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SUMMER SONIC 2024

2024年8月17日(土)・18日(日)

千葉マリンスタジアムと幕張メッセで「SUMMER SONIC 2024」。

ジョン・バティステとピンクパンサレスが事前にキャンセル。さらに台風の影響で前日になってイ・ヨンジもキャンセルに(韓国の出演アーティストで唯一いま観たい人だった)。自分が観たいと思っていたうちの3組がキャンセルとなったこと、わけても前回の単独来日公演がミニマルな編成だったジョン・バティステは今回は恐らくフルバンド編成だろうとかなり楽しみにしていただけに痛かった。フジロックはSZAのキャンセルが物議を醸したが、僕にとってのフジは極端な話、誰が出ようが行く価値のあるもの。そりゃSZAが発表されたときは「よっしゃー!」と思ったし、キャンセルは残念だったが、一組の出演がなくなったからといって大騒ぎするほどのことではなく、SNSで「だったら行かない」だの「払い戻しの対応をしろ」などと騒いでいた人たちの気持ちは理解できなかった。僕にとってフジは誰々を観たいからと行くフェスではなく、あの場所で4日間過ごすのが特別だから、あの場所・あの時間がかけがえのないものだから毎年行かずにいられないフェスなのだ。それに対してサマソニは観たいアーティストがいるから行くフェスであって、マリンスタジアムやメッセで過ごす時間が特別好きというわけではない(ビーチは別)。まあそう言いながらも当たり前のように毎年行っているので、コロナ禍の中止を経て開催されたときには「ああ、ここに帰って来た」という感慨もそれなりにあったけど、やはりフジと違ってサマソニは観たいアーティストが少なくなるほど行く意味が薄れていくものではあったりする。

あくまでも僕の価値基準と趣味性からの話だけど、フジがいつも通り観たいものが多すぎてカラダがひとつじゃ足りません状態だったのに対して、今年のサマソニはそこまで観たいものが多かったわけじゃなく、ましてピンクパンサレスやジョン・バティステのキャンセルもあったので、タイムテーブルが発表されて観たいものに印をつけてるときに「あら、こんなもんか」とはなった。アイドルまたはボーイズorガールズグループ、またはK-POPばかりじゃないか、なんてことを言いたいわけではない。そうした旬ものと洋楽アーティストを混在させることでサマソニは勝ってきた。そういうごった煮フェスとしての面白さと価値がある。ってことは十分承知している。

ただ、ごった煮でありながらも、今年は明らかにアイドルまたはボーイズorガールズグループ、またはK-POPにものすごく力を入れたラインナップで、その分ハジかれてしまった種類のものがいろいろあったなと感じた。例えばEDMものがほとんどなかった。アジアも韓国のグループがずいぶん多いのに対して台湾のアーティストの出演数はこれまでより減っていた。それから邦楽・洋楽共にベテラン・アーティストの出演が極端に減っていた。自分的にはこのことが何より残念だった。邦楽なら、例えば去年はまだ高中正義とか鈴木雅之がビーチステージでやって動員もけっこうあったものだけど、今年はそうしたベテラン枠が完全に切り捨てられてしまった。大ベテランだけでなく90年代・2000年代くらいから活動している40代くらいのアーティストですら今年はほとんど姿がなく、そうしたアーティストのいいライブをちゃんと見せようという気概はサマソニにはもうないのだなと感じた。洋楽なら数年前には例えばジャクソンズだったりアース・ウインド&ファイアーだったりが盛り上げたり、ビルボードライブとのコラボ・ステージ(テント)があってそこでシェリル・リンのようなベテランが歌ったりもしてたわけだけど、今はもうそういうものも望めない。旬のアーティストと長くやり続けているアーティストの両方を同時に楽しめるのが数年前までのサマソニのよさだったのだけど、今は旬のアーティストを観るためのフェスというほうに完全に舵を切っている(だからこそそんななかでクリスティーナ・アギレラの出演は意味があったと自分は思いたい)。

僕にとっての今年の心のヘッドライナーは2007年の武道館公演以来17年振りのクリスティーナ・アギレラだったのだが、音源をとても気に入っていてライブを観たいと思っていた若いアーティストも何組かいた。具体的に名前を挙げるなら、レイヴェイ、オリヴィア・ディーン、タイラだ。それと初来日時にインタビューしてライブを観てから捉え方が変わったオーロラ。今年絶対に観たいと思っていたのは、しかしこのくらいで、あとは2年前のサマソニで最高のライブを見せたマネスキンが今回はどうかというのをこの目でしかと確認したい…というくらいだった。

