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絶対忘れるな / WAY WAVE @HOME(20240825)

 夏を終わらせたくない2組が放つ、ホットでファンキ―なパッション。

 渋谷・宮益坂にある幅広いジャンルのアーティストが出演するこじんまりとしたライヴハウス「HOME」にて、ラップ・グループの“ぜわす”こと絶対忘れるなとリアル・ソウルシスターズのWAY WAVEによる2マン・イヴェント〈Beat Happening!終わらない夏の2MANライブ!〉を開催。当初は11時50分開演予定だったが、その後に正午開演に変更。「Funky Flushin'」「愛を描いて −Let's Kiss The Sun−」「RIDE ON TIME」「SPARKLE」「LOVELAND, ISLAND」「YOUR EYES」といった山下達郎のナンバーがフロアに響くなか、定刻より10分ほど後にDJセットがスタンバイ。WAY WAVEのおなじみの出囃子的イントロダクション「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」が流れるなか、ステージ背後から(ちょっとだけ登場タイミングがフライングして)WAY WAVEの2人が登場。まだ暑い日々が続いてはいるが、夕方以降はほんのりと熱波も和らぎ、薄っすらと夏の終わりも感じるなかで、「まだは夏は終わらん!終わらせん!」とばかりのエナジーとともに、ソウル/ディスコなステージが幕を開けた。

 この日は専属DJのarincoに代わって、初見の“猫まみれ太郎”がDJを担当。ラッパー/トラックメイカー/DJを中心として活動し、作詞提供のほか、絶対忘れるなのステージにてさまざまなサポートも行なっているようだ。この日はレゲエホーン(エアホーン)を多めに鳴らして、ステージを盛り上げた。

 アーティストやミュージシャン、特にヴォーカリストは朝や昼の早い時間帯はなかなか声を出すのが難しいというのはよく耳にするが、(多少本人的には寝ぼけている部分があるのかもしれないが)独立前は午前中スタートのライヴを数多くしてきた経験値からか、若さからなのか、ファンキーな「Looking For Woman」からチアフルなコーラスワークを披露。日曜の昼に集った観客へ眠気覚ましの一発とばかりに、明るく溌溂としたテンションでヴォルテージを上昇させていく。

 「今日も歌いますよ、昼間っから。不倫の歌!」という杏奈のフリからJBマナーのビートが走る「2番目の女」、イカしたヒップなラップとPファンクを絡ませ「最高!最高!」のコール&レスポンスでブチ上がる「最高の彼氏」と、否が応でも身体が目覚めてしまうパッションで攻め立てる。

 かと思えば、メロウな「ナウ・ユーアー・ノット・ヒア」(邦題は「あなたにいてほしい」で、織田裕二と常盤貴子主演のドラマ『真昼の月』の主題歌への書き下ろし)のカヴァーで、ソウルシスターズとしての矜持も見せる。先日のhy4_4yh(ハイパーヨーヨ)とのライヴ(記事→「hy4_4yh × WAY WAVE with DJ arinco @LIVE STUDIO LODGE(20240818)」)では「ブレイクアウト」を披露したが、今回はスウィング・アウト・シスターから落ち着いた楽曲をセレクトしてきた。

 「あなたといてほしい」と短尺のMCによって一旦心安らぐ“タメ”を作った後は、「流されていこう」からアッパー・モードへ再突入。同曲のアウトロにトロピカルなスティールパン風イントロをシームレスに滑り込ませて、軽快なリズムと「オッオー!オオー!」のコーラス&レゲエホーンがジョイフル濃度を高める「貸切ジャングルジム」、導入部のエキゾーストノートとギターリフが颯爽と疾走を呼ぶ「September Wind」、グルーヴィなカッティングギターのイントロをバックに「今日も渋谷で合コンしたいと思います!昼間っから」のフリとコール&レスポンスのレクチャーを経て、ディスコ・ソウル「合コン三昧 Oh Yeah!」へと雪崩れ込んでいく。

 「合コン三昧 Oh Yeah!」などを聴くたびに、タイトルや歌詞のワードチョイス、どちらかといえば昭和気質な詞世界、ソウルやブルースに重心を寄せたヴォーカルワークなどを含め、“令和女子ファンク”(6月にリリースした初のセルフプロデュース・アルバム『JOURNEY』のキャッチフレーズ)を掲げているが、“どこが令和なのか”とつい思ってしまうほど、ソウルフルなパッションは健在だ。

 絶対忘れるなとは「FREE MY SOUL」「サマーニットをぬがさないで」などでコラボレーションを展開しているゆえ、共演パフォーマンスを披露してくれると予想できたが、WAY WAVEのステージのラストに「FREE MY SOUL」を配して、この日最初の共演を。楽曲中盤のラップパート直前から志賀ラミー以下絶対忘れるなの面々が登場。ステージを所狭しとメンバーが右往左往しながら、フロアの熱量をさらに“昇竜”させていく。

 元来「FREE MY SOUL」は、2022年8月のWAY WAVEの小池優奈のバースデーライヴ公演(記事→「WAY WAVE @GARRET udagawa」)にて、絶対忘れるなから優奈にプレゼントされたものだったが、2023年7月に短冊CD化。さらにリリース記念も兼ねた〈部員集会〉(記事→「WAY WAVE @Club Malcolm(20230715)」)にてステージ共演も果たしていたが、同曲のステージでの共演はそれ以来か。もういっそのこと、毎夏を絶対忘れるなとのステージコラボレーション月間としてみてはどうか、と思えるほどのコンビネーションで楽しませてくれた。

