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HACCLA @CHELSEA HOTEL(20231104)

 香り高き声と泰然が導く、成長と躍動を湛えた祝宴。

 11月2日で30歳となったシンガー・ソングライターのHALLCA。2019年のソロとして本格的な初のワンマンライヴ(「HALLCA @CHELSEA HOTEL」)と同じく、誕生日ジャストの開催とはならなかったが、僅か2日遅れただけのバースデーライヴは、〈HALLCA's BD tour "OUR HEAVEN"〉と題した東阪ツアーの東京公演として行なわれることに。盟友クマガイユウヤを筆頭に、ベースの高野逸馬、ドラムの多田涼馬という現時点でのHALLCAバンド鉄壁の布陣に加え、客演曲「Starry Rain」でコラボレーションした宮野弦士と、ダンスポップ・バンドのkukatachiiをゲストに迎え、誕生日とソロ5周年を祝したメモリアルなステージに相応しいラインナップで、終始笑顔が溢れるステージを展開した。

 このところ観賞しているライヴでは、よく出囃子として使われていた「Diamond(Yohji Igarashi remix)」から導入するパターンは少なくなってきて、この日も「Dream Dancer」の冒頭をア・カペラによる〈OUR HEAVEN〉のためのアレンジに。スロー・テンポに落として「ページを開いて さぁ」と紡いだ後、「you can't stop the beat!!!」のフレーズから走り出すという祝宴のオープニングらしい華やかな演出で幕を開けた。

 最近のHALLCAは、アウトロのファルセットが儚さを纏う「Night Driver」しかり、ライヴではEspecia時代のメランコリック・ソウル/R&Bチューン「Rittenhouse Square」をエフェクトして拝借した「Eternal Light」しかり、ミディアム・チューンの佳曲が多いが、それがHALLCA自身のヴォーカルワークと良き相性を見せているのも特色。MCにて「(バンドメンバーたちも)みんなアラサーなので、ちょっとアダルティに、行きたいと思いますよ?」と(アダルティといいながらも口調はギャルっぽく)おどけて言っていたが、楽曲が持つ詞世界やムーディなヴァイブスを、深みある情緒とともに咀嚼して、甘美や哀切といった表現へとアウトプットする術を会得してきたようだ。

 その一方で、HALLCAが本来持ち得る華やかで陽の部分にも、力感を減らして歌うことへアジャストしてきたこともあって、パッと花開くようなまばゆいヴォーカルワークがより活きている感じも。ちょっと変則的なアレンジにも聴こえた「Show the Night」や、「Hide us, Hide us, Hide us…」というファルセットパートが耳を惹く「Inner Heaven」での、技巧というよりも自身の感情を楽曲に吐露していく表現に、その浸透性の成長を感じていた。

HALLCA

 Especia時代からHALLCAのステージを観てきて、シンガーとしての彼女の武器は何かと言えば、さまざまな楽曲に染まることが出来る吸収力と華やかな声色、そしてフットワークの軽いポップネスだろうと思う。グループ活動に終止符を打ち、ソロとして始動した時に、ある意味グループという足枷がなく、自身の最大の武器を活かせるのかと見ていたのだが、少しネガティヴな話になってしまうかもしれないが、初めてソロのHALLCAを観た当時の印象は、本音を言えば、かなり残念なものであった。正確には残念というよりも、期待していたこともあって、悔しさが脳裡を支配していたように思う。当時の拙ブログ(「HALLCA@中目黒 楽屋」)でも「不安や弱気が過ぎるような佇まいが見受けられるのが残念といえば残念」「慎重になり過ぎるがゆえ、極端に言ってしまえば定規をなぞるように線を引く“正確性”が意識過多」「自らの感情を鍵盤とともに打ち響かせる“心情”重視の歌唱であったら、彼女らしい晴れやかで彩色鮮やか、表情豊かな歌唱が活きたのではないか」などと(HALLCAのファンに知られたら怒りを買いかねない感想を)記していたが、それから5年が経過した今、やっと心身ともにシンガーとしての力量を発揮出来る素地が整ったといえる状態に辿り着いたのではないか。気負いや力みなく、感情や心境に即したヴォーカルワークに、それが見てとれた気がした。

