"作品賞"編:第94回 米アカデミー賞 大予想!!
今月末3月28日(日本時間)に行われる米アカデミー賞。
それに先立ち、2月8日(日本時間)に各部門のノミネーションが発表されました。
アメリカはもちろん世界中が注目する最高峰の映画の祭典。
その開催が、ついに明日!
そんななかで今回は、オスカー主要6部門の中の一つであり、最高の栄誉、作品賞の予想をしたいと思います!
本命:『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
無難な予想になってしまいますが、やっぱり大本命は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ではないでしょうか!
『ピアノレッスン』(1993)にてパルムドールを受賞したジェーン・カンピオンの12年ぶりの監督作。
1925年のアメリカ西部を舞台とした引き込まれる人間ドラマは、文句なしの完成度。一つ一つのシーンに散りばめられたヒントを辿った衝撃のラストには、鳥肌が止まりませんでした。
そのストーリーや演技、音楽、撮影…どこを取り上げても超一級品の今作。作品賞の他、助演女優賞、サウンド賞、作曲賞、脚色賞、編集賞、撮影賞、美術賞、主演男優賞、監督賞、そして助演男優賞に2人ノミネートされており、今アカデミー賞最多の11部門12ノミネーション獲得。
私としては作品賞だけでなく、コディ・スミット=マクフィーへの助演男優賞、ベネディクト・カンバーバッチへの主演男優賞、そしてジェーン・カンピオンへの監督賞があると予想しています。
また、この作品はNetflixオリジナル映画。これまで『ROMA/ローマ)』(2018)や『Mank/マンク』(2020)で作品賞を狙うも、なかなか受賞に手が届かなかったNetflix。今作で初の作品賞を受賞し、オスカーに新たな歴史を刻むことが期待されます。
対抗:『コーダ あいのうた』
大方の前哨戦で『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が作品賞を制覇するなかで、善戦しているのが『コーダ あいのうた』。
聾者家族で唯一耳が聴こえる少女の苦悩と葛藤を描いた今作。
注目なのは、聾者役に実際に耳が聴こえない俳優をキャスティングしたところ。マイノリティへの配慮が欠けていると批判されてきたハリウッド業界に一石を投じる非常に価値のある作品であり、実際にオスカーの前哨戦と称される全米映画俳優組合賞において、作品賞にあたるキャスト賞を受賞しました。
さらに映画評論家の町山智弘さんは、好き嫌いが分かれにくい心温まるそのストーリー性に着目し、「『パワー・オブ・ザ・ドッグ』よりも『コーダ あいのうた』にアカデミー会員の票が集まりやすいため、最有力候補である。」というような主旨のコメントをしていました。
作品賞の他、助演男優賞と脚色賞にノミネート。
助演男優賞にノミネートされたトロイ・コッツァーが、全米映画俳優組合賞と英国アカデミー賞で同カテゴリーを受賞し、最有力候補とされています。受賞となれば、今作にも出演しているマーリー・マトリン以来の聾者俳優へのオスカーとなります。
対抗:『ドライブ・マイ・カー』
しかし、やはり個人的に一番期待しているのは『ドライブ・マイ・カー』。日本作品初のアカデミー賞作品賞ノミネート作となっています。
村上春樹の短編小説を原作に、互いに喪失を抱える舞台俳優と、無愛想な女性ドライバーとの繋がりを描くロードムービー。
最も特徴的なのは、ハリウッドで主流のメソッド演技法に逆行する、いわば「棒読み」の演技でセリフの深みを引き出すという手法。これまでの常識を覆す、濱口竜介監督にしか作り出せない映画であり、それが世界的に評価されていることは、同じ日本人として本当に喜ばしいです。
カンヌ国際映画祭での脚本賞を含む4冠に加え、ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞なども受賞している今作。世界の分断が進む昨今で、言葉が違っていても繋がり合えるというメッセージ性も含まれたこの作品は、作品賞に十分に値します。
ただ、作品賞受賞のためには一定のキャンペーン活動が必要との噂もあり(実際に作品賞を受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2019)のポン・ジュノ監督は、当時かなり海外向けのインタビューを受けていた)、そこら辺のプッシュが日本はあまり得意ではないので、なかなか厳しい状況とはいえます。
作品賞の他、脚色賞、国際長編映画賞、監督賞にもノミネート。
