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【170.水曜映画れびゅ~】『ぼくのお日さま』~暖かくて、そして痛い~

『ぼくのお日さま』は、9月13日から公開されている作品。

今年のカンヌ国際映画祭ある視点部門に出品された作品で、池松壮亮が主演を務めています。

あらすじ

雪が積もる田舎街に暮らす小学6年生のタクヤは、すこし吃音がある。タクヤが通う学校の男子は、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習にいそがしい。ある日、苦手なアイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくらと出会う。「月の光」に合わせ氷の上を滑るさくらの姿に、心を奪われてしまうタクヤ。一方、コーチ荒川のもと、熱心に練習をするさくらは、指導する荒川の目をまっすぐに見ることができない。コーチが元フュギュアスケート男子の選手だったことを友達づてに知る。荒川は、選手の夢を諦め東京から恋人・五十嵐の住む街に越してきた。さくらの練習をみていたある日、リンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。タクヤのさくらへの想いに気づき、恋の応援をしたくなった荒川は、スケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあうことに。 しばらくして荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をはじめることになり……。

公式サイトより一部改編

氷上での恋

田舎街に暮らす小学6年生のタクヤは、少し吃音きつおんがある。アイスホッケーをやっているが、スポーツが苦手。控えめな性格でもあり、いつも損な役回りをさせられていた。

そんなタクヤはアイスホッケーの練習終わりに、“ある光景”に目を奪われる。リンクでフィギュアスケートの練習をする少女さくらの姿だ。

その日からタクヤは、リンクでスケートの練習を独学で始める。もちろん一向に上手くならない。そんな時、さくらのコーチをしていた元男子フィギアスケート選手の荒川が、タクヤに声を掛ける。荒川はずっとタクヤのことを見ていたのだ。荒川はタクヤにスケート靴を貸してあげ、タクヤの練習にも付き合ってあげた。

荒川の指導もあり、タクヤは少しずつ滑れるようになってきた。すると荒川は、タクヤとさくらを呼び、「ペアで、アイスダンスをしてみよう!」と提案する。さくらはイヤそうな顔をするが、ノリノリの荒川はそんなことお構いなしだった。

柔らかくて、暖かい

『僕はイエス様が嫌い』(2019)で脚光を浴びた奥山大史の最新作。

設定は冬で、舞台も雪が降る田舎町。白い息が出ているのがわかるくらい、寒そうなアイススケート場のシーンが大半ですが、この映画は“暖かさ”をまとっています。タイトル通り、太陽の光が柔らかくシーンを照らす場面が多く、暖色的な印象を作品全体から受けるからかもしれません。

そして何より、登場人物のやり取りに暖かさを感じます。メインとなる3人は、物語序盤はどことなく暗さを感じさせます。しかしアイスダンスの練習を重ねるうちに、氷が少しずつ溶けていくように、彼らの暗さも消えていくのです。打ち解け合い、目標に向かって練習に励みます。練習の後に一緒にカップラーメン食べたり、外で練習している時に3人でふざけ合ったり…。そんな練習風景のシーンが愛おしく、そして暖かい雰囲気に溢れていました。

痛み(※ネタバレあり)

そんな風に暖かく雰囲気に包まれたまま、ハッピーエンドで映画が終わると思ったら、そうではありませんでした。

最初はアイスダンスに嫌々だったさくらも、練習を楽しく感じるようになっていました。そんな時、町で荒川を見かけ、声を掛けようとしました。しかし、やめました。荒川は、男の人とイチャついたからです。それから、さくらは練習に来なくなりました。

今までの暖かな雰囲気を一転、冷や水をぶっかけられたかのような痛みが僕の胸を襲いました。「今まで一緒に頑張って来たのに、どうして…」と。観終わった後、なんともいえない感情のモヤモヤが胸に広がりました。

同性パートナーだけでなく、吃音も作品に盛り込んでいる本作。多様性という言葉が広がっていく中で、それが実際に受け入れられているのかというと、正直わかりません。だからこそ、暖かくて優しい雰囲気のハッピーエンドではなく、あえて本作のラストに“痛み”を描いたのかもしれません。

自分が同性愛者や吃音のある人に実際に会った時、何の偏見もなく接することができるか?そんな不安が自分のなかにあるからこそ、モヤモヤした感情が胸に広がったのかもしれません。

自分の期待したハッピーエンドじゃなかったことに肩を落とすのではなく、本作が伝えるメッセージをしっかり受け止めたいと思いました。少しでも“痛み”がなくなる世界がいつか来ると信じて、まずは自分の胸に広がったモヤモヤと向き合ったみよう、と。


前回記事と、次回記事

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次回の更新では、ドキュメンタリー映画“City Hall”ボストン市庁舎を紹介させていただきます。

お楽しみに!