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「音と映像を同時に奏でる楽器」QUASARはXRで何が進化したのか? 開発者に聞く

先月、2月7日(日)に行われたXRオーディオ・ヴィジュアル・ショウケース「COSMIC LAB presents EXPANDED -Audio Visual XstReam Live Sessions- 」。同イベントは、VJとして可視と不可視が交差する空間表現を探求し続けてきた大阪を拠点に活動するミックスメディア・プロダクション「COSMIC LAB」主催による⽂化庁委託事業の無観客配信イベントとして開催されました。

イベントのレポートは、自分のブログでも公開させていただきましたが、それとは別にギズモード・ジャパンの記事「XR演出のライブで想像力を広げていく。テクノロジーと人間の感性、その理想的な関係とは?」でも、COSMIC LAB代表のColo Müller(コロ・ミューラー)氏へのインタビューを担当させていただきました。

記事ではCOSMIC LAB開発のXR(エクスパンデッド・リアリティー)ライブシステム「Antimatter」に関して、"どんな設計思想の元に開発されたシステムなのか?"をテーマにお話を聞かせていただきましたが、実はその際にCOSMIC LABが開発した「音と映像を同時に奏でる楽器”QUASAR”」を用いたパフォーマンス"QUASAR XR"に関する話もお聞きしていました。

本稿ではそのインタビュー部分を先述の記事のスピンオフとして、ギズモード・ジャパン了承の下、公開させていただきます。

"QUASAR XR"のポイント

・COSMIC LABが開発した「音と映像を同時に奏でる楽器”QUASAR”」を用いたショウケース。 Plant Records所属の2名のターンテーブリスト、DJ YASA & NAO-Kとのライブセッション。
・BOREDOMSやOOIOOのメンバーとして知られるYoshimiO氏や河内音頭の歌い手たちなどがQUASARのAR&音素材という形で参加。ショウケース中は、AR映像&音声という形でリアルタイムで進行するパフォーマンスと連動する様子が見られた。

--「QUASAR」の設計思想と特徴について教えてください。

Colo Müller:開発において影響を受けたのは、まず、かなり昔にN.Yで遭遇したEBN(Emergency Broadcasting Network)の斬新過ぎるA/Vライブに衝撃を受け、その数年後、EBNの影響を色濃く受けた COLDCUTのA/Vライブを日本で体験したのが根底にあります。

音と映像をサンプリングして作られたCOLDCUTという海外アーティストの「Timber」というMVです。それとHIFANAの「Skipless Loops」というMVにも影響を受けています。

「Skipless Loops」では、レコードを33回転にセットしたターンテーブルでBPM133のテンポでかけるとちょうど1小節でレコードが1回転する仕組みを取り入れられていますが、その状態に合わせてDJミキサーのクロスフェーダーをビートジャグリングしていくと左右のターンテーブルをどちらに切り替えても常に1小節で1回転するという状態を構築することができます。その状態は視覚的にもすごくわかりやすいため、MVも音と映像がすごくマッチングしたものになっていているのですが、この仕組みをいつでも再現できるデバイスを作ることができたら音と映像を本当に自由に演奏できると思ったのが開発のきっかけになりました。

QUASARの特徴としてまず挙げられるのは、ターンテーブルが1回転する間にワンショットの音ネタが入った"キャップ"を適当に置いたとしても音楽的なシーケンスは崩れない仕組みになっているという点です。そういった特性により、場合によっては、プレイヤーが想定してなかった曲の構成が偶発的に生まれる場合もあります。また、今回はYoshimiOさんや河内音頭の親方がQUASARの素材となったことで本人たち同士も想定していなかった"コラボ"が生まれましたが、これはQUASARの設計思想の根底に"異なる音と映像がひとつのターンテーブルの上で曼荼羅のように組み合わさっていく"という考えがあったからこそ起こり得たと言えます。

-- 配信でもキャップを置くタイミングとARと音ネタが連動しているように見えました。

Colo Müller:QUASARは、本体の周囲を光のビームがグルグル回転するのですが、BPMを変えると同時に回転数もそのBPMでターンテーブルが1周する回転数に変更されます。また、キャップを置くことができる場所は8分割されたグリッドの上に限られますが、置かれたキャップにビームがあたることでそれがトリガーとなり、キャップに入った音が再生されます。

QUASARは、シーケンサーとサンプラーが一体化したようなデバイスなので、例えば、ループ素材のキャップをグリッドの上に置くとずっと再生され続ける音が立ち上がりますが、そこにワンショットのキャップを置くとふたつの音を組み合わせることもできます。今回はそのキャップに音だけでなくARの映像も割り当てました。

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©️COSMIC LAB  

-- QUASARは"「映像」と「音」を同時に奏でる次世代の楽器"とのことですが、その特徴を簡単に説明すると?

Colo Müller:QUASARでは、音楽的な知識がなくてもキャップを適当に置いているだけで演奏できるのですが、そうすることで逆に普通とは違ったおもしろいグルーヴが生まれるという面もあります。それとさっきの河内音頭とYoshimiOさんのように普段、絶対にコラボすることがないような人たち同士をデバイスの中で引き合わせることができるのも特徴のひとつですね。リアルの世界でもこういったコラボによって、一見関係性がないもの同士でも似ている部分を見つけて、それらを重ねていくことで何か新しい世界観が生まれることがあると思いますが、QUASARはそういったことを音と映像で表現できるデバイスだと言えます。

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©️COSMIC LAB  

-- TwitterのタイムラインやLIVEMINEのコメント欄では、QUASARを用いたパフォーマンスが以前よりも進化したという感想も見られました。その進化はどのようなところにあらわれていたのでしょうか?

Colo Müller:パフォーマンスの後半に千手観音のバーチャルモデルが出現するシーンがありましたが、そこでは配信画面を一度完全にVR空間に切り替えました。ただ、その時のVRの中のカメラは、リアルで撮影しているカメラマンやクレーンのカメラの動きを追従したものだったので、逆にいつでもリアルに戻ることもできました。そういったリアルとバーチャルの行き来によって視点の自由度が以前よりもかなり上がったことは、QUASARの進化に当たる部分だと思います。

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それと即興ボイスパフォーマーとしてのクオリティが高いYoshimiOさんの存在もやはり大きかったですね。彼女が素材として登場することでQUASARにおけるアーティストの存在感や価値もすごく高まりました。あと実演してくれたPlant Recordsの2人のうち、DJ YASAくんはDMCの世界大会で5連覇を達成しているターンテーブリストだし、彼らはビートメイキングやさっきのBPMと回転数に関する理解度も高く、音楽的な部分でのQUASARのポテンシャルを最大限に引き出してくれたました。

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-- 今後、QUASARを使ったXRライブパフォーマンスは、どのように進化していくのでしょうか?

Colo Müller:今回のパフォーマンスでは、以前の案件でも使わせてもらった雅楽や河内音頭の素材を利用しましたが、これらは新しい音楽のアプローチとして、アーティストからほかの素材と組みあわせて使う許可をいただけたものです。今後は、そういった許可をいただけたものを使って、作家やアーティストの意図を超えた融合による化学反応を生み出していくことがQUASARの進化の方向性になっていくと思います。

こういった使い方をすることは場合によっては、アーティストイメージを損なう可能性があるため、許可をいただけないこともあると思いますが、ありがたいことに今回の配信を見て頂いたアーティストの中には「自分もQUASARの素材として使ってほしい」と言ってくださる方もいました。そういったQUASARを使ったパフォーマンスに理解を示して頂けたりり、可能性を感じて頂ける方には今後もデバイスの素材という形で参加してもらえたらうれしいですね。

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最後に。
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