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eill @EX THEATER ROPPONGI(20230622)

 5年の祝宴で再び胸に刻んだ、新たなステップへの“幕開け”。

 アンコールの「フィナーレ。」を歌い終え、メンバーと並んで感謝の礼を済ませてステージアウトすると、ステージ上のスクリーンにはエンドロールとともに「フィナーレ。」のインストゥルメンタル・ヴァージョンのリプライズが流れる。すると、どこからともなくオーディエンスがシンガロングをし始め、その声が大きくなっていく。その光景に居ても立っても居られなくなったか、駆け足でeillが再び顔を見せると、瞳に溢れた涙を拭いながら「歌うのは反則やで」と言って、そのシンガロングに加わっていく。「味気ないね でもそれがね ふたりの幸せ」と最後のフレーズを歌い切ると、歓声に包まれるなかで「ありがとーう!」という感謝の快哉が響きわたった。
 eillの一夜限りの5周年記念ライヴ〈eill 5th Anniversary Live "MAKUAKE"〉は、自身が歩いてきた道程が確かなものと自覚し、その想いがファンたちへしっかりと伝わっていたことを再認識したメモリアルな時間となった。

 eillへ改名し、「MAKUAKE」でデビューした2018年から数えて5年。「MAKUAKE」のミュージック・ヴィデオを皮切りに、これまでの軌跡を走馬灯のように追ったようなムーヴィーダイジェストが流れた後、ちょこんと王冠を付した白の「eill」のロゴのネオンサインが点灯し、「はじまりは圧倒的素敵なもの」のナレーションを経てeillが登場。その「MAKUAKE」のフレーズをバラディア―調に歌うと「これがeillの幕開けだー!」と開口一番叫び、文字どおり5周年記念のステージが"MAKUAKE”した。

 ちなみに、開演前は、eill自身の曲や楽曲提供したBE:FIRST「Betrayal Game」のほか、テヨン「#GirlsSpkOut」、BLACKPINK「Lovesick Girls」「Shut Down」、aespa「Savage」、New Jeans「Ditto」、HeizeとJay Park客演のGroovyRoom「Sunday」などのeillが愛してやまないK-POP曲を中心にBGMが流れていたのだが(そのほかではデュア・リパ「Don't Start Now」などもあったか)、開演直前にそれらとはやや毛色が異なるタイプの楽曲が流れてきた。それがネイオ(Nao)の「Bad Blood」(デビュー・アルバム『For All We Know収録)で、ネオソウル/R&Bラヴァーの自分は即座に反応していたのだが、その瞬間は「突然違うタイプの楽曲を流すのは、何か意味があるのだろうか」などと、何の気なしに思っていた。すると、ライヴ中のMCで、バンドメンバー紹介の際に、一番最初のライヴから参加しているオチ・ザ・ファンクこと越智俊介に「〈Bad Blood〉カヴァーしたの覚えてる? 今日それで始まって、エモかったでしょ? たぶん、私とあなたしか知らない、これ」と語りかけていた。BGMからの導入にも、しっかりと5周年の歴史を汲み入れていたようだ。

 「折角5周年だし、本当は昔の歌とかも全部歌いたい」との想いもあって、デビュー曲「MAKUAKE」からアンコールの「フィナーレ。」まで(提供楽曲を含む発表曲60曲のうち)楽曲数にして25曲を、さまざまなアプローチで詰め込んで、支えてきてくれたファンたちへの感謝を歌で紡いでいく。サウンドを支えるのは、eillファンにとっても言わずと知れた辣腕ミュージシャンたち。個人的に前回観賞したビルボードライブ横浜でのライヴ〈Billboard JAPAN Women In Music vol.0 Supported by CASIO〉(記事 →「eill @Billboard Live YOKOHAMA(20230303)」)にも参加していた面々を中心に、eillの楽曲を数多く手掛けている宮田“レフティ”リョウがキーボード&ギター等で、BREIMENのサトウカツシロに代わって(メンバーに「カツシロ太った?」と弄られていた、MEMEMIONのキュアかいとがギターにラインナップ。MEMEMIONはどこかで聞いた名だなと思ったら、Furui Rihoのライヴにも参加しているエドガー・サリヴァンの坂本遥率いるバンドだ。