 個人的にHALLCAのヴォーカルの特長を表わせと問われたら、それは(これまで誰にも言ったことはないが)“フレグランス・ヴォーカル”と呼ぶものだ、と答えるかもしれない。無論、フレグランスは香水やコロンをはじめ、大きな意味で香料・香りという意味だが、HALLCAの特質として、さまざまな楽曲に染まる吸収性やフレキシブルなアプローチにより、楽曲に応じた上品さや華やかさ、輝きやナイーヴなど、さまざまな声色を放つことに才を持ったスタイルが魅力だ。宮野弦士を招いて、キーボード演奏の宮野と共演することでリアルなコラボレーションを具現化した「Starry Rain」で、後ろ髪を引かれるような憂いや慕情を映し出したかと思えば、引き続き宮野がキーボードからギターに持ち替え、クマガイユウヤとのツインギターでギターバトルよろしくキュインキュインと爪弾き、高野のファットなボトムとも掛け合うイントロが印象深く刻まれた「WANNA DANCE!」では、弾けるような本来の資質が存分に発揮された屈託ないジョイフルな歌唱を展開。宮野を含めたバンドが放つ快活なグルーヴにも背中を押され、シンガーの本質といえる、歌うことの喜びを体現していた。

 続いて登場したゲストのkukatachiiとは、共作による新曲「Romantic」を披露。kukatachiiはYudaiとYuiによるダンスポップ・バンドで、80年代ポップス、R&B、ファンクなどブラック・ミュージックを軸に、現代的なアプローチで紡ぎ出すサウンドが特色とのこと。「Romantic」はシックあたりのダンスクラシックスやディスコ・ファンクから、80年代のニューロマンティック、ニューウェイヴ、シンセポップなども見据えたサウンドと、Yudaiの英語詞とHALLCAの日本語詞を交互に繰り出すフロア・ダンサーとなっていて、HALLCAリスナーたちのウケも良さそうだ。初めはYudaiに寄り添いながら歌い出したHALLCAだが、Yuiの鍵盤やコーラスにも乗せられ、次第に体躯を揺らして歌う姿に。Yudaiに劣らないパッションを発露させながら、また異なる彩色で歌うことの喜悦を満たしていた。

 自我を強く持ったパワフルなヴォーカルワークを堅持することは、シンガーとしてのアイデンティティを表現しやすいし、五感に響くという意味でも強調出来る資質ではある。そういった観点からすれば、楽曲によって声色や雰囲気を変えていくというのは、一見流されやすいとみなされるかもしれない。しかしながら、楽曲のムードやヴァイブスに沿う歌唱は、楽曲の世界観へナチュラルに寄り添えることが魅力だ。それがまさにフレグランス・ヴォーカルの特性の一つであり、ことさら声圧が高い訳でもなく、抜群のピッチの安定感を持つ訳でもないHALLCAの歌唱が印象深く刻まれる、豊かな資質なのだと思う。サウンドに“馴染む”ことに特化した才や力とでも言おうか。
 
 終盤に入り、「Sugar」に続いて歌われた新曲の「メモリー・コラージュ」は、ドライヴ感を湛えたリズムとフュージョン・ライクなギターで爽やかなサウンドスケープを描いた楽曲。初披露ということもあり、歌い慣れていないとは思われるが、上述したHALLCAの才が発揮されたアクトの一つとなった。和モノレアグルーヴのようなアプローチも感じるHALLCAの得意分野なテイストで、歌い口や表情も実に晴れやかだ。自然とそうたらしめたのは、さすがHALLCAの勝手知ったるPellyColoマジックといったところか。(※訂正:「Dreamer」をサンプリングしたクマガイユウヤとHALLCAの共作とのこと。何を思ったのか、完全な記憶違いをしていました……) その爽快なムードの流れを受け継いだ「Paradise Gate」への流れも見事だった。本編ラストの「コンプレックス・シティー(東新レゾナントRemix)」では、「テテ、テッテ…take me away」の部分を楽しげにソラで歌ったりと、リラックスして満喫する姿が実に微笑ましかった。

