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【142.水曜映画れびゅ~】"Anatomie d'une chute”~秘密と、嘘~

"Anatomie d'une chute"落下の解剖学は、2月23日より日本公開されているフランス映画。

昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したほか、先日行われた米アカデミー賞では脚本賞を受賞しました。

㊗ アカデミー賞 受賞!!

★受賞
脚本賞
☆ノミネート
編集賞・主演女優賞・監督賞・作品賞

第96回米アカデミー賞 結果一覧

あらすじ

人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラに殺人容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。証人や検事により、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ<真実>が現れるが──。

日本公式サイトより一部抜粋

秘密と、嘘

ダニエルは、幼い頃に交通事故に遭って視覚障害があった。だから外へ出る時は、いつもサングラスを着ける。

その日も、サングラスを着けて犬の散歩をしていた。いつも通りの散歩コースを経て家に帰ると、妙な人影が見えた。

父親が、血を流して倒れていたのだ。

・・・

それからしばらく経った後、母親のサンドラが父親の殺人容疑で起訴されてしまう。容疑者となったサンドラは、マックスに語り掛け続ける。

「ママは、パパを殺してなんかいない」

マックスは母を信じて裁判を見守り続ける。しかしそこで明らかになるのは、母と父が抱えていた秘密と、嘘だった。

裁判は真実を曖昧にする

パルムドール、そしてアカデミー脚本賞を受賞した本作。物語は、怪死した夫の殺害容疑で起訴された妻の法廷ドラマです。

この作品の特異な点は、回想の場面がほとんど出てこないところです。例外として、裁判の証拠品で提出された音声テープを基にした回想っぽいシーンがありますが、それも含めて事件の全容は”証言”と”証拠”によってのみ語られます。

なので、ネタバレになるかもしれませんが、言ってしまうと、この映画で「実際に自殺だったのか、事故だったのか、他殺だったのか、そして何が起きたのか」ということが明らかになることはありません。

そしてそれは実際の裁判でも往々にしてあることです。

裁判とは、真実を明らかにすることではないと思っています。むしろ、真実を曖昧にする作業だと思っています。原告側と被害者側が自分に有利な証言や証拠をさらけ出し、それぞれが自分の有利な判決のために動くのです。それゆえに、裁判が進めば進むほど話が複雑になり、真実がわからなくなっていき、最終的には陪審員や裁判官の主観で善悪が判決されてしまいます。

そういった構造であるため、実際の裁判を傍聴している感覚で、この事件の真相は視聴者にゆだねられるのです。

何を信じたいか?

そんな本作で、最も視聴者と近い目線であるキャラクターが、息子のダニエルです。

裁判が進むにつれて、両親の秘密を知っていくダニエル。

母親の浮気、父親の鬱、夫婦の不和…。

「あたしを信じて」と語る母親の供述は二転三転し、世間からは厳しい声が上がっていきます。それでも、ダニエルは裁判の傍聴を辞めませんでした。

複雑になっていく裁判と、曖昧になっていく真実のなかで、ダニエルは自分の答えを見つけ、物語はクライマックスへと進みます。

ダニエルの答えに、あなたは同意できるでしょうか?それとも…?

この映画が私たちに問いかけるのは…

「何を信じたいか?」


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お楽しみに!