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The Brand New Heavies @BLUE NOTE TOKYO(20230214)

 ファンキーなグルーヴで熱狂を呼んだ、ヴァレンタインの饗宴。

 アシッド・ジャズ・ファンにはこの上ないヴァレンタイン・ギフトになっただろう、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズの来日公演。2月10日~12日とヴァレンタインデーの14日の開催が予定されていたが、10日は出演メンバーの体調不良により公演中止になったとのこと。オフィシャルサイトに具体的なことは書かれていなかったが、SNSなどを辿るに、どうやらヴォーカルのアンジェラ・リッチの声が不調だった模様。確かにこの日も掠れ気味で高音が出しづらそうで、バックヴォーカル/パーカッションのミム・グレイがたびたびメインヴォーカルを執ることもあった。それでもいつも通りに"お調子者”のサイモン・バーソロミューとアンドリュー・レヴィの盛り上げっぷりによってフロアは熱気に溢れ、オーディエンスも歌い踊って沸いた80分。再び派手やかな"ヘヴィーズ”が帰ってきた。

 2019年以来3年ぶりのブルーノート東京公演。個人的には残念ながら2019年は観賞出来なかったため、2018年(→「THE BRAND NEW HEAVIES@BLUENOTE TOKYO」)以来となる。当時はヴォーカルがスレーネ・フレミング(ブルーイのプロジェクトのシトラス・サンの来日ツアーにも帯同し、インコグニートのほか、マザー・アースやストーン・ファウンデーションなどの作品に参加)だったため、ヴォーカルのアンジェラ・リッチを観るのは初めてとなる。リッチと前述のミム・グレイのほかは、2018年来日時に引き続き同メンバー。左からキーボードのマット・スティール、ドラムのルーク・ハリス、ミム・グレイ、ホーン隊のリチャード・ビーズリーとブライアン・コルベットがバックに並び、レヴィ、リッチ、バーソロミューが前に立つ。 

 バンド・メンバーがステージに上がり、マット・スティールの滑らかな鍵盤とともにショウは幕開け。直後にオーディエンスとグラスを重ねたり、ハグをしながらステージインしたバーソロミューとレヴィが加わり、キレあるカッティングギターとファットなボトムを鳴らした瞬間に、フロアがファンキーに彩られていく。

 バンドによるイントロダクションを終えて、リッチを呼び込むと、マリア・マルダーのカヴァーでヘヴィーズの人気曲でもある「ミッドナイト・アット・ジ・オアシス」へ。リッチは、ニーナ・シモンやレイ・チャールズらに影響を受け、ジャズやブルースを背景にしながら、テイク・ザットのゲイリー・バーロウや、米R&Bシンガーのケリス(元ナズ夫人)、全米・全英ともに1位に名を連ねたリタ・オラとも活動し、近年はブラン・ニュー・ヘヴィーズのツアーに帯同。鮮やかなオレンジのドレスに、頭上に王冠(かぼちゃ?)を乗せたような編み込みのアップセットのヘアスタイル、こじんまりとした顔立ちは、どことなくジャネール・モネイやカーリーン・アンダーソンを想わせるところも。パワフルに圧倒するというより、知的な可憐なソングバードといった風。両隣でヤンチャを止めないヘヴィーズの2人とは対照的なイメージなのも面白い。

 リッチは、ブラン・ニュー・ヘヴィーズの2019年の最新アルバム『TBNH』に「ステューピッド・ラヴ」「イッツ・マイ・デスティニー」「ダンス・イット・アウト」「ゲット・オン・ザ・ライト・サイド」と4曲参加しているから、本公演も『TBNH』のリッチのヴォーカル曲をいくつか披露するのかと思いきや、楽曲ラインナップは例年と変わらず。曲数も10曲と少なく思えるかもしれないが、工夫を凝らしたアレンジで進行形のヘヴィーズを体現してくれた。

