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HALLCA / Funkcuts @Grapefruit Moon(20240505)

 カラフルな艶とファンクネスが生む、ロマンティックなソワレ。

 ダンスポップ・ユニット“kukatachii”との邂逅で生まれた「Romantic」が、さらなるケミストリーを呼び込んだ。HALLCAとkukatachiiとのコラボレーション楽曲「Romantic」のリリースを記念したリリースパーティ〈ROMANTIC Release Party "ROMANTIC NIGHT"〉は、アットホームな雰囲気が漂いながらも、Funkcutsとの接触も含め、新たなHALLCAの可能性を見出したステージとなった。会場は三軒茶屋にあるライヴカフェ&バーのGrapefruit Moon。ここでは昨年にクマガイユウヤとのミニマムな編成で開催したライヴ〈new season〉(「HALLCA @GRAPEFRUIT MOON(20230416)」)以来の観賞となる。

 出演はトークボックスとスクラッチによるユニット“Funkcuts”(ファンクカッツ)とHALLCA、そして、それぞれにkukatachiiのYudaiがゲストとしてフィーチャー。kukatachiiのYuiは残念ながら不参加となった。

 「Romantic」のジャケット・ヴィジュアルやミュージック・ヴィデオのサムネイルや色合いの多くがピンクで占められ、〈ROMANTIC NIGHT〉と冠したイヴェントということで、HALLCA自身もその彩色を意識した衣装も見られるか……と一瞬脳裏をかすめたが、やはり、そこはグループ時代からのイメージカラーの青を基調とした衣装で登場。ただ、シースルーのロングブラウスにチューブトップ風キャミソールはブルー系の配色だが、ロングスカートはシルヴァーの近未来仕様で、光沢あるスパンコールジャケットを纏って歌うYudaiに触発されたか(個人的にはYudaiは、ミラーボールを足蹴にするジャケットでおなじみの『フューチャー・セックス/ラヴ・サウンズ』あたりのジャスティン・ティンバーレイクを意識しているのではと勝手に推測している)。

 「Diamond(Yohji Igarashi Remix)」をイントロダクションにして「Diamond」から本編が幕開け。ソロとしてのHALLCAの嚆矢となるこの楽曲は、幾度も弾き語りを重ねてきたこともあり、ドリーミーで煌びやかな世界観へスムースに導いてくれる。甘く華やかで、儚げなエレガンスを帯びたHALLCAならではの“フレグランス・ヴォーカル”が最も映える楽曲のひとつと言っていいだろう。転調してアウトロへ向かう展開が他の楽曲と一線を画す「Fall Back Asleep」でも、華やぎとセンチメンタルが交差するように纏い、胸の内に潜む静かなる情愛を解き放っていく。

 さまざまな表情を見せるHALLCAにおいて、持ち前の明るくキャッチーなポップネスが窺えるのが、アルバム・タイトル曲でもある「Paradise Gate」。やわらかな微笑みでの歌唱は、オーディエンスの表情もほころばせる。

 本公演のメイントピックはもちろん「Romantic」なのだが、もう一つのトピックとして、中盤にFunkcutsを呼び込んだこの日ならではのアクトも。HALLCAのフロアキラーの代表格「Wanna Dance!」に続いて披露されたのが、Especiaの“アバ銀”こと「アバンチュールは銀色に」。元来LUVRAWのトークボックスを駆使していた楽曲だから、FunkcutsのBENがトークボックス使いとあれば、その融合も必然。トークボックスにOKUのスクラッチを加えてアップデートされた令和版“アバ銀”を前にして、フロアからは懐かしいコールも飛び出すなど、ヴォルテージの上昇に一役買っていた。

 Yudaiを呼び込んでのメインディッシュとなる「Romantic」は、Yudaiの英語詞、HALLCAの日本語詞それぞれのパートからフックのハーモニーへ雪崩れ込む展開で、互いに見つめ合って歌う場面もあるが、よりファンキー・ディスコらしく、暑苦しいと思えるくらい、序盤からフェイクなどで絡み合っても良かった。本来の形であるYuiの鍵盤がプラスされれば、ゴージャスなアレンジやアクセントで一層派手やかになるとは思うが、タイトルが“ローマ”に語源を持ったラテン気質な曲となれば、kukatachiiが有する妖しいファンクネスでHALLCAを焚きつけ、それに触発された妖しげなHALLCAという新境地を垣間見せるくらいになれば、面白いのではとも感じた。おそらく今後も歌い重ねていくなかで、ブラッシュアップやアザー・ヴァージョンが構築されていくはずなので、さらなる絡みに期待したいところだ。

 パッショネイトな「Romantic」を終えると、享楽の夜は幻想と官能の扉を開けていく。艶やかな情緒に触れた「Labyrinth」は、それまでの晴れやかなアティテュードを軸としていたHALLCAにとって、甘美な大人の世界への橋渡しとなる情緒に富んだミディアム・チューン。この「Labyrinth」が褐色の色香に包まれた時、HALLCAの表現力は格段に広がっているはずで、そのシーンが訪れることに大いに期待したい、そんな楽曲だ。
 続く「Inner Heaven」はもう少しパーソナルで肌当たりがやわらかいミディアム・チューンだが、HALLCAの声色が持つエアリーなヴァイブスによって、ところどころに顔を出すメロディの陰鬱さを消していくのがHALLCAらしい。可憐な表情から次第に瑞々しいそれに移り、ハイトーンファルセットを繰り出すアウトロが美しい。