レイヴェイやオリヴィア・ディーンやタイラのような、まさに今!といった女性アーティストがこうして何組か決まっていたから今年も2日間のチケットを獲ったわけだが、やはり去年と比べても観ないわけにいかないアーティストの数がはっきりと減っていた。経済的な要因とかほかにもいろいろあって洋楽アーティストを昔のようにフェスに呼べない、といった昨今の事情は承知しているつもりだが、ここまで若い子向きだったりファンダムの大きなアーティストだったりばかりでかためるのではなく、もう少し中堅・ベテランの、目に見えて売れてはいなくても間違いなくライブで力を発揮するアーティストを(以前のように)うまく散りばめてくれたらいいのに、という思いには今年はなった。フジに比べてフェスとしての新陳代謝ができていると評価されることの多いサマソニだけど、でもどうなんでしょ。若い人をたくさん集客してソールドアウトとなるように旬のアーティストばかりでかためるというのも、ある一線を超えたらフェスとしての意味が損なわれるし、つまらなくもなるし、四半世紀近くの歴史あるフェスなのだから以前のよかったところをもう少し残しながら続いていってほしいなと、まあそんなことを考えたりはした2024年のサマソニだった。

ただ、少なくとも僕が観た洋楽アーティストに関して言えば、そこに集まっていた観客の熱量は総じて高かった。それは嬉しかったことだ。マネスキンはスタジアムがビッシリ埋まっていて席を探すのに苦労したし、タイラもマウンテンを満杯にしていたし、ブリーチャーズもレイヴェイもオリヴィア・ディーンもオーロラもそこに集まった人たちの熱気・熱量は自分が想像していた以上のものだった。なので、洋楽離れというよりは、総体としてアイドルや若いボーイズorガールズグループ、K-POPなどのファンダムの大きさが今年は特に目立ってしまっていたというだけなんじゃないかと思ったりもする。

と、先に総論めいたことを書いてしまったが、ソニマニからの2日間半、今年も楽しかったのは間違いない。それはサマソニ初日のあとのホテル近くの居酒屋時間とか(サマソニあとのビールと刺身は美味しんだ、本当に!)、サマソニ2日目朝のホテルのビュッフェ時間の充実を含んでのものではあるけども。

以下、観たアクトについての感想を。

8月17日(土)

16時20分始まりのレイヴェイまではどうしても観たいというものがなかったし、ソニマニでカラダが疲れてもいたし、何よりこの日は台風一過でとんでもなく暑かったので、昼はビュッフェしたりホテル近くの喫茶店でゆっくり過ごしたりして、だいぶ遅めに会場へ。今年の自分内テーマは「無理をしないサマーソニック」。以前のようにガシガシ歩き回ってあれこれ観るのではなく、絞って観るというふうにした。

観たのは以下の通り。

レイヴェイ→ブリーチャーズ→GLAY(3曲くらい)→マネスキン。

なんと、たったの4組(ちゃんと観たのは3組だけ!)。数年前の自分からしたらありえない少なさだが、それでもちゃんと観た3組がどれも素晴らしかったので十分満足した。

レイヴェイ。ジャズスタンダードやミュージカル音楽をたんまり吸収&参照して育ったのだろうことは彼女の音楽を聴けばわかることだけど、音楽性だけでなく実際のステージでもジャズスタンダード歌いのような声の出し方ができるし、可憐なだけでなく低い歌声の響かせ方も思った以上に強くて巧く、ヴォーカルに幅があるのを感じた。曲によってはミュージカルシンガー的な側面も見せ、将来はミュージカルの曲を手掛けて自分も歌ったらいいだろうなと思ったりも。そういった意味で上白石萌音さんにも通じるかな。ファンタジックな映像も彼女の音楽世界にピッタリ合い、歌唱表現とのいい相乗効果を見せていた。サマソニで彼女のようなシンガーはどうなのか、アウェイじゃないかと思っていたが、そんなことはなく、先にも書いた通り観客の熱量がかなり高かったのも嬉しかった。ただこの日のメッセ内は湿気がすごくて、前のほうで観ている間、ずっと汗がダラダラ。ブルーノート的な会場はさすがにもう無理だとしても、次は冬に席ありの会場(できるだけ音のいいホール)でじっくり味わいたいものだ。

