「タマゴサンド」に教わった事①
社会人になってやっと乾杯の意味がわかった…
あれは二十代半ばの頃、私は老舗の喫茶店で働いていた。元々は居酒屋のグループに入社したので居酒屋が勤務地だと思っていたが入社すぐに喫茶店のキッチンの社員が退社することになったので新人である私が配属された。
キッチンの仕事の右も左も分からない私は一週間で引き継がなければならなかった…発注業者も全て…
メニューすらしらない状態で退社する先輩は何も引き継いでくれない。何やら会社との間に問題があったみたいだ…でもそんなの私には関係ないのに…
そうこうしている間に先輩は退社し取り残された私は何をすればいいのか…店長に相談していくつかあるメニューの中で一番人気のあるモノを教えてもらった。
それは「タマゴサンド」だ!オーダーが入ってから朝に店でスライスした食パンにマヨネーズを塗り年季の入った鉄のフライパンでサッと玉子焼きを作りサンドしたフワフワトロトロの「タマゴサンド」。確かに人気があるのも頷ける。
店長にお願いをして今日からメニューはドリンクとタマゴサンドだけにしてもらった。他には手が回らない…ってかわからない。朝から夜までひたすらタマゴサンドを作り、閉店後も残って納得のいくタマゴサンドを作り続けた。そんな日々が続いたある日、常連さんが「タマゴサンド美味しかったょ」と声をかけてくれた。たまらなく嬉しかった。少し裏で泣いてしまった。そんな私を微笑ましく見つめていてくれた店長に気づいた。私もいつかこんな店長になりたいって本気で思えた。
いつの間にか「タマゴサンドの美味しいお店」として世間から認められる様になっていた。徐々に前にあったピラフとかメニューに戻していったが「タマゴサンド」しかオーダーが入らない。
そして人気店になった喫茶店の店長は売上も伸びて出世で大型の居酒屋へ転勤になった。
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