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黒川沙良 @BLUES ALLEY JAPAN(20230220)

 上質なグルーヴに包まれた、麗しき生誕の饗宴。

 才色兼備のシンガー・ソングライター/ピアニストの黒川沙良が、自身の誕生日(2月24日)を間近に控えてのワンマンライヴ〈SALA KUROKAWA BIRTHDAY LIVE 2023〉を開催。会場の目黒・ブルースアレイジャパンでは、以前もライヴを行なったようで、コロナ禍前の2019年以来のステージなのだそう。バンドメンバーには、黒川の右腕といえる盟友の"エロピ”キーボーディストのMANABOONを筆頭に、ヒップホップ・ユニットのトリカブトやマボロシのDJを務め、久保田利伸のツアーでもその顔を見かけたDJ大自然や、滝元堅志、望月敬史、藤山周といった三浦大知らのバックバンドで活躍する気鋭の面々が揃い、心揺さぶるグルーヴで黒川を好サポートしていた。

 個人的には、昨年末のクリスマスライヴ(記事→「黒川沙良 @下北沢SEED SHIP」以来2度目のライヴ観賞となるが、クリスマスライヴはピアノ弾き語りスタイルだったゆえ、バンドでのステージは初。いかなるアレンジメントを施すのかにも耳を立てながら、いまや遅しと黒川の登場を待った。

 ステージは2セットの構成で、1stはアルバム『On My Piano』『Prelude』からの楽曲を中心に、2ndは最近の配信曲などを中心とした内容。1stの冒頭は、個人的にフル・アルバム『Prelude』のなかでも気に入っている「Now Best One」から「Allnight」をメドレースタイルで披露。軽快なグルーヴに背中を押されるように爽やかな歌唱が駆け抜けたかと思うと、続く「I Still Love You」では熱い想いを吐露するラヴソングよろしく、内包する感情を醸した温もりの満ちた声色に。さらに、2020年の〈RECORD STORE DAY〉限定盤作品としてリリースされた7インチアナログ曲「イイネシナイデ」(レビュー→「黒川沙良「イイネシナイデ/ブリコー」」)では、「この曲を作った時よりもさらに嫉妬深くなった(笑)」という黒川の乙女心を覗かせるキュートな歌い口へと変化するなど、早速麗しく多彩なヴォーカルワークで魅了していく。

 流麗な鍵盤から幕を開ける、タイトルのごとく青く澄んだ海原を想起させる伸びやかさと春の蠢きのような活力を感じる「Blue」や、大切な人への感謝を綴った「Appreciate」を歌い終えたところで、1stは終了。約30分ほどというステージに黒川当人も「こんなに早いと思わなかった!」と反省の弁(?)を述べて、2ndへ移行した。

 オンリーワンな自分になろうソング「いいじゃん」は、他人と比べるより自分を愛そうという思いを、熱くではなく、軽快なリズムと晴れやかな歌唱で紡ぎ、深刻にさせないところが良い。その「いいじゃん」を終えると、「1stはあまりにも早く終わり過ぎたから」と、観客からお題を募って(以前、YouTubeなどでもアップしていたという)即興ソングコーナーを急遽行なうことに。観客から"冬”というテーマを投げかけられ、「ちょっと考えますね」と言ったところで、MANABOONから「考えたら即興じゃない」とツッコミが入ったりも。冬生まれで冬が好きだけど、年々寒さが厳しく感じると自虐する歌を披露し、笑いを生んでいく。「冬が好きな人」の問いかけに鈍かった観客を見て「少ない……」でラストを締め、フロアに笑いと歓声と拍手を呼んだ。もう1曲は"ヴァレンタイン”をテーマに、冒頭から「今年のヴァレンタイン、すっかり忘れてた……」と再び笑いをとっていた。