↑柳樂光隆さんによるインタビュー。彼女の音楽観と、どういった場所でどう音楽を届けていきたいと考えているのかがよくわかる内容。

ブリーチャーズ。音源を聴きこんでいたわけじゃなく、正直そこまで期待していたわけでもなかった故に初めは後ろのほうで観てたんだが、2曲目で思わず前のほうへと走りだしてしまった。ライブバンドとしてめちゃめちゃかっこよくて吃驚した。曲構成もアンサンブルのあり方もさながらブルース・スプリングステイーン&ザ・Eストリート・バンドみたいで熱くなってしまったのだ。それ、サックス吹きがバンドにいるからというのももちろん大きいが、それだけじゃない。タンクトップのジャック・アントノフの盛り上げ方やらにもスプリングスティーン愛がはっきりと感じられた。因みに最後の曲ではダブル・サックスで、メンバーがひとりまたひとりと去るなか最後までサックス奏者のひとりが残って吹き、その様子はニューオーリンズ・ジャズの路上感覚を想起させるものでもあった。最高のライブバンドじゃないか!

GLAY。初めてライブを観た。これ知ってる!っていう曲がどんどん出てくる。聴いたことのない曲でさえ、知ってる曲のように思えてくる。そういうシグニチャーがメロディ展開にあるのだから強い。スクリーンに歌詞が映されるのは、明朝体の文字がカラオケ屋さんっぽくもあったけれども、僕程度の聴き手でも一緒に口ずさめるのだから親切でいいじゃないかと思った。

マネスキン。多くの人が言ってる通り、去年の単独公演よりずっとよかった。最早伝説とも言えるサマソニでの衝撃的なライブからわずか2年で、スタジアムバンドとしてのあの貫禄。生み出すあの興奮。2024年のヘッドライナーにあまりにも相応しかった。メンバーひとりひとりがパワーアップしていたが、わけてもトーマスのギタリストとしての覚醒度合いが著しかった。そして4人が4人、常に尊重し合いながらプレイしているのがいい。あらゆる意味で無敵。そしてあり方が現代的。スタジアムバンドのロックの興奮を2024年に満杯のマリンスタジアムで得られるなんて、EDMとラップミュージックが主流だった数年前には考えられなかったことだよな。未来はわからないものだ。

↑小熊俊哉さんによるライブレポート。まさに「2度目の伝説」!

というわけで、この日のベストアクト(といっても4組しか観てないけど)はマネスキン! 満足してしまったので、ミッドナイトソニックには残らずそのまま会場を出て、ホテル近くの居酒屋で余韻を味わいながら気持ちよく酔いタイム。

8月18日(日)

ホテルのチェックアウトを2時間遅くしてもらって、この日もまあまあゆっくりと出発。14時少し前に会場へ。

観たのは以下の通り。

ヘンリー・ムーディー→新しい学校のリーダーズ→イヴ・トゥモア(後半数曲)→オリヴィア・ディーン→クリスティーナ・アギレラ→タイラ(終わりの2曲)→オーロラ。

ヘンリー・ムーディー。アイドル的な人気だけど、とにかく曲がいい。作曲の才能、とってもあり。歌はまだ多少揺れたりするが、これからどんどんよくなりそう。サポートのギタリスト女性がプリンスみたいなソロを弾いたりしていてかっこよかった。

新しい学校のリーダーズ。ようやく初めてナマで観ることができた。SUZUKAさんの歌ヂカラ、声質、カリスマ性、万人を引き付けるパフォーマンス力の強さに前からやられていたのだけど、ナマで観ると尚のことそれを強く感じた。僕はそもそも群舞……特にビシっと揃ったダンスというものに対しての苦手意識が昔からあり、それ故アイドルグループを好きになったことが一度もないのだけど、リーダーズにはそんな自分であっても引き付けられてしまう何かがある(自分的には揃いのダンスをしないで4人が好き勝手に動いてくれたらもっと好きになるのだろうけど)。かっこいい。と思いながらも、これで生バンド音だったらもっと惹きつけられるだろうなとも思ったり。コーチェラのときのようにマーチングバンドがここでも入っていたらなぁ、とも。あと、コーチェラでは最後にマントショーみたいなやつ(一回引っ込んでまたステージに引き戻されるというアレ)があったけど、それがなかったのも(マントショー好きの自分的には)ちと残念だった。

