Liv.e @Billboard Live TOKYO(20230618)
興奮と恍惚へいざなう、アートの薫香漂う刺激的なアクト。
「LAを拠点に活動する、ダラス出身の新星ネオ・ソウル・アーティスト、リヴがビルボードライブに初登場。ミュージシャン一家の中で育ち、エリカ・バドゥやノラ・ジョーンズらが通った名門、ブッカーT.ワシントン高校やシカゴ美術館附属美術大学でアート、音楽を学んだ彼女」とは、ビルボードライブのオフィシャルサイトに掲載された紹介文だが、ネオソウルやらエリカ・バドゥ、ノラ・ジョーンズといった言葉に純粋に反応していたとしたら、面を喰らうこと間違いなしだっただろう。リヴの初来日公演となるステージは、アヴァンギャルドやパンキッシュなアティテュード、アブストラクトなサウンドスケープ、エフェクトを駆使して野太い男声までをも繰り出しながら、奔放なパフォーマンスで一気に駆け抜けた。
2020年に『クドゥント・ウェイト・トゥ・テル・ユー』(『Couldn’t Wait to Tell You』)でアルバム・デビューを飾り、音楽のみならずファッションシーンでも支持され、新世代アイコンとして脚光を浴びているリヴ。2023年2月に2ndアルバム『ガール・イン・ザ・ハーフ・パール』(『Girl in the Half Pearl』)をリリースした勢いのまま、初来日に漕ぎつけた。
これまでの作品はそれほど耳にしてこなかったこともあり、直前になって慌てて『ガール・イン・ザ・ハーフ・パール』をリピートしていたくらいだったのだが、ステージはその2ndアルバム『ガール・イン・ザ・ハーフ・パール』の楽曲を中心に構成していたため、ある程度聴き馴染みもあって、予想以上に楽しめたというのが実感だ。
グリーンのベアトップにライトブルーのロングブーツ、フロントの一部をホワイトに染めたセンター分けヘアに眼鏡姿という出で立ちで登場したリヴ。キャラクターマスコットの人形(英キッズ番組『テレタビーズ』に登場するラーラ(Laa-Laa)というキャラクターらしい)を機材の上に置いたり、「アリガトー」と日本語を語りかけるなど茶目っ気もある。メロウなトラックでの歌い出しなどには、たとえば、終盤に披露した「ワイルド・アニマルズ」などの比較的ネオソウル/ジャズ・マナーに近いトラックでは、エリカ・バドゥ的な神秘性やアーティスティックな一面を感じることもある。だが、どちらかと言えば、内面に潜んでいた業を感情のままに吐露するようなアグレッシヴで、パンキッシュなヴォーカルが軸か。見えない何かに向かって声を荒げるシャウトだったり、ラップトップやシーケンサーなどが置かれている機材のエフェクトを用いてファットで鈍いローヴォイスを放つなど、高音から低音、クリアなものから歪ませたものまで多彩な声色で、大きなカンバスを自由な彩色で描画していくように、予定調和とは一線を画したインプロヴィゼーションなパフォーマンスを展開していく。
バンドは、左手にシンセベース、右手にドラムというミニマムなセット。シンセベースではファットなボトムを終始這わせていて、縦横無尽に動き回るリヴとは対照的に、重心を低く、トラックを推進させていく。ドラムには電子パッド/ドラムも組み込まれているようで、生のドラム音とエレクトロニクスを一体化させたドラミングによって高速ビートを叩き出す。中盤での「ガルデット.」では高速ドラムンベースが炸裂し、波濤のごとく畳み掛けるドラミングは、オーディエンスの耳目を惹き付けるのに十分ぶん過ぎるほど。同曲はアンコールでも演奏したが、そちらでは本編の演奏よりインストゥルメンタルな度合いを高めていたから、リヴ以上にドラムの勢いを感じたアクトに(とはいいつつも、リヴもマイクを前や左右のスピーカーに当ててハウリングさせて、不協和音を鳴らすなどの独創的な音を生成していたが)。目まぐるしく跳ねるドラムの音に導かれるように全ての音が折り重なり、昇竜のごとく昇天して恍惚の扉を突き抜けるようなアウトロは、まさしく圧巻の一言だった。
リヴは、アーティスティックでどことなく近寄りがたい印象も与えそうではあるが、「ハウゼイライクミー!」の冒頭で「エヴリバディ・セイ・イェー!」とオーディエンスのレスポンスを煽ってみたり、「スノーイング」に入る際にクラップを促したりもする。サウンド自体はなかなかエクスペリメンタルなエッセンスが少なくないなか、声や音を突きつけ、発露させるだけでなく、グッと惹き込むような手合いも持ち合わせていて、ある意味では劇場型とも言えるステージワークで、沸々と燃え盛るような興奮を呼び覚ましていく。雷鳴よろしく激しい点滅を繰り返したり、深海のような深く濃いブルーだけが照らされるなどの刺激的なライティングも、リヴが創り出す世界観を巧みに演出する一助となっていた。
ネオソウル、ジャズ、パンク、ブレイクビーツ、ドラムンベース、エレクトロニクス、エクスペリメンタル……とさまざまな要素を包含しながら、他に抑制されることない、大胆不敵なパッションで遂行した70分。そのアティテュードに驚きと興奮を繰り返し、これまでなかなか動かせずにいた筋肉を駆使したような、心地よい疲労を覚えた刺激的な一夜となった。
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<SET LIST>
INTRODUCTION
Our Father
A Slumber Party!?
Lake Psilocybin
Heart Break Escape
HowTheyLikeMe!
RESET!
Gardetto.
Underground
Clowns
Six Weeks
Snowing!
Ghost
Find Out
Wild Animals
NoNewNews!!!
Ela(Original by Joyce Moreno)
≪ENCORE≫
Gardetto.
<MEMBERS>
Liv.e(vo, electronics)
Ian Davis(syn b)
Jonathan Ludvigsen(ds)
もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。