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Oxford大学での博士課程生活について

cvpaper.challengeの2023アドカレ17日目の担当を仰せつかりました、オックスフォード大学博士課程3年の山田 潤と申します。この度お声掛けいただき、僭越ながらアドカレに参加させていただくことになりました。

私はOxford Robotics Institute(ORI)の中にあるApplied AI Labという研究室に所属しており、Robot Learning、特にロボットアームに対する機械学習の応用について研究を行っています。

*上の写真は、私がオックスフォードに到着したその日に撮影したORIの写真です。一見するとただの住宅なのですが、私が実際にロボットを動かしているラボはこの建物の地下にあります。

はじめに

この記事では大きく以下の3点:

① 私の研究内容
② 研究環境
③ イギリスの博士課程

についてお話しをさせて頂こうと思っています。私自身はComputer Visionをメインに研究しているわけではいないのですが、この記事を読んでRobot Learningやイギリスでの博士過程に興味を持ってくださる方がいらっしゃれば嬉しいです。

① 研究内容

前述させて頂いた通り、私はComputer Visionに関連した研究ではなく、Robot Learning、特に物体の操作に関する研究をしております。

とりわけ、多くの障害物が存在する環境下でロボットアームが複雑なマニピュレーションタスクをどれだけ効率的に学習し、獲得できるのかといった研究に注力しています。今まで行ってきた研究プロジェクトの例としては、学習ベースのモーションプランニング、 複雑な環境下でのスキル獲得組み立てタスクに関するベンチマークの提案、などがありあますが、最近はモデルベースの強化学習のsim-to-real transferなども行いました。

詳しくはこちらのページにまとまっていますので、もしご興味をお持ちくださった方がいらっしゃいましたら、是非ご覧になってみて下さい。

これはLearning-based motion planningのプロジェクトのロボットを用いたデモンストレーションです。ロボットのkinematicsに関する潜在空間を学習するとともに、シミュレーションで自動に生成した大量の障害物が点在する環境のデータから衝突判定の関数を学習します。これによって、潜在空間内で軌道最適化を行えるようにしました。また、大量のシミュレーションのデータを用いたことで、未知の環境に対する軌道生成も可能になりました。

② 研究環境

何故イギリスの博士課程だったのか?

”なぜイギリスの博士過程に進学することにしたのか”というご質問をよく頂くのですが、個人的に博士課程に進学する上で一番重要だと思っている、教授や研究室との相性、研究環境などを重視してOxfordへの進学を決めました。

実際にオファーをもらった研究室の教授や学生から話を聞いて最終的な進学先を決めたので、他に特段面白い理由は無いのですが(すみません。。。)、学部時代にスウェーデンのKTHで1年間交換留学をして海外のカルチャーが自分に合っているなと感じたこと、そして学部時代に所属していた慶應大学の研究室が無くなってしまったことが海外の大学院に目を向ける大きな転機になったように思います。

ただ、修士を海外の大学で取ることを決めてイギリスのUniversity College London (UCL)に進学したものの、そこから博士過程に入学するまでは一筋縄では行きませんでした。というもの、イギリスの修士課程は1年で修了するシステムになっているため、修士論文のプロジェクト以外に研究に携わる機会がありません。そのため、博士課程に進学しようにも、修士卒業時点で論文の執筆業績が全く足りませんでした。そこで、UCLを卒業後に訪問研究員として研究経験を積むために南カリフォルニア大学に飛び(完全に無給でしたが)、幸運にもここで主著の論文を2本出すことが出来たおかげで、今日博士課程の学生として昼夜研究に励むことが出来ています。

紆余曲折ありましたが、イギリスに戻るにあたって、イギリスの博士過程は3年で修了できる事も自分の決断を後押ししてくれたように思います。アメリカでは博士過程に入学したとしても修士課程からやり直さなければならず、修士(2年)+ 博士(3年)を経ての修了となります。私の場合、博士過程への出願時点で既に修士を取得していたので、修士の2年をショートカットして研究に集中できるのはとても魅力的な選択肢でした。

Oxford Robotics Institute (ORI)に決めた理由

私は現在、複数のロボティクス系の研究室が集まっているOxford Robotics Institute (ORI)の中のA2I Labに所属しているのですが、ORI内の研究室は比較的どこも小規模で、所属メンバーは基本的に博士課程の学生のみです。

