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J.LAMOTTA SUZUME @BLUE NOTE TOKYO(20230128)

 ナチュラルな佇まいで生み出す、彩色豊潤なネオソウル。

 既に2018年に初来日を果たし、翌2019年にもブルーノート東京にて来日公演を行なっているイスラエル・テルアヴィヴ出身の才媛、J.ラモッタすずめのステージを、念願叶ってようやく観ることができた。これまではドロン・シーガル(key)、マーチン・ブウル(b)、ラファット・ムハマド(ds)を軸としたバンド・メンバーが帯同したが、本公演ではステージ左から宮川純(key)、シャイ・ハザン(b)、山下あすか(perc)、石若駿(ds)と邦人を中心としたセットで構成。オープニングDJとゲストにJ.ラモッタすずめと共作アルバム『Searching Skies』をリリースしているBudaMunk(ブダモンク)が加わるほか、トランペッターのKibunyaことパトリック・ムーディ、〈origami PRODUCTIONS〉所属のマルチシンガーのNenashi、マルチインストゥルメンタリストの安藤康平のソロプロジェクトとなるMELRAWといった面々がスペシャルゲストで登壇し、J.ラモッタすずめの世界に鮮やかな彩りをもたらした。

 昨年に母国語のヘブライ語をベースにしたソロ・アルバム『ソー・アイヴ・ハード』をリリースしたので、てっきり同作を軸としたステージを展開するのかと思いきや、「Eyes」と「Fruits」の2曲のみで、コラボレーション楽曲を中心としたラインナップに。ステージ右脇でオープニングDJを務めていたBudaMunkへ歩み寄り、隣でマイクを握ってステージ脇での「Eyes To The Skies」共演を果たすと、そのまま雪崩れ込むようにしてステージへ。小柄でキュートな笑顔を振り撒き、時折「アリガトウ」「ゴメンナサイ」「スミマセン」などの日本語を交えながら、精鋭のバンド・サウンドをバックに、魅惑的なパフォーマンスを繰り広げていく。

 序盤には「目を閉じて~ 耳を澄ます~」という日本語のコーラスが入る「Eyes」でフロアを煽ると、中東を想わせるエスニックな色合いのアレンジのイントロから軽快なオーガニック・ソウルへと突入する「Deal With It II」を経て、再びBudaMunkを呼び寄せて共作曲「Put It Aside」を披露(BudaMunkはMPCシーケンサーをプレイ)。

 中盤で披露した、同郷テルアヴィヴのシンガーのジェニー・ペンキンとのアラビアンなレゲトンとでもいえそうな「Karaoke」といった風変りな楽曲では、曲中にすずめのみにスポットライトが当たり、"ンーマッ!”と投げキッスする演出も。日本で活動できることが夢だったと語り、グルーヴに揺れるオーディエンスを見遣って嬉しそうに破顔するなど、表情豊かにステージを楽しむ様子が印象的だった。

 終盤は、多彩なゲストを迎えての豪華なアクトを展開。Kibunyaのトランペットを重ねた「Back In Town」から、ソウル・シンガーのHiro-a-keyのマルチ・アーティスト名義"Nenashi”との楽曲「Gonna Be Good」を、Nenashi本人と引き続きKibunyaも加えた形で歌ってヴォルテージをさらに高めると、Yutaka TakanamiとFuminori Kagajoによるプロジェクト・ユニット"Snowk”とコラボレーションした、90年代R&Bマナーのシンセ・トラックが耳を惹く「Trust the Change」をもって本編はラスト。当然、興奮冷めやらぬオーディエンスからのクラップが一瞬にしてフロアの隅々までに響きわたると、アンコールにはMELRAWが現れ、同じくSnowkとの共演曲で、ネオソウルとアシッドジャズを融解させたようなダンス・グルーヴァー「Under The Moon」で、鮮やかに魅惑的なステージを纏め上げた。