 「MAKUAKE」からシームレスに繋いだ「FUTURE WAVE」では懐かしさと興奮が合いまった歓声が沸き、昨年リリースの「プレロマンス」、ギアが1段上がるアッパー・ファンク「FAKE LOVE/」と続く。ファンからのリクエストを募った「懐かしのLIVE定番曲TOP3」と題したリクエストコーナーでは、宮田とマニュピレーターの箕輪陽介がDJ役に扮して、ランキング形式で展開。1stミニ・アルバム『MAKUAKE』に収録された、韓国のシンガーのK.vshを迎えた「ONE」や(この曲がなかったら最初はライヴ出来なかったと言っていた)2ndシングル「HUSH」、宮田がタオルを回すために作ったようで、普段は"陰キャ”と語るeillがマフラータオルを振りかざした「Fly me 2」と、初期曲やリクエスト人気曲を、短尺ながらも披露していく。

 「次の曲撮影OKらしいよぉ」「インスタライヴとかもしていいらしいよぉ」「電波悪そう」というギャル特有のダルい声がアナウンスされると、ステージにギャルたちが集結。eillが「みんなスマホ出して」「これが日本のギャルたちだぜ!」と啖呵を切って始まったのは「ただのギャル」。eillの楽曲のなかでも異質な類に入るエフェクト使いのエレクトロ・ヒップホップ/R&Bマナーの楽曲を、レイザービームが飛び交うなか、ギャルカルチャーのパッションで派手やかに彩った。

 その後も(おそらくあまりライヴで披露していないと思われる)ギターイントロの後で歓声が沸いた『MAKUAKE』収録の日本語・韓国語・中国語がミックスされたヒップホップ・マナーの「メタモルフォーゼパラマジーノ」、ステージ右上におぼろげな満月が照らされるなか歌った「((FULLMOON))」と新旧取り混ぜて展開。時間の都合上、楽曲数を詰め込んだ一方、フルコーラスとならない楽曲も少なくなかったが、「Into your dream」「初恋」をメドレー風に紡いで1曲のようにアレンジするなど、多くの楽曲を聴かせる工夫が見られた。
 17歳の時に一番最初に書いたという「スキ」や「片っぽ」では序盤のパートをeillがキーボードで演奏に加わったり、「ONE LAST TIME」では、キュアかいとと2人だけでステージ中央に腰かけ、アコースティックな弾き語りデュオ・スタイルでスウィートに聴かせたりも。アンコールではフロア後方の扉から登場して、「palette」を歌いながら、ステージまでフロアを歩くというサプライズもあった。

 タイトルとは裏腹に、逃れられない呪縛に苛まれた恋心を切なさを湛えて綴った、Amazon Original『ラブ トランジット』主題歌の「happy ending」では、恋に揺れる女性をドローイング風に描いたアニメーションによるミュージック・ヴィデオを、アンコールラストの「フィナーレ。」では、主題歌となったアニメ映画『夏へのトンネル、さよならの出口』の美しくノスタルジックなアニメーションを配したミュージック・ヴィデオを、それぞれスクリーンに投影。それらの世界観とともにeillの感情豊かな、機微に溢れるかヴォーカルワークを堪能させるなど、手を変え品を変えながら、オーディエンスの熱を高めていった。

 3月のビルボードライブ横浜公演(「eill @Billboard Live YOKOHAMA(20230303)」)においても述べていたように、eillが歌を歌い、伝えていくなかでの人生訓となっている「人生という物語の主人公はいつだって自分」という信念と、「もう一度自分でこの道を歩きたいと思うことが大切なんだ」「この道を歩き、築き、守ってきた自分を愛して欲しい、信じて欲しい」というファンへのメッセージとともに感謝と励ましを伝えた「SPOTLIGHT」からは、さらにギアがアップ。eillのフレッシュネスとキュートな表情が弾ける「20」やゴスペルマナーのヴォーカルワークで一体感を纏っていく「23」からは、コール&レスポンスやシンガロングの声量もさらに上昇。ギターをはじめ大胆でうねりあるバンド・イントロから始まったジャズ・ロック・セッション的なアプローチも刺激的な「ここで息をして」、エフェクトやネオソウル/ジャズマナーの鍵盤アレンジ、メランコリックかつ生命力に溢れるメロディラインで展開する「WE ARE」を経て、eillが持つスウィートネスをカジュアルかつリズミカルに発露した「踊らせないで」まで、フロアをときめきと微笑みで包むようなオーラを放ちながら、クライマックスへ。eillやバンドメンバーの一挙手一投足に反応し、オーディエンスが手や声を上げるなかで、多くのファンが身に着けたグッズの指輪「BLUE ROSE RING」の青く優しい光がフロアを埋め尽くしていく。なにかフロアという海に希望の青い光が浮かんでいるような光景にも感じた、印象的な瞬間でもあった。

