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HALLCA @GRAPEFRUIT MOON(20230416)

 しなやかな気概も忍ばせた、盟友との余情溢れるステージ。

 "気持ちを新たに”という想いから〈new season〉とタイトルに冠したライヴを、東京・三軒茶屋にあるGRAPEFRUIT MOONにて開催。1月に行なわれたワンマンライヴ(→「HALLCA @CHELSEA HOTEL(20230108)」)とは趣向を変えて、盟友ギタリストのクマガイユウヤとのミニマムな編成で、春風そよぐような爽やかでハートウォームな時間を紡いだ。

 「Precious Flight」からの「Marble」までの序盤4曲と「Starry Rain」以降は音源にクマガイのギターやHALLCAのキーボードを重ねる形で、それに挟み込まれるように中盤の「Inner Heaven」「Jewel Rain」ではデュオ・セッション・スタイルという構成。バンド編成とはもちろん音量も音圧も異なるが、ミニマムならではのフットワークの軽さとフロアの親密性を活かした温もりが伝わるアプローチで、肌当たりが心地よいサウンドを奏でていく。「Eternal Light」では、HALLCAがガールズ・グループ時代に歌っていたEspeciaのミディアム・ソウル「Rittenhouse Square」をサンプリングしたアレンジに昇華するなど、ところどころに隠し味的な仕掛けで楽しませてくれた。

 デュオ・セッションでは、特に「Jewel Rain」が耳を惹いた。春らしいパステルな彩りを帯びたHALLCAのヴォーカルにほどよい陰影を刻むように、ささやかながらも耳に残るギターでしっとりと、しかしながら、決して柔和ではない、感情の襞をくすぐるような甘美な妖しさも醸し出していた。単にセンチメンタルというよりも、黄昏のモノローグといった風で、HALLCAの成長を窺えるシーンでもあった。

 それにしても、絶大なる信頼を寄せ、気の置けないクマガイとのコンビネーションゆえか、HALLCAは終始リラックス。トークも弾んで、いつも以上に冗舌で(関西出身の性が出たのか)夫婦漫談のようなMCを繰り広げていた。
 その心境にさせたのは、1月のワンマンライヴ終了後の反省会(本人いわく〈地獄の打ち上げ〉)で想像以上にダメ出しをされ、落ち込んだことがきっかけになったようだ(「もう歌うのやめる!」と言い出したいくらいの傷心だったそうだ)。何をしていきたいのか、どのように歌いたいのか……といった問いかけに戸惑うなかで、クマガイからの「曲を作ってみたら」という声にも感化され、音楽に携わること、歌うことへの愛着を人一倍感じて、また曲を作ろう、歌を歌っていこうという気持ちになれたという。

 確かに、HALLCAは音楽を吸収することに能動的で、さまざまな音色やジャンルにも溶け込むヴォーカルスタイルを持っている。ただ、それゆえに音楽に染められてしまって、これぞHALLCAというオリジナリティが没もれてしまうことも、正直なところ、なくはなかった。おそらく、それはヴォーカルスキルやらサウンドへのアプローチというよりも、自身のメンタルの影響が大きいのではないかと個人的には感じている。そして「上手くやらなければ」「気に入られなければ」という想いが強いばかりに、知らず知らずのうちに委縮して、本来持つ資質を出しきれないというジレンマもあったのではないだろうか。

 自ら聳え立たせていた委縮という名の壁から解放された……とは大袈裟かもしれないが、〈地獄の打ち上げ〉以降に芽生えた心境の変化によって、ライヴへと臨む心持ちも変わったのだろう。そのパートナーが盟友クマガイであれば、なおさら心強い。本ライヴ当初より、ほのかにピンクに染まったような明るい表情や、肩の力が抜けた可動域の広い、いつも以上にナチュラルなヴォーカルワークは、"気持ちを新たに”したことの表われといえるか。

 その感情を、夜のラヴアフェア―へと立ち位置を替えて投影したのが、クマガイとの共作による新曲「Night Driver」だという。潮流としてのシティポップや和ものレアグルーヴにも通じる、ノスタルジックな色合いを施したアーバン・ポップという作風は、HALLCAの得意とするところで、派手さはないが余韻を残すというシックな仕上がり。アウトロのハイトーンのフェイクが、艶やかなHALLCAを覗かせている。

 「Night Driver」というタイトルは、アーバン・ポップスには珍しくないものではあるが、フックでの物憂げなムードのなかで希望を見出そうとするような"Night Driver”のフレーズを聴き、ハタと思ったことがあった。なぜ
"Traveler”ではなく"Driver”なのかと。

 「Precious Flight」では『PARADISE GATE』のジャケットヴィジュアルよろしく、楽園への扉を開きに旅立つフライト前の希望に満ちた曲で、「時彷徨うトラベラー」と歌っていた。だが、クマガイと共作した新曲では"travel”を用いずに"drive”を使っている。driveには推進力、原動力、牽引のほか、活発にする、駆り立てるといった意味もある。
 ちなみに、travelは、ラテン語では拷問器具を表わす"トリパリウム(Tripalium)”、古仏語では苦しみや仕事を示す"トラバーユ(Travail)”を語源とする。これまでは旅人のように希望に満ちた場所(=高み)へと漠然と辿り着きたいという想いで歌ってきたが、travelerのように彷徨うのではなく、苦しみを伴う"travel”から脱して、自らを駆り立て、前へ進みたいという新たな気持ちが"drive”という言葉を無意識に選ばせていたのかもしれない……と考えるのは妄想が過ぎるだろうか。

 奔放とも思えるほどに歌い泳ぐHALLCAは、ラストまでその豊かな表情と声を振り撒いていた。「Dream Dancer」「Wanna Dance!」でのコール&レスポンスを受けて、クマガイと喜びの感情が溢れるがままにアイコンタクトする姿も微笑ましく、伸びやかに歌うHALLCAの魅力を伝えていた。

 アンコールは、観客にスマートフォンのライト点灯をねだり、照明を落としてもらってから、眼前の"小宇宙”に流れる"天の川”を演出させての「Milky Way」を情感たっぷりに。HALLCAの原点となる「Diamond」は、聴き慣れた楽曲ながら、ソロとして培ってきた経験とともに、もう一度原点に立ち返る意識から生まれた新たな輝きを纏ったような、滋味が豊かな音鳴りにも感じた。

 「Night Driver」をはじめ、バンドやさまざまな形で自身の楽曲を育て、リスナーに寄り添う音楽を歌っていきたい……そんな音楽や歌への愛着が充溢した、余情を残す一夜となった。

クマガイユウヤ&HALLCA

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION~Diamond(Yohji Igarashi remix)
01 Precious Flight
02 Pink Medicine
03 Eternal Light(include sampling of "Rittenhouse Square" by Especia)
04 Marble
05 Inner Heaven(duo session style)
06 Jewel Rain(duo session style)
07 Starry Rain(Original by 宮野弦士 feat. HALLCA)
08 Night Driver(New Song)
09 Dream Dancer
10 Wanna Dance!
11 コンプレックス・シティー(東新レゾナントRemix)
≪ENCORE≫
12 Milky Way(duo session style)
13 Diamond 

<MEMBERS>
HALLCA(vo,key)
クマガイユウヤ(g)

クマガイユウヤ&HALLCA

◇◇◇
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2023/01/08 HALLCA @CHELSEA HOTEL(20230108)
2023/04/16 HALLCA @GRAPEFRUIT MOON(20230416)(本記事)


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