ウイスキーのソーダ割り① 『ジャック・ダニエルのソーダ割り』
カランっカランっ
『いらっしゃいませ!』
『ひたりだが構わないかい?』白髪の髭、白髪のオールバック、恰幅の良い老人が訪ねてきた
『どうぞ!お好きなカウンターへ』
しばらく沈黙があり緊張した時間に我慢ができなかった私は『何になさいますか?』
『ウイスキーのソーダ割りお願いします』
私はフリーズした・・・そして味わったことのない緊張から指先が少し震えた。
震えをとる為に水道で一度手を洗い手をほぐした。
ウイスキーのソーダ割りとはハイボールに似ているが全く違う!しかもたくさん種類のあるウイスキーの銘柄を指定してこないってことは店のチョイスを試される。このオーダーは店の器量と技術が試される。
私は磨き上げたグラスに氷を入れ、ステア(かき混ぜ)し溶けた氷水を流し炭酸を注いだ・・・そこにジャック・ダニエルをゆっくりと注いでそのまま提供した。
私がソーダ割りを作っている間ずっと老人は腕を組んで眺めていた。
『どうぞ!』もう私にできる仕事はこれ以上ないってぐらいに長年バーテンダーをやってきた技術を提供した。
老人はまだ腕を組んでいる。
提供されたソーダ割りに手をつけずにずっと腕組みをしている。
そして、しばらく経ってグラスの中の氷がカランって甲高い音を立てて崩れた。
パン・・・パン・・パン・ 老人は拍手をゆっくりしてくれた
『いただきます。』
老人は一口飲んで私の目を見て『感動しました。いくつかお伺いしてもいいですか?』
『はぁ・・・』安堵のため息混じりの返事をした
『なぜジャック・ダニエルでソーダ割りを?』
『私はある程度の使命感を持ってバーテンダーの仕事をしています。全ての人にウイスキーの美味しさを解ってもらいたくて・・・はじめに飲むならバランスの良いジャック・ダニエルだと信じてお任せされた時はいつも使っています。』
『どこでこのソーダ割りを?私の知っている限りこのようなソーダ割りを作る方は一人しかいません。その方は今沖縄で暮らしているとか・・・。』
鳥肌が立った。こんなに味のわかる人がいるなんて
『そうなんですか・・・私はいろんなところで勉強させていただきましたから・・・。』
答えを濁した。なぜなら当たっているから・・・師匠との約束もあり修行した場所を伏せた。
『今から部下を呼んでもいいですか?近くで仕事をしているので呼んでやりたいのですが』
『もちろんです。ぜひ』
しばらくすると五人の年齢もまちまちの方々が来店された。
『社長!嬉しいっす!』
『初めてですよ!社長の飲みの席に読んでいただいたの』
『さぁ注文しなさい』
『社長と同じものをお願いします』
言われたとうりに老人と同じものを同じように5人分提供した。
部下たちも老人と同じようにソーダ割りを見つめ飲まずに時間をおいた・・・カランっ
「社長が初めて呼んでくれた意味がわかりますよ』部下たちも絶賛してくれた。
一番若手の部下の方が『今度ジャック・ダニエルのキャンペーン用にカクテルを作ってくれませんか?』もちろん喜んで引き受けることにした。
『あの〜社長さんってどっかで見たことあるのですが何者ですか?』何か雰囲気と言うか人物像なんかが知っている気がしたので若手の部下に訪ねてみると
『レモンハートって知っていますか?あの題材になった方で近くでウイスキーワールドって雑誌を作っているんですよ』
レモンハートはラム酒の名前から取ったバーの話を漫画にしたバーテンダーなら知っている人の多い話だ。お酒の知識が詰まっていてものすごく勉強になる漫画。
そしてウイスキーワールドは日本唯一のウイスキー専門誌。そんな人たちに認められたとなると嬉しすぎて震えすら覚える。
老人である社長が「やはり沖縄におられましたか?』
「ん・・・うん・・・』そう私は昔、沖縄で半年ほど生活していたときに師匠と運命的な出会いをし、たくさんの勉強をさせていただいたことがある。
そんな師匠との出会い・生活の話は『沖縄の中の沖縄』編へと続く
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