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Bruno Mars @東京ドーム(20240118)

 東京ドームを熱狂に包んだ、スーパースター圧巻のステージ。

 当初の5公演(1/11、13、14、16、18)があっという間にソールドアウトとなると、20、21日に追加公演を発表。さらに見切り席などの追加席を含めて全7公演が完全ソールドアウトとなったブルーノ・マーズの来日公演〈ベスト・オブ・ブルーノ・マーズ・ライヴ at 東京ドーム〉(Best of Bruno Mars Live at Tokyo Dome 2024)の5日目を観賞。「1日目よりも、2日目よりも……5日目はもっと大きな声を出せるはずだ!」「サ・ワ・ゲー!」と煽る間もなく、トップ・オブ・スーパースターの降臨を前に歓声が怒濤のようにドームを渦巻くと、“ベスト・オブ・ブルーノ・マーズ”のツアータイトルよろしく、ブルーノ・マーズによるヒット・チューンが、ザ・フーリガンズの演奏とともに繰り広げられていった。

 序盤に「24K・マジック」や「フィネス」「トレジャー」などのアッパーな楽曲で一気にヴォルテージを上昇させ、後半に弾き語りメドレーなどの企画コーナーを盛り込み、終盤は「ロックド・アウト・オブ・ヘヴン」から「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」で本編を締めた後、アンコールの「アップタウン・ファンク」で大“炎上”(スクリーンに映し出された火の海を前に、消防士姿のメンバーが消火器を噴射する演出から)してエンディングを迎えるという構成は、2022年の来日公演(記事→「Bruno Mars @東京ドーム」)と大まかには同じ。冒頭の「24K・マジック」などでドーンと打ち放たれる花火やスクリーンに表示されるロゴや映像のほか、「パーマ」でメンバーがステージの左右に駆け寄って煽るパフォーマンスなどの演出自体も、2022年来日時とさほど変化もなし。スクリーンの映像やレーザービームなどのライティングも前回を踏襲した感じで、目新しさという意味では特段斬新に変化したという訳でもない。

 だからといって、新鮮味に欠くということを一切感じさせないのが、ヒット・チューンを次々と繰り出せるスーパースターならでの貫禄か。「24K・マジック」や「トレジャー」をはじめ、「ホウェン・アイ・ワズ・ユア・マン」「ヴェルサーチ・オン・ザ・フロア」「ロックド・アウト・オブ・ヘヴン」、そして本編ラストの「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」などで、昂ぶる気持ちを抑えられないオーディエンスがシンガロングで大きなうねりをもたらしていく。“ブルーノ・マーズの音楽への愛”というキーワードのもとで集ったオーディエンスによる、ブルーノ・マーズと共に過ごす時間を存分に楽しみたいというラヴリーな感情の重なりが、広い東京ドームという空間でさえも問題とせず、隅々まで行き渡っていく。「ヴェルサーチ・オン・ザ・フロア」では、スマホのライトを点灯させて、ビッグエッグをプラネタリウムの景色へと変え、ブルーノ・マーズたちの眼前に煌びやかな銀河の星々たちを浮かび上がらせてみせた。

 前回「次は日本語をもっと覚えてくる」と語っていたブルーノ・マーズだが、その日本語を時折混ぜながら、選曲でも親日家ぶりを見せる。前回披露した際はデモ風のパフォーマンスだったスウィートメロウな「キミヲトテモアイシテル」は、「コーリング・オール・マイ・ラヴリーズ」にサンドウィッチされる形で組み込まれ、電話で愛を語る演出から、ボーイズ・II・メンあたりのヴォーカル・グループや、クワイエットストーム的なメロウネスを想起させるパフォーマンスまでに昇華。同様に「マリー・ユー」の間に挟み込まれたのが、AKB48のヒット・チューン「ヘビーローテーション」。まさか、ブルーノ・マーズのライヴで「アイ・ウォンチュ~」のシンガロングを体感するとは思わなかったが、しっかりと「マリー・ユー」とスムーズに移行するためのアレンジを施していたから、違和感も抱かず。

 たとえば、アース・ウィンド&ファイア、シック、ジェイムス・ブラウン、「フィネス」で鳴らしたニュージャックスウィングなど照りのあるホーン隊や跳ねる鍵盤などの華やかなサウンドは、ブラック・ミュージックをしっかりと継承したステージングとして目を見張るものがある。その一方で、ソウル、ファンク、ロック、ディスコ、レゲエなどさまざまなジャンルの要素に触れるなか、「マリー・ユー」はじめ、キーボード弾き語りコーナー(本人は「カラオケ!」と言っていた)での「トーキング・トゥ・ザ・ムーン」やシルク・ソニックでの「リーヴ・ザ・ドア・オープン」、こちらもオーディエンスの美しいハミング・コーラスを生んだ「ホウェン・アイ・ワズ・ユア・マン」、大シンガロングを生んだ本編ラストの「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」といったウォーミングでメロウなミディアム・ポップスを歌いこなせるセンスと才が、ブルーノ・マーズをポップスターにならしめている一つの要因なのだと再認識。ジャンルを問わず、多くの人たちに愛聴されるポップネスを、外見こそ異なれど、どの楽曲にも通底させ、時代を問わず耳を惹くポピュラー・ミュージックとして成立させているからこそ、多くのファンを魅了しているのだろう。その意味では、今回演奏された「ヘビーローテーション」にも、ブルーノ・マーズはポピュラー・ミュージック足り得るなにかを感じていたのかもしれない。