国際長編映画賞の受賞は確実。また、村上春樹の短編集『女のいない男たち』(2014)に収められた「ドライブ・マイ・カー」を起点としながら、その短編集に収められた別の短編小説も縦断的に盛り込み作り上げたその脚本に対し、脚色賞も贈られると思います。
単穴:『ベルファスト』
先週末25日から日本公開された『ベルファスト』も、負けず劣らずの傑作映画。
監督のケネス・ブラナーが、故郷であるベルファストを舞台に自身の幼少期を描いた半自伝的作品。
1960年代後半から北アイルランド問題に揺れたベルファストという町での活気に溢れた人々の日々を、9歳の少年の視点で描いた群青劇です。
本日私も映画館にて鑑賞してきたのですが、正直言って今回のアカデミー賞作品で一番好きな作品ですね。愛らしい主人公のバディを中心として、その家族やベルファストに住む人々との温かい絆を感じ、観終わった後はホッと一息ついたような気持ちになるハートウォーミングな映画でした。
作品賞に加え、助演女優賞、サウンド賞、脚本賞、助演男優賞、歌曲賞、監督賞にもノミネート。
俳優・脚本家・プロデューサーとしてもマルチに活躍し、今回でアカデミー賞史上初の通算7部門ノミネートを達成したケネス・ブラナーが、初のオスカーとなる脚本賞を受賞すると予想しています。
単穴:『ウエスト・サイド・ストーリー』
名作ミュージカル『ウエスト・サイド物語』を巨匠スティーブン・スピルバーグが監督した『ウエスト・サイド・ストーリー』。
ちなみに、スピルバーグ監督作品の作品賞ノミネートは、12本目です。
1961年に一度映画化された『ウエスト・サイド物語』は、オスカー10部門を受賞した超名作。そんな高いハードルに果敢に挑み、有無を言わせない完成度を実現したのには、脱帽です。また、近年はシリアスな映画の監督が続いていたスピルバーグですが、今作は『インディ・ジョーンズ』シリーズや『E.T.』(1982年)を撮っていた時のような、往年の娯楽映画感が強く、観ていてワクワクしてくる映画でした。
助演女優賞、衣装デザイン賞、サウンド賞、撮影賞、美術賞、監督賞にもノミネート。
助演女優賞にノミネートされたアニタ役のアリアナ・デボーズは受賞確実。また、ダンスシーンなどダイナミックで華やかな映像を可能にした撮影監督のヤヌス・カミンスキーが、3度目となる撮影賞を獲得すると予想しています。
穴:『DUNE/デューン 砂の惑星』
『メッセージ』(2016)や『ブレードランナー 2049』(2017)を世に送り出した、ハリウッドSF界の超新星ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作『DUNE/デューン 砂の惑星』も、ノミネート。
これまで何度も映像化が試みられ、多くの映画作品などに影響を与えてきたSF小説の古典『デューン 砂の惑星』を原作とした作品。
その複雑なストーリーと実現不可能と言われた世界観を見事にまとめ上げ、特にその映像には、ただただ圧倒されました。
ただ、この作品の作品賞ノミネートは個人的にびっくりしました。
というのも、こんなゴリゴリのSF映画なんて基本的にスルーしていくのがアカデミー賞の通例だったので、今回も『インターステラー』(2014)みたく技術部門へのノミネートだけかなって思っていたら、見事作品賞に名を連ねました。
ノミネーションは作品賞の他、衣装デザイン賞、サウンド賞、作曲賞、脚色賞、編集賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、視覚効果賞、撮影賞、美術賞の、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』に次ぐ10部門ノミネート。
視覚効果賞とサウンド賞は確実。また作曲を担当したハンス・ジマーにも、『ライオン・キング』(1994)以来のオスカー像が贈られるでしょう。あとは編集賞・撮影賞・美術賞もかなり有力と思われ、技術部門で"DUNE無双"が起こるかもしれません。
穴:『ドリーム・プラン』
ウィル・スミスが、主演・製作をした『ドリーム・プラン』も作品賞にノミネート。
テニス界最強姉妹と称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育てた、ぶっ飛んだ父親のリチャード・ウィリアムズを描いた作品です。
この作品はもう、「ウィル・スミスの演技がすごいっ!」の一言に尽きます。超クセが強いリチャード・ウィリアムズという人物を、圧巻の演技力で作り上げ、主演男優賞の最有力候補とされています。同じく有力候補である『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のベネディクト・カンバーバッチとどっちが獲るか、楽しみですね!