◇◇◇

絶対忘れるな

 「FREE MY SOUL」を終え、WAY WAVEと猫まみれ太郎がステージアウトするやいなや、絶対忘れるなのステージがスタート。ラップ・グループならではのマイクリレー曲「マイクチェック!」から「ひたむきさガール」へと、一辺倒ではないラップ・チューンを繰り出していく。

 “ぜわす”は、早稲田大学出身で同じバンドサークルのメンバーによって2009年に始動。高円寺や阿佐ヶ谷を拠点とし、当初はマイペースな活動をしていたようだが、2017年頃より活動が活発化。ラップ・グループとしているのは、ヒップホップだけではなく、近年潮流のシティポップや歌謡曲を含めたポップ・ミュージックあたりを取り込みながら、独自な解釈とユニークなワードセンスを駆使していることからだろう。アイロニーもあるが辛辣に突き刺すというのではなく、あくまでもエンジョイするために、ポップかつダンサブルなアプローチを意識しているのかもしれない。男女各2名MC(+育休中1名)全員が会社員との二足の草鞋を履いていて、そのよくある日常から生まれる等身大の光景を描いたリリックが共感を呼ぶグループだ。

 前半で披露した「特筆性なき音楽家」は(自身たちが)平凡だと見られる声に対する彼らなりのアンチテーゼだと思うし、「人のオシャレを笑うな」もトレンドでマウントを取る人たちへの皮肉とセンスのなさを自虐する、どちらかといえばネガティヴなトピックスを題材としているが、4者4様のフロウとカメレオンのように色が変わるトラックや転調などを駆使するゆえ、ドーンと重厚な空気が漂うことは一切ない。志賀ラミーの「チルしよう~」の掛け声から始まった「責任転夏」では、それまでの推進力をスポンジで吸収するような脱力感で夏の避暑地モードをもたらすなど、ユニークな仕掛けで楽しませてくれる。

 そんな弛緩モードの余韻をぶった切るように、志賀が「夏にするぞ!」「声出して!」と急激にテンションを上げて雄叫びを響かせて始まったのが「サマーニットをぬがさないで」。「FREE MY SOUL」とは逆に、今度は曲中にWAY WAVEがステージ奥からステージインし、この日のコラボレーションステージ第2弾へ突入。同曲は前述の2023年のステージ共演時にミュージック・ヴィデオ撮影を兼ねたパフォーマンスでも盛り上がりを見せたが、志賀の勢いと剽軽を往来する雄叫びもあって、その時の盛り上がりとはまた違った意味でヴォルテージを高める瞬間に。志賀が雄叫びを上げ、それに観客が応える姿に笑いを堪え切れないWAY WAVEやぜわすのメンバーたちは破顔に溢れ、熱さに茹だる室外とは全く異なる歓喜の空間を創り上げていった。
 そこに志賀が優奈から聞いた情報として「クズ野郎っていうのは、なかなか前に進まないで同じところをグルグル回っているんだ」という“名(迷)言”を紹介し、さらなる笑いをもたらしていた。

 WAY WAVEがステージを後にして、セルラ伊藤の「日曜日だけど……」のフリから「平日ナイトフィーバー」で再びぜわず単独ステージへ。フィロソフィーのダンスの日向ハルをフィーチャーしたヴォーカルパートは各メンバーへ振り割って、シンガロングがさらに昂揚をもたらす。曲の終盤にセルラ伊藤がトラックを止めてしまい、急遽ア・カペラで無理やり乗り切るというハプニングも飛び出すが、強引に「ここからファインサンキュー」へと畳み掛けていく。「まず健康!」のリフレインとともにフロアが沸点を迎え、スタート当初に各々が「起きてるかー」「眠くないかー」と呟いていたのはどこへやら、フロアが熱気と快哉に支配されたエンディングとなった。

 今後のライヴの予定はなく、「もしかしたらこれが解散ライヴとなる可能性もある」とおどけていたが、その言葉を誰も信用していない観客という構図も、ぜわすが常に愉しさを提供してくれるという安心感からなのだろう。WAY WAVEとの絡みも双方満足そうだし、年1回とは言わず、それより頻度高めでコラボレーションしても良いのではと感じた2マンパーティ・セットだった。

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<SET LIST>
《WAY WAVE Section》
00 INTRODUCTION~"Dance To The Music (John Luongo Dance Remix)" by Sly & The Family Stone
01 Looking For Woman
02 2番目の女
03 最高の彼氏
04 Now You're Not Here (original by Swing Out Sister)
05 流されていこう
06 貸切ジャングルジム
07 September Wind
08 合コン三昧 Oh Yeah!
09 FREE MY SOUL(feat. 絶対忘れるな)

《絶対忘れるな Section》
01 マイクチェック!
02 ひたむきさガール
03 特筆性なき音楽家
04 人のオシャレを笑うな
05 責任転夏
06 サマーニットをぬがさないで(feat. WAY WAVE)
07 平日ナイトフィーバー
08 ここからファインサンキュー

<MEMBERS>
WAY WAVE are:
小池杏奈(vo)
小池優奈(vo)

猫まみれ太郎(DJ)

絶対忘れるな are:
志賀ラミー(MC)
貫地谷翠れん(MC)
セルラ伊藤(MC)
アルバ伊藤(MC)

絶対忘れるな / WAY WAVE / 猫まみれ太郎

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