 ブルーノの兄のエリック・“E・パンダ”・ヘルナンデスのドラムソロから爆音の発破音とともに火蓋を切った「ラナウェイ・ベイビー」では、オーディエンスを煽ってから、ピンスポットの下でジェイムス・ブラウン~マイケル・ジャクソンを意識したフットステップを繰り出して歓声を浴びると、R&B(アール・アンド・ビー)ではなくファンキーなリズム&ブルースやロックンロールという派手やかなサウンド・アレンジ、サイレンといった演出で、オーディエンスの鼓動を打ち鳴らしていった。 

 また、終盤のキーボードソロでは、宇多田ヒカル「First Love」をインストゥルメンタルで弾くやいなや、オーディエンスがそれに呼応してシンガロング。宇多田といえば、ファーストインパクトという意味で考えると、やはりデビュー・シングル曲の「Automatic」「time will tell」という感じがするのだけれど、15、6歳で「First Love」を歌った印象も確かに強烈なものがあった。それは来日アーティストも同様のようで、来日公演時の「First Love」カヴァー率も多い気がする(昨年はRina SawayamaやUMIなどもステージで披露していた)。R&BをJ-POPシーンに上積みさせたサウンドとしては「Automatic」「time will tell」の功績が大で、サウンドとしての「First Love」は打ち込みによるオーセンティックなUSコンテンポラリー・バラードというよく見られる手法でそれほど大胆さもなかったと思うが、15、6歳が描いているとは思えない詞世界の衝撃が、この曲の評価を高めたともいえる。もちろん歌としてのメロウネスもあり、そのあたりのポピュラー・ミュージック性の資質を垣間見てのセレクトだったのだろうか。だが、そんな邪推は、「ヴェルサーチ・オン・ザ・フロア」同様にスマホのライトによって生まれた銀河に響くシンガロングの前では、些末な屑となって消えていった。 

 クライマックスは、金の紙吹雪が舞う「ロックド・アウト・オブ・ヘヴン」はじめ、以前にも観た光景が眼前に広がっているのだけれど、分かっているのにパッションが沸き出すよう。シンガロングの大団円で終えた「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」の余韻を味わう間もなく、アンコールのクラップが打ち寄せるなか、パッとその波を割くように再びブルーノ・マーズが登場すると、「アップタウン・ファンク」で興奮と恍惚のおかわりを。ブルーノ・マーズの“アーッ”という雄叫びとともにスクリーンに炎が立ち上がり、消防士に扮したメンバーが消火器をステージに噴射する“消火活動”をするというのもおなじみの光景だが、オーディエンスの感情は鎮火するどころか一層感極まるばかりに。いつもならばショーの終幕に心寂しさや名残惜しさを抱くものだが、その隙を与えることがないほどの沸点へと達する絶頂にも似た胸の高揚を感じさせた、ビッグスケールのダンス・パーティとなった。

 「近いうちにまた戻ってくる!」と告げた姿も前回と同様。約1年強前の前回公演は5公演(東京、大阪)だったが、今回7公演となった。次回はどのくらいまで規模が大きくなるのか。寒さを吹き飛ばすブルーノ・マーズの2024年の極上エンタテインメントは、7公演目の21日をもって幕を閉じる。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 24K Magic
02 Finesse
03 Treasure
04 Liquor Store Blues
05 Billionaire (original by Travie McCoy feat. Bruno Mars)
06 Perm
07 Calling All My Lovelies ~ Kimi wo Totemo Aishiteru(キミヲトテモアイシテル)~ Calling All My Lovelies
08 Chunky
09 That's What I Like
10 Please Me (original by Cardi B & Bruno Mars)
11 guitar & sax solo
12 Versace on the Floor
13 Marry You ~ ヘビーローテーション(original by AKB48)~ Marry You
14 drum solo ~ Runaway Baby
15 ~KARAOKE SECTION(Bruno sings with a keyboard)~
  Fuck You (original by CeeLo Green)
  Young, Wild and Free (original by Snoop Dogg & Wiz Khalifa feat. Bruno Mars)
  Grenade
  Talking to the Moon
  Nothin' on You (original by B.o.B feat. Bruno Mars)
  Leave the Door Open (original by Silk Sonic)
16 When I Was Your Man
17 keyboard solo ~ First Love(instrumetal / original by 宇多田ヒカル)~ outro phrase of "Still D.R.E."(original by Dr. Dre feat. Snoop Dogg)
18 Locked Out of Heaven
19 Just the Way You Are
≪ENCORE≫ 
20 Uptown Funk (original by Mark Ronson feat. Bruno Mars)

<MEMBERS>
Bruno Mars/ブルーノ・マーズ(vo,g,key)
The hooligans are:
Philip Lawrence/フィリップ・ローレンス(back vo)
Mateus Asato/マテウス・アサト(g)
Jamareo Artis/ジャマレオ・アーティス(b)
Eric 'E-Panda' Hernandez/エリック・“E・パンダ”・ヘルナンデス(ds)
John Fossitt/ジョン・フォシット(key)
Kameron Whalum III/キャメロン・ウェイラム3世(tb,back vo)
Dwayne Dugger/ドゥウェイン・ダガー(sax,key)
James King/ジェイムス・キング(tp,back vo)

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【ブルーノ・マーズの記事】
2022/10/30 Bruno Mars @東京ドーム
Bruno Mars @東京ドーム(20240118)(本記事)

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