見出し画像

米国の標準戦略の備忘メモ:「標準」はイノベーションと国力を規定する大事なツールとして強化すべき。

G7デジタル大臣会合でDFFTやAIの議論を日本が議長国として主導していて嬉しいなぁと思いつつ開催結果を読んでいました。

その一方で、日本が今後世界市場で競争力を保つためには、民間に任せっぱなしで人も足りない日本の標準化戦略を強化しなければならないと常々思っています。

と、思っていたら、連休中に米国ホワイトハウスのファクトシートが出て、「重要新興技術(Critical and Emerging Technology:CET)についての国家標準戦略」が公表されていました。省庁横断の国家戦略としてまとめていることに唸り。本当、組織の手当てや人員が非常に重要だと思います。
 
ということで、自分の頭の整理と備忘までにまとめます。
(頭の整理のため、ざっと自分で意訳/纏めているので、誤植・誤訳ご容赦ください..原文はこちら


「重要新興技術(Critical and Emerging Technology:CET)についての国家標準戦略」ポイント

【「標準」の定義と原則】

標準とは、製品・それに関わるプロセス・観光・生産方法に関する一般的なかつ繰り返し使われるルール、条件、ガイドライン、または特性。

In the broadest sense, standards are the common and repeated use of rules, conditions, guidelines, or characteristics for products or related processes, practices, and production methods. They enable technology that is safe, universal, and interoperable. 

UNITED STATES GOVERNMENT NATIONAL STANDARDS STRATEGY FOR CRITICAL AND EMERGING TECHNOLOGY

標準があることで、技術は安全に、ユニバーサルに、そして相互運用可能(interoperable)になる。この標準によってどこの国で売られている携帯電話でも世界中とコミュニケーションが取れたり、キャッシュカードが他の国のATMで使えたり、どのガソリンスタンドで給油しても車が走る。
 
Standard Developing Organizations (SDO)=標準作成機関は、産業、アカデミア、市民社会団体、及び政府から成っており、これらのプレイヤーが安全、互換性、特定の技術の競争や技術の応用に対して共通のゴールを目指している。正常に機能しているSDOは、その技術をもたらす特定の国や雇用主や人物によってアイディアを選定するのではなく、技術的な利点によって判断される。国際基準づくりを統制する6つの原則は:(1)透明性、(2)オープンさ、(3)公平性とコンセンサス、(4)効率性と妥当性(relevance)、(5)一貫性(coherence)、及び、(6) 低中所得国による参加コミットメントである。

【官民の関与の歴史と今後】

民間セクターは米国のSDOへの関与を100年以上リードしてきた。例えば、1990年代のQualcomの3Gの基盤となる提案。NTTドコモの、後にLTEになる携帯端末・データターミナルのワイヤレスブロードバンドコミュニケーションに関する提案など。
 
民間セクターのリーダーシップは、政府とアカデミアによる多大な支援(significant assistance)によってなされた。1901年に下院は、後にNISTとなる国内研究・標準機関としてNational Bureau of Standardsを設立。そのすぐ後に、5つのエンジニアリング団体と3つの連邦機関が統合されてANSI(American National Standards Institute)が設立された。ANSIは米国の標準システムを調整する民間の非営利団体であり、ISOとIECに対する唯一の米国代表である。産業、団体、民間グループは、NIST、ANSI、ANSI-認定のSDOの役割を補完し、特定の課題を解決するために協力し標準化に取り組んできた。今日まで、米国のリーダーシップに後押しされてきたこのアプローチは、米国の世界での経済成長を後押しする効果的でイノベーティブなシステムを育んできた。
 
テクノロジーの変化が早く、グローバルなスケールで起きる時代に、標準は引き続き将来の市場を定義し原動力となるものである。CET(米国の競争力と安全保障にとって重要な先端技術)に関する標準は、戦略的な重要性を持つ。米国は全ての国と協力し、これらの新しい分野においてオープンで透明性の高い標準システムを先導する。過去、インターネットやワイヤレス通信やその他のデジタル標準をリードしたように。これに失敗することは、米国、そして世界のイノベーション、安全、繁栄をリスクに晒すだろう。

【CETの対象となる技術】

 米国は米国の競争力と国家安全保障にとって重要な以下を含むCETの分野の標準作りに優先順位を置く。

  • 通信・ネットワーク技術:次世代の消費者・ビジネス・政府のコミュニケーションの基盤を劇的に変化させる可能性がある。

  • 半導体・超小型電子技術、演算・メモリ・ストレージ技術を含む:全てのグローバル経済、社会、政府に影響を与え、様々なイノベーション・能力に力を与える

  • AIと機械学習:変革技術であり様々な業界に科学的なブレークスルーを与える。しかし、信頼ある形、リスク・マネージされた形で開発されなければならない。

  • バイオテクノロジー:健康・農業・及び全ての国の産業に影響するものであり、人々・動物・環境の健康のために安全に使用しなければならない

  • 位置情報、ナビゲーション、タイミングサービス (Timing Services):見えないインフラであるが、送電線、通信インフラ、携帯端末、交通、精密農業、気象予報、緊急対応などを含む。

  • デジタルID、分散台帳技術:鍵となる経済セクターに大きな影響を与え始めている

  • クリーンエネルギー生成とストレージ:発電、蓄電、配電、そして気候に配慮し効率的なエネルギーの使用、エネルギーを生成するプラントを支援するテクノロジーの安全性に重要。

