地図に残らない仕事。
「地図に残る仕事。」これは、大成建設のキャッチコピーです。
地図に残るとはつまり、自分の手掛けた仕事が人に忘れられずに残り続けるということです。人々に認知され、友人や家族に誇ることができる仕事です。
「地図に残らない仕事」、これは、言葉の通りですが、人から認知されず、わかりやすいものがないので、伝え、理解してもらうこと、誇ることが難しい仕事を、私の中で意味しています。
私は、今ものづくりの、特に生産現場で、この感覚を持っています。
量産体制を構築している、製造現場での出来事です。毎月何十万と部品を生産しています。
その部屋は工場内の一室にありました。人が一人入るのもやっとのスペースです。その部屋だけ、音が遮断され、これまでいた工場とまるで別の世界にいるように感じます。
その中で私はひとりの技術者のお話しを伺いました。定年を迎え引退しようとしていたところ、この会社からスカウトされて、転職されたそうです。その部屋の中で治具を作っていました。図面は、鉛筆に鉄の定規を使って描かれていました。机の横には相方の旋盤が置かれています。
「10年待つけど、まだ技術の後継者がこないんだよなあ」
腕1つでこれまでさまざまな加工をされてきました。加工だけではなく、電気の知識も持たれています。なかなか後継者はこないそうです。その機械を扱える人も、その方以外いません。メンテナンス方法は引き継げますが、加工技術は、マニュアル化できません。
私はその方の話に聞き入ってしまいました。興味を持って質問するとたくさん答えてくださりました。
今、その方とはプロジェクトで一緒に専用機の導入を進めています。その方がこれまで培ってきた知恵を伝承していただいています。機械設計の際に気をつけるべきこと、導入後のフローなど、これまでの経験を引き継いでいます。
私は仕事を通して、ITシステムや時には専用機(ロボット)の導入をサポートしてきました。その時に大切にしたいことは、冷たいテクノロジーではなく、温かみのある、想いや知恵を残せるテクノロジー活用をすることです。
当然、仕事として、PLどのようなインパクトがあるのか算出したり、投資対効果を考慮したりして提案しますが、数字では出てこない、このような想いを大切にしたい。
ものづくりの「生産技術」、それは地図に残りません。工場は、工場内で個別最適化され、そのプロセスに独自性・優位性があり、表に出ることが少ないです。
表に出ることが難しいけれども、日本を支えてきた想いを絶やさず残し続けること。事業承継を通じて会社を残す方法もありますが、システムや自動機を通じて、技術自体を残す方法として取り組んでいきたいと思います。
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