 アンコールは、7月の5周年記念公演(「HALLCA @LIVE STUDIO LODGE(20230717)」)でも披露した「"Aperitif e.p" Medley」を。HALLCAの原点となるソロ1st EP『Aperitif e.p』の4曲のうち、「Diamond」「Dreamer」にディアンジェロ&ザ・ヴァンガード「シュガー・ダディ」を敷いたブラックネスの高い「guilty pleasure」の3曲をショートヴァージョンで繋げ、ラストはHALLCAがファンを思い描いて綴ったという「Milky Way」を配置。フロアからのスマホライトの光が“天の川”を形成する無数の星の一つとなり、多幸感に満ちたHALLCAを照らしながらのエンディングとなった。

 「30歳になっても歌えると思っていなかった」「歌えているのはここにいるファンのお陰」とファンへの感謝を告げながら、伸び伸びとステージを完遂したHALLCA。苦悩と葛藤、喜怒哀楽を伴にした経験と紆余曲折を経て、ようやく心の底から快く、伸びやかに歌う境地に辿り着いたか。その姿に快哉し、音に揺れるフロアのオーディエンスも、この日のメモリアルなステージの享楽の一助となったはずだ。最後にHALLCAのシンガーとしての原動力や導火線となったであろうバンドメンバーに愛と感謝を伝えた表情には、希望が満ち溢れていた。それと同時に、フロアにて、HALLCAのさまざまなフレグランスという名の声色に酔い、その残り香とも呼べる余韻に浸るファンが微笑みながら談笑している姿が、この日のステージの充溢を証明していたといえよう。

 甘く華やかで、時に儚げなエレガンスを纏った、HALLCAこと冨永悠“香”のフレグランスなヴォーカルは、11月19日の大阪公演で再びその薫りを放つ。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Dream Dancer("OUR HEAVEN" a cappella intro ver.)
02 Night Driver
03 Eternal Light(include sampling "Rittenhouse Square" by Especia)
04 Show the Night
05 Utopia
06 Inner Heaven
07 Starry Rain(guest with 宮野弦士)
08 WANNA DANCE!(guest with 宮野弦士)
09 Romantic(guest with kukatachii) (New Song)
10 Sugar
11 メモリー・コラージュ (New Song)
12 Paradise Gate
13 コンプレックス・シティー(東新レゾナントRemix)
≪ENCORE≫
14 ~"Aperitif e.p" Medley~
 Diamond
 Dreamer
 guilty pleasure(include riff of "Sugah Daddy" by D'Angelo & The Vanguard)
15 Milky Way

<MEMBERS>
HALLCA(vo,key)
クマガイユウヤ(g / Band Master)
高野逸馬(b)
多田涼馬(ds)

Special guest:
宮野弦士(g,key)
kukatachii(Yudai(vo)/ Yui(key,cho))

高野逸馬(b)/ HALLCA(vo,key)/ クマガイユウヤ(g / Band Master)/ 多田涼馬(ds)
HALLCA 〈HALLCA's BD tour "OUR HEAVEN"〉

◇◇◇
【HALLCAに関する記事】
2018/08/04 HALLCA『Aperitif e.p』
2018/11/26 HALLCA@中目黒 楽屋
2019/08/30 HALLCA @Jicoo THE FLOATING BAR
2019/11/02 HALLCA @CHELSEA HOTEL
2020/01/19 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2020/01/25 〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.
2020/11/01 HALLCA @六本木Varit.
2020/12/13 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2021/05/31 〈HOME~Thank You “Daikanyama LOOP” Last Day~〉@ 代官山LOOP
2021/07/25 HALLCA @GARRET udagawa
2021/09/19 HALLCA @代々木LODGE
2021/11/24 HALLCA @TOWER RECORDS渋谷【In-store Live】
2022/01/11 HALLCA『PARADISE GATE』
2022/01/26 〈生存戦略〉@高円寺HIGH 【HALLCA / 仮谷せいら / hy4_4yh】
2022/02/23 HALLCA @GARRET udagawa
2022/07/27 HALLCA @渋谷 7thFLOOR
2022/08/06 HALLCA @代々木LODGE〈Hang Out!!〉
2022/08/11 WAY WAVE @GARRET udagawa
2023/01/08 HALLCA @CHELSEA HOTEL(20230108)
2023/04/16 HALLCA @GRAPEFRUIT MOON(20230416)
2023/06/04 kiarayui × HALLCA @LIVE HAUS(20230604)
2023/07/17 HALLCA @LIVE STUDIO LODGE(20230717)
2023/11/04 HACCLA @CHELSEA HOTEL(20231104)(本記事)


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