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ICE @WWW(20230421)

 時を超えて忘我と快哉をもたらした、30周年の祝宴。

 上からは七色に発するカラフルなライトがフロアに射し込むなか、"夢を見よう、叶わぬ夢でも / 今の僕に出来る事は、そう”と国岡真由美が麗しいファルセットで歌い、アウトロで田口慎二が恍惚の表情で天を仰ぎながらギターを嘶かせた「ECHOES」。かつて宮内和之がステージで「40代の歌をやります」とボソッと呟いてから演奏したこの「ECHOES」を、山下政人の息子のコウキヤマシタをドラムに迎えた"若いパワー”漲るセットで響かせると、ドラムを山下政人に戻して、闇夜を光の筋が貫いていくようなグルーヴが駆け抜ける「spirit」で"あの頃と何も変わらない / 今を生きよう 愛し合った証を”と声を響かせる。その高揚する2曲からややトーンを落とした「I saw the light」にて、奇しくも金曜の夜のこの日に"金曜の夜が来て”から始まり"今宵こそがその夜だと”“魂は今宵輝く”と歌われた時に、ICEは夢であり、希望であり、未来であり、一方であの頃と変わらないものなのだとあらためて痛感した。一見矛盾にも見えるこのロジックも、実は過去から現在、そして未来へ生きる人の誰しもの心を穿つ道理なのではないかと。

 30周年記念のロゴが"ICE 30th[→FUTURE]”としているのは、年を重ねても未来を夢見る、人間の避けられない性を問うてきたICEの信念のようなものを、凝縮させているのかもしれない。

 20周年は下北沢(記事 →「ICE@下北沢GARDEN」)で、25周年は横浜(記事 →「ICE@横浜Bay Hall」)で行なわれたICEの周年ライヴ。30周年は〈ICE 30th Anniversary Live In Shibuya〉と題して、渋谷・WWWにて開催。往年のICEファンがこぞって足を運び、ソールドアウトとなったフロアは開演前から胸の高鳴りを抑えられない人たちの熱気に包まれていた。4月19日にリリースされたシングル・コレクション『ICE Complete Singles』がBGMとして流れ、「Sunshine Woman」に差し掛かるとバンドメンバーが登場。痛快に空を切り裂くようなギターや興奮を煽るかのごとく放たれるハモンドオルガンなどで極彩色の音を蠢かせた後、国岡がファンの歓声を浴びながらステージ中央のマイクに立つと、「FUTURE」からICEのメモリアルな30周年記念ライヴが走り出した。

 以前はあまり"安売り”しなかった「MOON CHILD」や「SLOW LOVE」といったファンの人気の高い名曲群を序盤から出し惜しみなくあっさりと披露していったところで、『ICE Complete Singles』の収録順、すなわちシングルを(ほぼ)リリース順に披露していくことに気づいた。「MOON CHILD」の後半では英語詞ヴァージョンも汲み入れ、懐かしい面影だけではない、現バンドでの進行形のICEという表情も垣間見せてくれた。

 大きな発声でのカウントからの快活なドラムを叩く山下、クールな中にもパッションを秘めた表情でハモンドオルガンとキーボードを弾き倒す崩場将夫、安定したボトムと後からじんわりと体内に響くビートを刻む小川真司、エレガントかつ甘美なエッセンスをもたらす柴田章子と鈴木精華のコーラス陣、髪を振り乱して陶酔と興奮を呼び覚ますギターを鳴らす田口と、一聴してそれと判るICEサウンドを高水準で奏でながら、現在のこのバンドでしかなし得ないアレンジで、楽曲を披露していく度にオーディエンスを魅了していく。

 中盤の「NIGHT FLIGHT」から「GET ON THE FLOOR」を経て「CAN'T STOP THE MUSIC」では、シームレスにメドレースタイルのアレンジに。それぞれ作風やムードが異なるが、刺激的な展開と鮮やかな移行は、バンドのさりげない手練を見せつけられた瞬間でもあった。

 そして、なによりも国岡のヴォーカルがしなやかで爽快。かつてロングヘアを掻き上げクールビューティ然としていた頃も魅惑的だったが、マロンなショートヘアとなった今では、そのセクシーな声色も帯びながら、歌える悦びが溢れ出すかのごとくの微笑みを幾度も見せていたのが印象的だった。もちろんこれまでが笑顔を見せないという訳ではないが、その時の笑みとはまた違った、キュートな表情が散見。ICEはこれからも突き進んでいくという意志とそれが実現される愉悦が、ナチュラルに滲み出ていたような気がした。