 再びHALLCAのキャラクターが発露するフロアキラー「Dream Dancer」でエンディング。オーディエンスからのクラップとレスポンスを受けて、嬉しさ満面に歌う姿が印象的だった。アンコールのクラップがフロアを占めるも、本編のみで終了となったが、Yudai、Funkcutsとのコラボレーションもあり、コンパクトながらもHALLCAのカラフルな特色がグッと凝縮されたようなステージとなった。

◇◇◇

Funkcuts(OKU / BEN)

 HALLCAに先駆けてオープナーとして登場したのが、トークボックスのBENとスクラッチ/DJのOKUによるユニット、Funkcuts(ファンクカッツ)。2016年にEP『Funky groovin'』でデビューし、2023年のマルーン5「Misery」のダンス・カヴァーまでの配信曲リリースや、各イヴェントなどの現場に出没している。自身の楽曲のイメージをデザインしたアパレルを手掛けているのも特色だ。

 BENによると、HALLCAとの出会いはEspecia時代に遡るという。元々山下達郎フリークだったBENが、竹内まりや「純愛ラプソディ」「夢の続き」やKinKi Kids「硝子の少年」など山下プロデュースの楽曲をあれこれ追っている時に、「大阪のアイドル・グループが山下達郎の曲をやっている」ことを知り、Especiaがカヴァーした「MIDAS TOUCH」を聴いたのが始まり。その後、知り合いのドラマーのヒラオカタカノリ(平岡孝賀)がEspeciaのバックでドラムを叩いていたことを知り、ライヴに招待されたのが、2017年に味園ユニバースで行なわれたEspeciaの解散ツアー〈SPICE TOUR〉の大阪公演だったという。それから月日が経ち、2023年にFacebook上でkukatachiiとHALLCAのコラボレーションを知ると、Yudaiを通じてBENが感化されたEspeciaのリーダー・HALLCAと7年越しに再会……というのが経緯のようだ。

 BENが熱弁するのを隣で物静かに聞いていたOKUは、HALLCAとkukatachiiの「Romantic」のミュージック・ヴィデオを編集し、終盤のメイキングでカメオ出演している(酒を飲む姿を見てHALLCAに「気が早~い」と言われている)人物その人で、ジャケットも手掛けているようだ。

 BENが山下達郎フリークということもあって、確かにAORやリゾート・ポップスを下敷きにしたサウンドを軸としているのだが、ユニット名に“ファンク”を冠しているように、タキシードを思わせるファンク・チューンやダフト・パンクとリンクしそうなフィルターハウスなどのアプローチもあって、思いのほかヴァラエティに富んでいる。トークボックス使いというとトロピカルな音色ゆえ、アーティストによってはレゲエやサウスな音に寄ってしまうことも少なくないが、メロウ過ぎず、レイドバック過ぎない、アーバンな要素を保ったエレクトロニック・ファンク/ハウスを構築していて、かなり好感が持てる。

 終盤には、BENにとってはHALLCAとの“キューピッド”役となったkukatachiiのYudaiを招き入れて、kukatachiiとFunkcutsとの共演曲を披露。「Passerby」「Come Back To Me」ともにkukatachiiのディスコテックなアティテュードとFunkcutsのトークボックスとスクラッチとが有機的に結合し、グルーヴィなフロアキラーへと昇華。さらに、ディスコ・チューンにありがちな、どこか野暮ったさも感じるヴァイブスを、リズミカルに刻まれるスクラッチと爽快な夏空を彷彿とさせるトークボックスで濾過し、スタイリッシュなグルーヴへと純度を高めている。そこにYudaiの粘度高めのヴォーカルが重なり、陶磁器に塗られる釉薬(うわぐすり)のように、昂揚の光沢となって艶を生み出していたのが印象的だった。

 Funkcutsとkukatachiiの親和性とともに「Romantic」におけるHALLCAとkukatachiiで証明された相性の良さを考えれば、HALLCAとkukatachii、さらにFunkcutsとのケミストリーの期待してしまうのも、無理もないのではないか。「Romantic」から端を発し、HALLCAの新たな航路が拓かれそう……そんな予感も抱かせた、浪漫溢れる一夜だった。

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<SET LIST>
《Funkcuts Section》
00 INTRODUCTION~Turntable Scratch
01 THE SPEAKEASY (original by Muff)
02 Funky Groovin'
03 I Woke Up
04 Overnight
05 Passerby (with Yudai)(original by kukatachii)
06 Come Back To Me (with Yudai)(original by kukatachii feat. Funkcuts)

《HALLCA Section》
00 INTRODUCTION~Diamond(Yohji Igarashi Remix)
01 Diamond
02 Fall Back Asleep
03 Paradise Gate
04 Wanna Dance! (guest with Funkcuts)
05 アバンチュールは銀色に(guest with Funkcuts)(original by Especia)
06 Romantic(feat. Yudai)
07 Labyrinth
08 Inner Heaven
09 Dream Dancer

<MEMBERS>
HALLCA(vo,key)
Yudai(vo / kukatachii)
Funkcuts:BEN(talkbox), OKU(DJ)

OKU(Funkcuts) / Yudai(kukatachii)/ HALLCA / BEN(Funkcuts)

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