【10.水曜映画れびゅ~】"Ma Rainey's Black Bottom"~最後にして最高の演技~
"Ma Rainey's Black Bottom"は、Netflixオリジナルの映画。
あらすじ
"黒人国家の劇場詩人"の戯曲を映画化
"黒人国家の劇場詩人"と言われたオーガスト・ウィンストンの同名戯曲を原作とした本作。監督はトニー賞受賞の舞台監督ジョージ・C・ウルフが務め、またプロデューサーとしてデンゼル・ワシントンも携ってもいます。
戯曲原作ということで、本作の構成には劇ぽっさがあります。その1つの特徴としては、主な舞台がレコーディングスタジオとその地下にあるリハーサルスタジオの2か所のみ、ということ。この2か所での映像が映画の約90%近くを占めている密室劇であり、そこで繰り広げられる登場人物同士のダイアローグが物語の中心です。
圧巻のヴィオラ・デイヴィス
登場人物同士の掛け合いが重要となる本作で、マ・レイニーとして主演を務めたのが、名優ヴィオラ・デイヴィス。デンゼル・ワシントン監督作『フェンス』(2016)でアカデミー助演女優賞を受賞したほか、トニー賞とエミー賞も受賞しています。
『フェンス』では、身勝手な夫に振り回される健気な女性を演じたデイヴィス。しかし本作では、その印象が一転。誰に対しても横暴な態度をとるブルース界の大物を、圧巻の存在感で演じました。常に汗でびちょびちょな状態で、文句を永遠に垂れ続ける横暴ぶり。そして極めつけのコーラ一気飲みは、凄かった…。
アカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデングローブの主演女優賞(ドラマ部門)と、全米映画俳優組合賞の主演女優賞にノミネートされています。そんな各賞レースにおいて、『ノマドランド』(2021年3月日本公開)のフランシス・マクドーマンドと並び最有力候補の一人とも言われており、今後の動向にも注目です。
遺作となったチャドウィック・ボーズマン
そしてこの映画のもう1人の主人公である野心家のトランペット奏者レヴィーを演じたのが、チャドウィック・ボーズマン。ジャッキー・ロビンソンを演じた『42 〜世界を変えた男〜』(2013)や、『ブラック・パンサー』(2018)の主演を務めたことでも知られる俳優ですね。
ただ残念ながら、ボーズマンは昨年の8月に43歳という若さで亡くなってしまいました。そのため、本作はボーズマンの遺作とされています。
そんなボーズマンが演じるレヴィーは、よくしゃべります。リハーサル室で待機を命じられたバンドメンバーに対して、「将来の夢」や「自らの処遇」、「黒人差別への怒り」、「神への冒涜」など様々なことに対してしゃべり倒します。
ここで圧巻なのが、ボーズマンの喜怒哀楽の使い分け。笑ったと思えば、怒る。怒ったと思えば、泣く。そんな感情の起伏が激しいレヴィーというキャラクターを見事に演じていました。
ヴィオラ・デイビス同様に本作での演技の評価が高いボーズマンは、ゴールデングローブの主演男優賞(ドラマ部門)と全米映画俳優組合賞の主演男優賞にノミネートされています。また全米映画俳優組合賞に関しては、同じく昨年配信のNetflixオリジナル映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』での演技も評価され、本作の主演男優賞に加え助演男優賞にもノミネートされています。
全米映画俳優組合賞の選考委員にはアカデミー会員が多いことから、ゴールデングローブよりも全米映画俳優組合賞のノミネートの方がアカデミーに反映されやすいといわれています。なので、オスカーでのダブルノミネートもあるかもしれませんね。
また受賞に関しても、各賞で『マ・レイニーのブラックボトム』での演技が主演男優賞の最有力候補筆頭とされています。ちなみに、有力対抗馬は『ファーザー』(2021年5月日本公開)の アンソニー・ホプキンス。
【5/1追記】
オスカーに惜しくも届かず
今記事の副題にもある通り、まさに”最後にして最高の演技”を本作で魅せたチャドウィック・ボーズマン。その評価も絶賛の嵐で、大方の予想通りゴールデングローブ賞(ドラマ部門)と全米映画俳優組合賞の両賞で主演男優賞を受賞し、この勢いのままアカデミー主演男優賞も…と期待されました。
しかしその実際は予想と相反し、今年の主演男優賞のオスカー像は『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスのもとに落ち着き、幕を閉じました。
アカデミー賞の式自体もボーズマンの死後受賞を予想し、例年ではラストを飾る作品賞を前倒しで発表して主演男優賞の発表で最後を締めくくるという異例の構成で行われました。しかし蓋を開けてみれば、授賞式に欠席していたアンソニー・ホプキンスが受賞。受賞のスピーチもなしで、プレゼンターのホアキン・フェニックスも特にリアクションもなく、あっさりと式は終わってしまいました。
後年に「世紀の失策演出」として語り継がれそうですね…(笑)。
ただ確かなこととして言いたいのは、オスカーを獲れなかったからといって本作のボーズマンの演技が色あせることはない、ということ。もちろんオスカーを獲ってほしかったですが、それが全てというわけでもありません。
本作『マ・レイニーのブラックボトム』にはチャドウィック・ボーズマンの生きた証と、本作を通じて彼が伝えたかったメッセージが多分に含まれているのです。それゆえのあの鬼気迫る演技だと言えます。
そんな彼の演技を、今一度多くの方に見ていただきたいです。
また『マ・レイニーのブラックボトム』は、作品としてメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞!同カテゴリーで初の黒人女性の受賞となりました。
前回記事と、次回記事
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次回の記事では、西川美和監督、役所広司主演の『すばらしき世界』(2021)について語っています。