小規模であるゆえに教授から直接アドバイスを貰える機会が多く、更に私の研究グループ内にはポスドクが2人常駐しているので、研究のアドバイスなどに関して困ることは全くありません。場合によっては修士論文を書くために短期間、修士課程の学生が加わることもありますが、学部生、修士の学生などが多い日本やアメリカの研究室と比べるとコミュニケーションを密に取りやすい環境だと思います。

また、自分の研究室内での進捗発表やリーディンググループに加えて、ORI全体での研究発表など、自分の研究分野以外の話を聞いたり、共同で研究をすることができるのも個人的にはとても気に入っているシステムです。全く触ったことは無いですが、四足歩行のロボットに関する研究の話などを聞けるのはとても面白く、刺激になっています。

前述したようにイギリスの修士課程は1年で修了するが故、ほとんどの時間が授業に充てられるため、日本のように修士課程の学生が研究室に所属するシステムになっていません。そのため、面白いアイデアをいくつか思いても博士課程の学生のみで研究を回さなければならず、人的リソースが足りないと思うときはよくあります。ですので、私自身の場合は、メインの研究プロジェクトを基本自分自身で回して、他の面白いと思ったプロジェクトアイデアは研究室内の別の博士課程の学生と共同で取り組んでいます。工夫は必要ですが、総じて充実した博士課程生活を送れているので、ORIに決めてよかったと思っています。

③ イギリスの博士過程

Funding

海外の博士過程への進学を考えた時にネックになる資金確保に関する問題ですが、イギリスの大学はアメリカの大学と違って、仮にトップ大学だとしてもfundingを貰うのが非常に難しいのが現状です。

競争が激しいのはどこの国も同じではありますが、イギリスはアメリカなどと比べて博士課程の学生に出すことができるfundingをなかなか取ってこれないそうなので(具体的なことは分かりませんが。。)、教授がその年に博士の学生に使えるfundingを持っているのか否か、かなり運とタイミングに依存するという意味での難しさがあります。

ですので、必ず受験する前に教授に連絡を取ること、そしてfundingの有無に関して確認を取ることを強くお勧めします。私も出願前、現在の指導教授に、どんな研究に興味があるか、そしてfunding付きオファーの有無等について聞きました。夏頃にメールを出して、返信が来たのが2〜3ヶ月後でしたので、辛抱強く待つことが肝要です。

研究室にもよりますが、fundingを出してくれたり、私が博士課程に入ってからロボットが2台増えたり、ORIは比較的資金が潤沢であるような気がしています。

Application

イギリスの博士課程の応募書類で、アメリカの博士過程への出願と特に違うのが、research proposalの提出です。博士課程の間どのような研究を行いたいか、といったproposalを2〜3ページ程度書いて提出しなければなりませんでした。入学後、提出したproposalに100%沿って研究を進めることは極めて稀だと思うので、プロジェクトを完遂できるかどうかではなく、知識量や思考力、論理的な文章が書けるかといった面が主に評価されるものと思って、気負いすぎずに書けば良いかと思います。

その他

これだけは声を大にして伝えたいのですが、イギリスはとにかく日本食が手に入りにくい国です。私が住んでいるのがオックスフォードという小さい街だから、ということもあるとは思いますが、ロンドンでも思った以上に手に入りません。

また、冬の時期になると、日没の時間がとても早くなります(冬至の時期には8時に日の出、4時頃に日没です)。日照時間不足に加えてとても寒い(緯度が樺太半島くらい)ので、人によっては冬季鬱になってしまいます。

オックスフォードは学生の街というのもあり、ロンドンと比べるとアクティビティも少なく、遊べる場所も限られています。そういった意味では、研究に集中するには最適な場所だとは思いますが、いらっしゃる際には是非衣食住とメンタルヘルスを大切にして頂ければと思います。

最後に

拙い文章ではありましたが、記事を読んでいただき有難うございました。

プレッシャーが決して無いわけではありませんが、おかげさまで私自身は、総じて博士課程を楽しめているのではないかなと思います。この記事が少しでも皆さんのお役に立てれば嬉しいです。


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