこの大学行くの?」「誕生日はいつ?」とかたわいない会話をしたつもりが質問攻めになっていた。楽しい昼休憩が終わろうとした時に京子ちゃんの友人が来て「京子大丈夫?この人には近づいちゃダメだよ!」余計なことを言う女の連帯感ってやつかぁ…「みんなが思ってるような人じゃないよ?」まだ私をよく知らないのに京子ちゃんはかばってくれた。
頭のよかった京子ちゃんにお願いして塾の始まる前や昼休みに勉強を教えてもらった。勉強はあまり頭に入らなかったが距離は縮んだ。白い服が良く似合う透き通った肌に首元にあるホクロも全て愛おしく思えた。
テニス部だった私は高校最後の大会に備えて部活も頑張っていた。そんな私に京子ちゃんは流行っていたミサンガを作ってくれた。切れると願いが叶うと言うが絶対に切れて欲しくなかった。ミサンガにはこんな淡い学生生活がずっとは続くとは思っていなかったが永遠に続けばと願っていた。
お互い付き合うとかこれ以上とかは求めていても今の幸せな時間を無くしてしまうのが怖く前に進まなかった。手を繋ぐこともなく高校3年の日々が流れた。
私の高校は最終登校日がバレンタインデーで卒業式はホワイトデーとなっていた。高校を卒業したら別々になってしまうのが怖かった…でもこれ以上の勇気も無かった。
高校最後のバレンタインデーに京子ちゃんが放課後時間作ってと伝えて友達のところへ走り去ってしまった。期待に胸が膨らみドキドキがとまらなかった。
放課後、友達から後押しされた京子ちゃんが私の所へ来て「チョコレート嫌いって言ってたからクッキー焼いたの。食べて」大人ぶりたくて格好つけた私はチョコレートが嫌いって言っていた。確かにクッキーのほうが好きだ。「ありがとう!今食べていい?」恥ずかしそうに目を合わせないでうつむきながら頷く京子ちゃん。たまらなく可愛かった。京子ちゃんが作ってくれたクッキーを一口食べるとグニュって食感がした。クッキーならサクってするはずが柔らかい食感だった。「どう?」私は食感がびっくりしたのと物凄く照れくさくて「なんか柔らかいね…ツバでもいれた?」   
   終わった…  完全に終わった…
次の瞬間ビンタをされて友人のところへ泣きながら走り去る京子ちゃんはあんなに足が早いとは…
なぜあんな事を口にしてしまったのだろう…反省と後悔でその後のことは覚えていない。それから1ヶ月後の卒業式まで会うことも話すこともなかった。卒業式当日、花束を持って謝ろうとしたがなかなか京子ちゃんに近づけない…友達がガードしていた。最後、校門を出る時に花束を渡そうとし近づいたら「もぉ京子のこと放っておいて!」と友達に罵声を浴びせられた。こうして渡すことの出来なかった花束と卒業おめでとうの言葉は宙ぶらりんになった。

私はその後、友人に教えられて新しいソフトクッキーと言うジャンルがある事を知った。カントリーマアムをその日死ぬほど食べた。泣きながら…

京子ちゃん元気にしていますか?あの時はゴメンね。でもありがとう!


ここまで読んでいただきありがとうございます。あなたにもきっと1つは大切な思い出のつまったお菓子のストリートがあると思います。よかったコメントで教えてぐださい。

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