 一旦、リッチがステージアウトして、バンドメンバーのみで演奏したインストゥルメンタル曲「BNH」はもちろん、序盤の「ミッドナイト・アット・ジ・オアシス」やバーソロミューが歌唱した(かつてはドラムのヤン・キンケイドが歌っていた)「バック・トゥ・ラヴ」のアウトロや、王冠アップセットを下ろして、編み込みロングヘアと白を基調としたドレスへと衣装チェンジして戻ってきたリッチの独唱から一気にファンキーな展開へと雪崩れ込む「ステイ・ディス・ウェイ」、マイケル・ジャクソン「スタート・サムシング」のフレーズを高らかに鳴らすアグレッシヴなホーン隊の波にもう我慢ならんとばかりにバーソロミューが歌い出した「スペンド・サム・タイム」など、以前よりもジャズ・ファンク・セッション度を高めて、フロアの融点へ到達することに成功。特に(ラメ入りの黒いジャケットとサングラスに小太りなところが、どこか米ドラマのおまぬけ刑事コンビといった感じも漂う)コルベットとビーズリーのホーンセクションがアンサンブルの妙をより高め、(こちらも派手な光沢あるジャケットをまとった)グレイもパワフルで弾力あるヴォーカルでサポートするなど、リッチの不調な部分を打ち消すのに大いに貢献し、ショウを興奮の境地へといざなった。

 アンコールは、レヴィのベース・フレーズが沸きポイントの一つでもある「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」と「ドリーム・カム・トゥルー」というヘヴィーズ・クラシックスにしてエキサイト必至のヒット・アンセムから放たれるファンキー・グルーヴで、フロアを"蹂躙”。オーディエンスとのコール&レスポンスの波から、オーディエンスをステージに呼び込んだりと、ヘヴィーズならではの"もてなし”で、痛快なステージを完遂。「ハッピーバレンタイン!」の声とともに日本語で「アリガトウゴザイマス」とリッチが感謝を述べれば、バーソロミューはサンキューというかと思いきや「ファッキュー!」と叫んで突然ギターを弾いて歌い始め、リッチに「挨拶するから早く戻ってきて!」とたしなめられるなど、レヴィともども終始ヤンチャにステージを楽しんでいた。

 細かいことを言えば、リッチの声の不調などもあったり、レヴィとバーソロミューがMCでチャチャを入れ過ぎて、スムーズに演奏がスタートしなかったりする部分もあったが、それも含めてヘヴィーズのライヴ。マンネリ高濃度のセットリストであっても、ジャズ、ファンクの成分をふんだんに混ぜ合わせ、栄養価の高いグルーヴ空間にしてしまうのは、さすがの一言。時間の概念を吹き飛ばすような音のファンキー・カーニヴァルを創出した、パッショネイトな一夜となった。

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<SET LIST>
00 BAND INTRODUCTION
01 Midnight At The Oasis(Original by Maria Muldaur)
02 Never Stop
03 Back To Love
04 Dream On Dreamer
05 BNH(Band Only)
06 Stay This Way
07 Spend Some Time(include phrase of "Wanna Be Startin' Somethin'" by Michael Jackson)
≪ENCORE≫
08 You Are The Universe
09 Dream Come True

<MEMBERS>
Simon Bartholomew / サイモン・バーソロミュー(g,vo)
Andrew Levy / アンドリュー・レヴィ(b,perc)
Angela Ricci / アンジェラ・リッチ(vo)
Bryan Corbett / ブライアン・コルベット(tp)
Richard Beesley / リチャード・ビーズリー(sax)
Matt Steele / マット・スティール(key)
Mim Grey / ミム・グレイ(back vo, perc)
Luke Harris / ルーク・ハリス(ds)

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【ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズに関する記事】
2006/12/11 THE BRAND NEW HEAVIES@LAFORET MUSEUM ROPPONGI
2007/11/03 The Brand New Heavies featuring N'Dea Davenport@Billboard Live TOKYO
2008/12/10 THE BRAND NEW HEAVIES@Billboard Live TOKYO
2010/02/22 The Brand New Heavies featuring N'Dea Davenport@Billboard Live TOKYO
2011/11/02 The Brand New Heavies@Billboard Live TOKYO
2013/05/17 THE BRAND NEW HEAVIES@duo MUSIC EXCHANGE
2013/09/19 THE BRAND NEW HEAVIES@BLUENOTE TOKYO
2014/10/24 The Brand New Heavies@BLUENOTE TOKYO
2015/08/19 The Brand New Heavies@COTTON CLUB
2017/02/10 THE BRAND NEW HEAVIES@BLUENOTE TOKYO
2018/04/13 THE BRAND NEW HEAVIES@BLUENOTE TOKYO
2023/02/14 The Brand New Heavies @BLUE NOTE TOKYO(20230214)(本記事)


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