 個人的にeillのライヴを初めて体感したのは、2018年の当時越智が在籍していたCICADAのEP『ESCAPE』リリースパーティ(記事 →「CICADA@SPACE ODD」)で、キャップを深めに被ったガーリーな印象があった。拙ブログを振り返ると「初期Crystal Kayや日之内エミ、emyliなどm-floとフィーチャリングを重ねてきたシンガーの路線に近いのかなと。(中略)m-floワークス路線のサウンドワークにアリアナ・グランデらのUSコンテンポラリーのポップ感、ティナーシェら(最新作のエイメリーでもいいかな)のUSフューチャーソウル/R&Bやトラップの要素をプラスしたイメージ」などと記しているが、決して広くはない代官山SPACE ODDで「Uh ma-ma-ma-ma future wave~」と歌っていたのが、Sik-K、向井太一とともに「tell me tell me」にて実際にm-floに"loves”され、メジャー・デビュー後も多くのタイアップに起用されるなど、確実に飛躍を遂げてきたのは明らかだ。

 ビルボードライブ公演や1700超のキャパシティのEX THEATER ROPPONGIで晴れ姿を披露した今のeillは、2018年のまだ"ティーン”を卒業したばかりの当時の自分にもし語りかけるとしたら、どんな言葉を投げかけるのだろう。そんな興味が頭をもたげるなか、2018年に観て以来、しばらく遠ざかっている間にビッグになったeillについて、驚きや時の早さを感じながら、会場を出て、小雨が降る六本木の街を足早に歩き出した。耳にイヤフォンを入れ、PLAYボタンを押すと、流れてきたのは「SPOTLIGHT」。フックの「眩しい光に 包まれた 私を誰も止められはしないの」の歌声と、ステージでの歌う悦びをファンやバンドメンバーたちとともに感受していた姿を重ね合わせ、しばらくは充実期に入ったノンストッパブルなeillが観られそうだとあらためて再認識した。雨の中でも足取りが軽く、笑みに溢れた周囲のファンたちの声が次第に遠ざかるなか、喧騒の夜の街を後にした。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 MAKUAKE
02 FUTURE WAVE
03 プレロマンス
04 FAKE LOVE/
05 Request Corner -懐かしのLIVE定番曲TOP3-
ONE ~ HUSH ~ Fly me 2 (with Minowa & Miyata DJs only)
06 ただのギャル (with GALS)
07 Guitar Intro ~ メタモルフォーゼパラマジーノ
08 ((FULLMOON))
09 Into your dream ~ 初恋
10 happy ending
11 スキ (including singing on a keyboard)
12 ONE LAST TIME(Prod.AmPm)(acoustic ver. with Cure Kaito only)
13 片っぽ (including singing on a keyboard)
14 花のように
15 SPOTLIGHT
16 20
17 23
18 Band Instrumental Intro ~ ここで息をして
19 WE ARE
20 踊らせないで
≪ENCORE≫
21 palette
22 フィナーレ。
23 OUTRO(End Roll) ~ フィナーレ。(reprise)

<MEMBERS>
eill(vo, key)
キュアかいと(g)
越智俊介 a.k.a ochi the funk(b, syn b)
松浦千昇(ds)
nabeLTD(key)
宮田“レフティ”リョウ(key, g, MC)
箕輪陽介(manipulator, perc)

eill BAND

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【eillに関する記事】
2018/11/27 CICADA@SPACE ODD
2023/03/03 eill @Billboard Live YOKOHAMA(20230303)
2023/06/22 eill @EX THEATER ROPPONGI(20230622)(本記事)

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