【170.水曜映画れびゅ~】『ぼくのお日さま』~暖かくて、そして痛い~
『ぼくのお日さま』は、9月13日から公開されている作品。
今年のカンヌ国際映画祭ある視点部門に出品された作品で、池松壮亮が主演を務めています。
あらすじ
氷上での恋
田舎街に暮らす小学6年生のタクヤは、少し吃音がある。アイスホッケーをやっているが、スポーツが苦手。控えめな性格でもあり、いつも損な役回りをさせられていた。
そんなタクヤはアイスホッケーの練習終わりに、“ある光景”に目を奪われる。リンクでフィギュアスケートの練習をする少女さくらの姿だ。
その日からタクヤは、リンクでスケートの練習を独学で始める。もちろん一向に上手くならない。そんな時、さくらのコーチをしていた元男子フィギアスケート選手の荒川が、タクヤに声を掛ける。荒川はずっとタクヤのことを見ていたのだ。荒川はタクヤにスケート靴を貸してあげ、タクヤの練習にも付き合ってあげた。
荒川の指導もあり、タクヤは少しずつ滑れるようになってきた。すると荒川は、タクヤとさくらを呼び、「ペアで、アイスダンスをしてみよう!」と提案する。さくらはイヤそうな顔をするが、ノリノリの荒川はそんなことお構いなしだった。
柔らかくて、暖かい
『僕はイエス様が嫌い』(2019)で脚光を浴びた奥山大史の最新作。
設定は冬で、舞台も雪が降る田舎町。白い息が出ているのがわかるくらい、寒そうなアイススケート場のシーンが大半ですが、この映画は“暖かさ”を纏っています。タイトル通り、太陽の光が柔らかくシーンを照らす場面が多く、暖色的な印象を作品全体から受けるからかもしれません。
そして何より、登場人物のやり取りに暖かさを感じます。メインとなる3人は、物語序盤はどことなく暗さを感じさせます。しかしアイスダンスの練習を重ねるうちに、氷が少しずつ溶けていくように、彼らの暗さも消えていくのです。打ち解け合い、目標に向かって練習に励みます。練習の後に一緒にカップラーメン食べたり、外で練習している時に3人でふざけ合ったり…。そんな練習風景のシーンが愛おしく、そして暖かい雰囲気に溢れていました。
痛み(※ネタバレあり)
そんな風に暖かく雰囲気に包まれたまま、ハッピーエンドで映画が終わると思ったら、そうではありませんでした。
最初はアイスダンスに嫌々だったさくらも、練習を楽しく感じるようになっていました。そんな時、町で荒川を見かけ、声を掛けようとしました。しかし、やめました。荒川は、男の人とイチャついたからです。それから、さくらは練習に来なくなりました。
今までの暖かな雰囲気を一転、冷や水をぶっかけられたかのような痛みが僕の胸を襲いました。「今まで一緒に頑張って来たのに、どうして…」と。観終わった後、なんともいえない感情のモヤモヤが胸に広がりました。
同性パートナーだけでなく、吃音も作品に盛り込んでいる本作。多様性という言葉が広がっていく中で、それが実際に受け入れられているのかというと、正直わかりません。だからこそ、暖かくて優しい雰囲気のハッピーエンドではなく、あえて本作のラストに“痛み”を描いたのかもしれません。
自分が同性愛者や吃音のある人に実際に会った時、何の偏見もなく接することができるか?そんな不安が自分のなかにあるからこそ、モヤモヤした感情が胸に広がったのかもしれません。
自分の期待したハッピーエンドじゃなかったことに肩を落とすのではなく、本作が伝えるメッセージをしっかり受け止めたいと思いました。少しでも“痛み”がなくなる世界がいつか来ると信じて、まずは自分の胸に広がったモヤモヤと向き合ったみよう、と。
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お楽しみに!