そのほか、助演女優賞、脚本賞、編集賞、歌曲賞の計6部門にノミネート。
主題歌"Be Alive"を務めたビヨンセが授賞式でパフォーマンスするのが超楽しみですが、歌曲賞の受賞自体は『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のテーマソングを務めたビリー・アイリッシュとの一騎打ちですかね。
大穴:『ドント・ルック・アップ』
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015)や『バイス』(2018)を監督したアダム・マッケイが、レオナルド・ディカプリオやジェニファー・ローレンスをはじめとする超豪華俳優陣とともに作り上げたコメディ映画『ドント・ルック・アップ』がノミネート。
地球に確実に衝突する巨大彗星による人類滅亡の危機を知らせる二人の科学者と、全くそれに取り合わない政治と世論を、現代社会への風刺全開で描いた強烈な作品。
これもまた、個人的にノミネートが意外だった作品。
最高に面白い作品ではあるのですが、SNL並みのコテコテのコメディすぎてオスカーでは敬遠されちゃうのでは、と予想していただけに、作品賞ノミネートには驚きました。コロナや気候変動といった現代問題をうまい具合に皮肉っていたのが、評価されたのかもしれないですね。
作曲賞、脚本賞、編集賞にもノミネート。
可能性があるとすれば、アダム・マッケイの『マネー・ショート 華麗なる大逆転』以来2度目の脚本賞ですが、『ベルファスト』のケネス・ブラナーに比べると難しいですかね。
大穴:『リコリス・ピザ』
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)や『ザ・マスター』(2012)で知られ、世界三大映画祭(カンヌ・ベネチア・ベルリン)すべてで監督賞を受賞している、映画界の至宝ポール・トーマス・アンダーソン最新作『リコリス・ピザ』がノミネート。
日本公開は7月1日とまだまだ先ではありますが、今回のアカデミー賞では作品賞・監督賞・監督賞の3部門という、ノミネーション数は少ないながら主要なカテゴリーに名を連ねており、これだけで「面白いこと間違いなしっ!」ってわかりますね。
また、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンと、女性ロックバンドHAIMのアラナ・ハイムを主演に迎え、ブラッドリー・クーパーやショーン・ペンも出演。
これはもう、ただただ早く観たいですっ!
大穴:『ナイトメア・アリー』
『ベルファスト』と同じく、先週末25日に封切られた『ナイトメア・アリー』もノミネート。
ギレルモ・デル・トロが、作品賞受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)以来4年ぶりに監督を務めた今作。ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの同名小説を原作とした作品で、デル・トロらしいなんとも言えない奇妙な物語でした。
こちらは『リコリス・ピザ』とは対照的で、作品賞以外には監督賞や脚色賞、演技部門といった主要なカテゴリーには名を連ねていない異色のノミネーション。作品は確かに面白いですが、どういったところが作品賞へのノミネーションの決め手だったのか、ちょっと不思議なんですね。
そのほか、衣装デザイン賞や撮影賞、美術賞にもノミネート。
おそらく美術賞の受賞があるのではないでしょうか。
前哨戦の結果
順当にいけば『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でしょうね。
ただ、なかなか一筋縄にいかないのもオスカーの面白いところ。
2019年は、『ROMA/ローマ』が最有力といわれての『グリーンブック』(2018)。2020年は、『1917 命をかけた伝令』(2019)が獲ると思われての 『パラサイト 半地下の家族』。
そう考えると、『コーダ あいのうた』も受賞の可能性がかなり高いですし、もしかしたら『ドライブ・マイ・カー』が…。
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