 以前にエリカ・バドゥやジル・スコットにも通じる歌声などと評されたこともあったJ.ラモッタすずめだが、オーガニックな要素という意味ではエリカ・バドゥの影響も感じられるが、ジル・スコットっぽさはあまり感じなかった。淀みのないシルキータッチで、時にクールに、時にチャーミングな表情で歌う姿は、どこまでもナチュラル。しかしながら、毒気がない訳ではなくて、やはり彼女自身がビートメイクをし、ラップも駆使するゆえ、ヒップホップを享受したバックグラウンドが如実に見て取れる。70年代ソウル(ニューソウル)からネオソウル、オーガニックなR&Bといったメロウなテイストが通底するなか、ヒップホップやビート・ミュージックをしなやかに吸収した世代ならではの、個性的なアウトプットが、J.ラモッタすずめを独創的な存在にしているのだと、このステージを観て改めて思った次第だ。

 もちろん、そこにはジャズというブラックネスへの浸透性も高く、この日は、快活で恍惚のリズムやムードを生み出した俊英たちによるバンド・サウンドによって、J.ラモッタすずめの資質である多彩な要素を横断する現代的なR&B/ソウルを、より懐深く、また鮮烈に発露させたといえるのではないだろうか。個人的には、出自も含めて彼女のミステリアスな部分や民族的なテイストを醸し出すことに成功したという意味でも、特にパーカッションの存在が大きかったと感じた。

 近年は殊にこの日共演したBudaMunkやNenashi、楽曲がセットリストに組み込まれていたSnowk、EVISBEATS、須永辰緒のプロジェクトのSunaga T Experienceなど、日本人アーティストとのコラボレーションを多数行なっているゆえ、今後も日本へのカムバックステージを見せてくれそうだ。ステージを通じて感じたのは、目まぐるしく変化するサウンドにも気張らずに寄り添い、咀嚼し、リズムやビートに軽やかに乗ることができる資質や才能はもちろんだが、何よりも即座にビートへ歪むことなくアジャストする、ナチュラルな佇まいが見事だ。聴き手に緊張を強いることないムードメイクも魅力で、チャーミングに溢れている。イスラエル出身という特異性にフォーカスされることもあるが、2020年代ソウル/R&Bシーンの中心に位置しても不思議ではないパワーを感じ取った一夜となった。次回の来日もマストだ。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION ~ Eyes To The Skies(DJ play with BudaMunk)(Original by BudaMunk & J.Lamotta) (*SS)
01 No Problem(Original by Misha, cocabona, J.Lamotta)
02 Beirut(Original by Gianni Brezzo feat. J.Lamotta)
03 Einaym(Eyes) (*So)
04 Deal With It II (*Su)
05 Put It Aside(with BudaMunk)(Original by Budamunk & J.Lamotta)
06 Fire (*B)
07 The Center(Original by The Center feat. J.Lamotta)
08 Karaoke(Original by J.Lamotta & Jenny Penkin)
09 Perot(Fruits) (*So)
10 Make Me Feel(Original by SGJAZZ feat. J.Lamotta)
11 Back In Town(with Kibunya) (*Su)
12 Gonna Be Good(with Nenashi, Kibunya)(Original by Nenashi feat. J.Lamotta)
13 Trust the Change(Original by Snowk & J.Lamotta Suzume)
≪ENCORE≫
14 Under The Moon(with MELRAW)(Original by Snowk & J.Lamotta Suzume)

(*C) :song from album "Conscious Tree"
(*Su):song from album "Suzume"
(*B) :song from album "Brand New Choice"
(*So):song from album "So I've heard"


<MEMBERS>
J.Lamotta Suzume / J・ラモッタ・すずめ(vo)

Shay Hazan / シャイ・ハザン(b)
Jun Miyakawa / 宮川純(key)
Shun Ishiwaka / 石若駿(ds)
Asuka Yamashita / 山下あすか(perc)

BudaMunk / ブダモンク(DJ, sequencer)

Special Guest:
Patriq Moody a.k.a. Kibunya(tp)
Nenashi a.k.a. Hiro-a-key(vo)
Kohei Ando a.k.a. MELRAW / 安藤康平(sax)

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J. Lamotta Suzume


もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。