イヴ・トゥモア。リーダーズを全部観たので終りの数曲しか聴けなかったが、フジでも何かとのカブリで観れなかったので数曲でも観れてよかった。80年代にはこういうダークでゴシック的なバンドがいくつかあったけど、今のこの時代にこういう人がいてくれる意味は大きいというか、必要な存在だよなぁと。映像処理の仕方もよかったし、最後はファンを大事にしている感じが見てとれたのもよかった。

オリヴィア・ディーン。今年のサマソニで観るのを楽しみにしていたひとり。当初のタイムテーブルではタイラと丸被りでどうしたものかと思ったが、直前にタイテの変更があったので、初めから観ることができた。しかしその変更によってオリヴィアを最後まで観るとマリンのクリスティーナ・アギレラの始まりに間に合わない可能性があったので、最後にやったはずの名曲「Dive」の前に泣く泣くソニックステージをあとにした。この翌々日、神田スクエアホールでオリヴィアの単独公演を観に行った。その公演の感想にサマソニのステージの感想も含めたので、そっちを読んでください↓

クリスティーナ・アギレラ。今年のサマソニで僕が一番楽しみにしていたのがクリスティーナの復活ライブ。こればかりは至近距離で観たいと、少し早めに行ってアリーナの真ん中、花道のすぐそばの場所をとって待った。先にも書いたが2007年の武道館公演以来17年振りの来日。聞けば、このあと本国とかでもツアーをやる予定で、その前にサマソニでやれないかとクリスティーナ側からクリマンにオファーがあったのだそうだ。

↓こちら、2007年の武道館公演の感想。

もう何年もツアーをやっておらず、少し前まで半ば引退状態にあったクリスティーナ。サマソニのちょっと前に一時期とは見違えるくらい引き締まったカラダの写真をアップしていたので、これは期待できるんじゃないかと思って観に行ったらーー。結論から書くと、期待値の数十倍、上を行った。まさに奇跡の大復活。長いことツアーをやっていなかったのが信じられないほどの完璧な仕上がりで、マジで神がかっていた。とにかく声のパワーがとてつもない。少しの衰えもなく、全盛期に匹敵する、というか、なんなら今こそがピークなんじゃないかとさえ思える歌ヂカラ。シャウト一発でそれがわかる。シャウト一発でオーディエンスを圧倒し、昂揚させる。ソウルフルなことこの上ない。

その上、サービス精神に貫かれていた。歌われるのは、全キャリアの代表曲とヒット曲、ほぼ全部盛り。勿体ぶらずに初っ端から「Dirty」やって、そこから「Can't Hold Us Down」に続けるもんだから、キターっ!!と興奮して、その後もずっとウッヒョ~の連続。1999年のデビュー盤から今年25周年であることを伝え、なんとまだアイドル味があって可愛かったあの頃の「Genie in a Bottle」と「What a Girl Wants」を続けて歌ってくれたりも!!    それに傑作『Back to Basics』からは最高のジャズ・ファンク・チューン「Ain't No Other Man」をぶっ放してくれて(「Candyman」も聴きたかったな)、その次に来たのはなんとA Great Big Worldがクリスティーナとのデュエットでヒットさせた珠玉のバラード「Say Something 」(当時この曲を聴いて気に入ったクリスティーナが歌わせてほしいと作曲のイアンに電話したことで実現したんでしたね)。A Great~のイアンのパートはコーラスの男性シンガーが歌ったんだけど、彼も豊かな歌唱力の持ち主で、これも感動的だった。また主演映画『バーレスク』からキャバレーっぽくセクシーに「Express」を歌って、さらにお次は「Lady Marmalade」も!! クリスティーナ含めメンバーみんながフリフリで花道を歩き、その華やかなことといったらもう! 恐らく今年のマリンで初めて出現したあの花道をもっとも上手く使っていたのがクリスティーナだっただろう。

「Lady~」を歌い終えて引っ込んだ際、さすがにこれで終わりだろうと帰っていく人も少なくなかったけど、ところがどっこい、このあとの再登場で「Beautiful」を文字通り熱唱。これは2002年の2ndアルバム『ストリップト』の収録曲だけど、2022年に『ストリップト』20周年エディションを発売した際に新たなMVが公開されて若い人たちの間でも改めて注目された。「誰がなんと言おうと私は美しい」「誰がなんと言おうとあなたは美しい」という、まさに2020年代の今にガツンと響くセルフラブのメッセージ含んだバラードで、聴きながらこれを2002年に歌っていたんだから早かったしブレてないよなぁと思ったり。さらにアッパーな攻めの代表曲「Fighter」も。