 畳み掛ける名曲の嵐に心躍らせるオーディエンスが、よりギアを高めたのが「Love Makes Me Run」や「ANALOG QUEEN」などのシンガロング曲だろう。声を合わせ、手を振り、突き上げて、ICEサウンドを浴びるさまは、ICEのステージを長く待ち侘びていたファン垂涎の音空間だ。その光景を前にしたバンドがより音に熱意を込め、昇竜のごとくグルーヴが立ち上っていく。それに添うようにヴォルテージが高まり、フロアに快哉が横溢する。

 本編終盤の「ANALOG QUEEN」から「No-No-Boy」への流れは、そのクライマックスのひとつだろう。コーラスと疾走するグルーヴを反応して伸びる腕が幾重にも連なるフロアに触発され、田口の嘶くギターをはじめ、感情の発露となった音が共鳴し、興奮が恍惚へ、そして絶頂へと導いていく。
 その熱狂をゆっくりと心地よく解きほぐしていったのが、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツのフィリー・ソウル・クラシックスを拝借した「WAKE UP EVERYBODY」。感情の熱の勢いのままで終わらせず、たおやかに日常へ戻る道標となる、まるでセラピーのようなこの曲が、ICEの楽曲とステージで体感したエキサイティングな充溢を噛み締める時を与えてくれた。

 時を刻むに連れて強度を増していくクラップが鳴り響くなかで迎えたアンコールは、コウキヤマシタを加えた総勢8名でパフォーマンス。シングル・コレクション『ICE Complete Singles』に収められた新曲で、カッティングギターが映えるアーバンな(ほぼ)インストゥルメンタル「FREE」から、アドレナリンが滾った脳内に、熱く火照った体躯に、心酔という余韻をゆっくりと浸し与えていく「kozmic blue」、そして「PEOPLE,RIDE ON」へ。クラップとともに"PEOPLE, RIDE ON / PEOPLE, RIDE ON / PEOPLE, RIDE ON THINK YOURSELF”の声がこだまするなかで、歌は残り、生きる理由を実感する大団円となった。

 「30周年は始まったばかり」「これからも付いてきてください!」と声高らかに弾ませた国岡の顔には、ICEとして紡いできた重みや経験もさることながら、ICEとして音を届け続けられる喜びに満ちているようだった。郷愁ではなく今を生きるICEが、そこには確実に存在していた。

 この勢いは、追加公演として具現化されることが決定。7月4日には渋谷・CLUB QUATTROで、7月21には大阪・Music Club JANUSで、再び、三度、ICEが胸高鳴るグルーヴを創出する。今宵120分の夢の続きは、夏に紡がれる。

◇◇◇
<SET LIST>
01 INTRODUCTION~KM JAM#3(include BGM of "TOKYO DAY・TOKYO NIGHT" intro)
02 FUTURE
03 MOON CHILD
04 SLOW LOVE
05 LIFE(STANDIN' ON THIS WORLD)
06 BABY MAYBE
07 GET DOWN,GET DOWN,GET DOWN
08 Love Makes Me Run
09 NIGHT FLIGHT
10 GET ON THE FLOOR
11 CAN'T STOP THE MUSIC
12 IT'S ALL RIGHT(drum by コウキヤマシタ)
13 ECHOES(drum by コウキヤマシタ)
14 spirit
15 I saw the light
16 ラヴァーズ・ロック(Yeah! Yeah! Yeah!)
17 HIGHER LOVE
18 ANALOG QUEEN
19 No-No-Boy
20 WAKE UP EVERYBODY
≪ENCORE≫
21 FREE(with percussion by コウキヤマシタ)
22 kozmic blue(with percussion by コウキヤマシタ)
23 PEOPLE,RIDE ON(with percussion by コウキヤマシタ)

<MEMBERS>
国岡真由美(vo,tamb)
田口慎二(g)
小川真司(b)
山下政人(ds)
崩場将夫(key)
柴田章子(cho)
鈴木精華(cho)
guest:
コウキヤマシタ(ds,perc)

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【ICEに関する記事】
2013/10/04 ICE@下北沢GARDEN
2015/03/19 ICE@BLUES ALLEY
2019/01/26 ICE@横浜Bay Hall
2019/10/12 My Favorite Songs of ICE〈prologue〉
2019/12/16 My Favorite Songs of ICE〈epilogue〉
2021/09/26 国岡真由美 with ice BAND @BLUES ALLEY JAPAN
2021/11/21 国岡真由美 with ice BAND @BLUES ALLEY JAPAN
2023/04/21 ICE @WWW(本記事)

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