 続いては、スペシャルゲストの和田昌哉を招き入れて、「pulse」のアナザーサイドとなる「pulse part II」を。前述のクリスマスライヴでもデュエットを披露してくれたが、00年代のR&Bマナーの褐色のメロウ・グルーヴが漂うなかで、スムース&テンダーな和田昌哉のヴォーカルと絡むと、先程まで即興ソングでケラケラと笑っていた黒川もグッと妖艶な佇まいへと移ろい、これぞR&Bラヴバラードといった染み入るようなムードを演出。先日の弾き語りも良かったが、やはりバンドをバックにしてのデュエットは白眉。もどかしさに満ちた詞世界も、R&Bならではのビタースウィートなムードとマッチ。「pulse part II」から続く「Secret Call」「ブリコー」といった儚さや哀切が伝う楽曲群は、R&B好事家にとっては垂涎の展開だったといえるだろう。主張し過ぎずもしっかりと耳を惹かせる音の雨を降らせる、過不足ないバックバンドのアレンジメントも秀抜だ。

 一旦ステージから下がるバンドメンバーに「サヨナラ」と一言告げて(笑)、弾き語りソロでのしっとしとした「Goodbye」を経て、「I'm Going My Way」で本編はラスト。「pulse」「Secret Call」といったセクシー&スムースな作風ももちろんいいのだが、「I'm Going My Way」のようなグルーヴィなミディアム・アッパーももっと歌ってもらいたい部類の楽曲。90年代前後のややチープな鍵盤やビートをアクセントにしたモダンレトロな音像も微かに覗かせながら、進行形のブラックネスを失わないアレンジで昇華させる、都会的な洗練性を帯びたファンクネスで、フロアを酔わせていた。

黒川沙良 & 和田昌哉

 アンコールは、黒川が「ガールズトーク!」と曲名を告げた後に、バンドメンバーが「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー」を奏でるサプライズ。「予定にないことがあるとびっくりする」と語る黒川を尻目に、MANABOONをはじめとするバンドメンバーのしてやったりの表情が印象的だった。
 そんなハッピーなムードのなかで、今度は正真正銘のラスト「ガールズトーク」へ。心なしか黒川の声色やバンドが鳴らすサウンドも、よりジョイフルな感じに聴こえたのは気のせいか。フロアからのクラップの波に破顔して弾き語る表情には、浮き沈みがありながらも、真摯に歌い続けてきたから、悦びや快感、興奮を宿すステージにいられる……といった想いを馳せていたかどうかは分からないが、歌うことの充実感に溢れているようだった。

 麗らかに、朗らかに、物憂げに、鬱屈に……楽曲よってさまざまな面持ちを見せながら、良質なバックバンド・サウンドとデュエット・ゲストのサポートとともに黒川沙良ワールドを展開した2セット。次回はもう少し長尺で(アルバム・リリース・パーティなども)観てみたい……というのは贅沢な願いだろうか。1stセットでは両肩を出した白いドレス、2ndでは髪を解いて、背中がパックリと開いたバーガンディ系のロングドレスという出で立ちもあって、美貌と美音を堪能した一夜となった。

SALA KUROKAWA BIRTHDAY LIVE 2023 at BLUES ALLEY JAPAN

◇◇◇
<SET LIST>
≪1st Set≫
01 Now Best One ~ Allnight (*P)
02 I Still Love You (*O)
03 イイネシナイデ
04 Blue  (*P)
05 Appreciate (*P)

≪2nd Set≫
06 いいじゃん
07 即興ソング“冬”“ヴァレンタイン”
08 pulse part II(guest with 和田昌哉)
09 Secret Call
10 ブリコー
11 Goodbye(without BAND) (*P)
12 I'm Going My Way
≪ENCORE≫
13 “Happy Birthday to You” ~ ガールズトーク (*O)

(*P):song from album『Prelude』
(*O):song from album『On My Piano』

<MEMBERS>
Sala Kurokawa / 黒川沙良(vo,key)

MANABOON(key)
Shu Fujiyama / 藤山周(g)
Kenshi Takimoto / 滝元堅志(b)
Takashi Mochizuki / 望月敬史(ds)
DJ DAISHIZEN / DJ大自然(DJ)

Special guest:
Masaya Wada / 和田昌哉(vo)

◇◇◇
【黒川沙良に関する記事】
2020/09/12 黒川沙良「イイネシナイデ/ブリコー」
2022/12/22 黒川沙良 @下北沢SEED SHIP
黒川沙良 @BLUES ALLEY JAPAN(20230220)(本記事)

もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。