このような黄金のセトリもさることながら、映画の名場面を集めたかのように次々に切り替わる凝った映像と演出も派手でかっこよくて、実にショーアップされていた。フェスで観ることの叶ったスペクタクルなショー。という意味では、去年のフジのヘッドライナーだったリゾのライブに近いものも僕は感じた。ポップな見せ方をしつつ、根っこはやっぱりソウルなのだ。まだ陽が暮れていない時間帯だったが、これが夜だったらさらに映えたことだろう。

というわけで、僕はもう大感動して、泣いてしまった。本当に凄かった。この日のベストアクトというだけでなく、2024年のライブのベストいくつかに間違いなく入るものだ。

惜しむらくは、この圧倒的だったショーがしかしそこまで大評判になっていないこと。考えられる理由はいくつかあって、ひとつはあとから発表になったクリスティーナのサマソニ出演を知らなかったという当時のファンがけっこうな数いたこと(「アギレラが来てたなんて知らなかった」というようなポストをいくつか目にした)。ひとつは配信がなかったこと(つまり当然あの場にいた人にしかその素晴らしさが伝わっていない。クリスティーナのファンとフェス好きは一致しないが、配信があれば多くの人が見たことだろう。恐らく本国でのツアー前ということでクリスティーナ側が許諾しなかったのでしょうね)。もうひとつはクリスティーナの後半とマウンテンのタイラの時間がかぶり、ライターや編集者の多くがタイラを観ていたこと。今年最注目すべきタイラが裏ではしょうがないとも言えるけど、それによってクリスティーナの大復活ショーがそうした目利きに観てもらえず正当に評価されなかったことはなんとも勿体なかった。ツアーが始まったら今度はぜひ単独の来日フルショーを期待したいものだ。

タイラ。そんなわけでマリンを出てシャトルバスでメッセに急いでもタイラは終わりの2曲しか観れなかった。しかも自分も一緒に観た妻もクリスティーナの興奮と感動がさめず、マウンテンに着いてもすぐに気持ちを切り替えられなかった。とはいえ、タイラはできすぎというくらい表情がかわいらしく、動きはしなやかで、ザ・スター!といった感じ。何より驚いたのは歌がものすごく上手かったことだ。バンドじゃないのに音の響きもよく、「Water」前のダンサーたちをフィーチャーしたセクションも見応えと聴き応えがあった。こんなの、みんなが魅了されるにきまってる。初めからちゃんと観たかった…とは思ったけど、今回ばかりは仕方がない。

オーロラ。ソニマニに始まった2日半の締めは、堂々、ソニックステージのトリに抜擢(と言っていいでしょう)されたオーロラだ。RollingStoneJapanのインタビュー記事のリード文にこう書いた。

その内容は素晴らしいものだった。筆者は2019年の初来日公演から観てきたが、間違いなく今回がベスト。凝った映像の導入効果も抜群で、昨年2月の豊洲PIT公演から何もかもがスケールアップしていた。オーロラは6月に4thアルバム『What Happened To The Heart?』を発表したばかりだが、そこから披露された4曲が実に上手く機能し、とりわけ終盤の「Starvation」のトライバルなビートは多くの観客を躍らせながら引き込んだ。曲への入り込み方もこれまでとは比較にならないほどで、ライブアーティストとしての著しい成長を感じさせたものだった。

書いた通り、昨年2月の豊洲PIT公演とは比較にならないほどのスケールで、彼女のヴォーカルからもライブアーティストとしての覚醒を感じた。特に日本の公演では初めて映像を導入したことがとても大きく、その映像は彼女のアーティスト像と曲のメッセージ、背景などを音と一体となって伝えていた。今回の公演で初めてオーロラの姿勢や魅力を理解した、初めてちゃんと評価することができたという人は多かっただろうし、だからこのサマソニのライブは彼女にとってとても意義のあるものだったと思う。どんなことを考えて活動しているのか、このインタビューをぜひとも読んでほしい。

というわけで、この日のベストアクトはクリスティーナ・アギレラだけど、オーロラも強く印象に残り続けている。


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