  • 量子情報技術:量子力学を活用したストレージ、通信、操作、コンピューティング、情報計測など、国家安全保障と経済への影響が非常に大きい。

そして、省庁が特定したグローバル経済や国家安全保障に影響の大きいCETについての特定の応用技術についても米国は重視し活動する:

  • 自動・コネクテドインフラ:スマートコミュニティ、IoT等の新しい応用技術。

  • バイオバンキング:バイオロジカル・サンプルの収集、保管、使用

  • 自動、コネクテド、電気交通:自動運転の乗り物や、無人航空システム、EV、EVを送電網や充電インフラに繋ぐことも含めて、それらをスマートコミュニティに統合するシステムそのもの。

  • 重要な鉱物資源サプライチェーン:再生可能エネルギー、半導体、EVを製造するのに不可欠な鉱物資源の持続可能な抽出に関する標準

  • サイバーセキュリティとプライバシー:進行技術の開発・実装や、情報・アイディアのフリー・フローの推進に重要な横断的な課題

  • 二酸化炭素回収、分離、貯留(carbon capture, removal, utilization and storage):CO2の貯留の標準の上に検討されているもの、そしてpoint source carbon capture, removal, and utilizationで検討され始めているもの、またそれらに関するモニタリング・認証に関する標準。 


FACT SHEET: Biden-Harris Administration Announces National Standards Strategy for Critical and Emerging Technology

ホワイトハウスのファクトシートの原文はこちら
 
バイデン・ハリス政権は米政府の「重要新興技術(Critical and Emerging Technology)についての国家標準戦略」を公表。これは米国の米国消費者を守り国際標準づくりにおいて米国の競争力と主導力を守る基礎となるもの。
 
標準とは米国人が常に頼る技術がユニバーサルに安全で交換性があることを担保するガイドラインである。この戦略は国際標準に対する米国のルールベースのアプローチを改めて示すものである。また、民間セクターがグローバル市場の整理するために尽力している標準作りを支援したり、互換性に貢献したり、そして米国の競争力やイノベーションを推進するために、重要新興技術(CETs)の国際標準づくりを連邦政府が支援することを強調する。
 
これらの戦略はCET標準作りのための優先となる4つの鍵となる目的に注力する。 

1.投資:研究開発から生じるテクノロジーへの貢献は新しい標準の裏にある原動力である。戦略は、米国が国際標準開発において主導的役割を果たすようなイノベーション・先端化学・基礎研究から応用研究に及ぶトランスレーショナル・リサーチを推進するための標準化前の研究への投資を促進する。政権は、民間セクター・大学・研究機関に標準化開発のために長期投資を行うよう呼びかけている。
 
2. 参加:民間セクターや学術イノベーションが効果的な標準開発に貢献する。それゆえ、米国は産業界や研究コミュニティと緊密に連携し時代を先取りしなければならない。米国政府は、幅広い民間セクター、アカデミア、そして海外パートナーを含む鍵となるステークホルダーと連携しギャップを解消しCET開発に関する活動への参加を強化しなければならない。
 
3. 労働力:標準化のための機関、とりわけCETsに関する機関の数はここ10年間で急速に増えた。しかしながら、米国の労働力はそのペースに追いついていない。米国政府は、より効果的な技術標準開発に貢献するために、アカデミア・産業・中小企業・そして市民社会のメンバーを含むステークホルダーの教育とトレーニングに投資する。
 
4. 公正性と包括性:米国にとって、標準開発のプロセスが、技術的に有効であること、独立性が担保されていること、幅広い市場や社会の要請に対応していることを担保することは重要である。米国政府は、世界中で同じ考えを持つ同盟国やパートナーの支援を活かしながら国際標準システムの公正さを推進します。世界各国から広く参加することができ、全ての人の包括的な成長に資するような、フェアなプロセスによって得られる技術的な利点をベースに国際標準が構築されることを担保するためです。 

戦略を実現するために 

米国の民間セクターは、市場の需要に対応して、米国政府・アカデミア・市民団体の実質的な支援を得ながら、標準開発機関(SDOs)を通じて世界で標準化の活動をリードしています。ANSIは米国民間セクターの活動を調整し、NISTは連邦政府の標準化の活動を行なっています。産業団体、協会やその他民間のグループはそれぞれの課題を解決するために連携しながらそのシステム内で活動しています。これまで、このアプローチは、すべての国の人々にとって経済成長をもたらすような効果的でイノベーティブな標準システムを構築してきました。
 
CHIPS and Science Act of 2022は$52.7bilを米国の半導体研究開発・製造・人材育成に提供しました。この法律は、連邦政府の省庁間の情報交換・連携と、連邦政府から民間セクターへのコミュニケーションを主導するNISTの役割を成文化しました。この取り組みは、CHIPS and Science Actを通じた標準化前の研究への投資と合わせて、国際的な標準化において米国の影響力とリーダーシップを牽引する。NISTはリソースや標準化情報を政府・アカデミア・一般に公表するポータルを提供している。今後の米国政府のこの戦略の実行に関する内容も当該ポータルにポストされる予定。
 
米国政府はすでに戦略に記載されたような国際的な取り組みに対して甚大なコミットメントをしている。米国は、同志国と共に国際協調の枠組みであるISCNに参画している。また、米EUのTrade and Technology Councilにおいて、大西洋を跨いだ情報交換を行うべく戦略的標準化情報メカニズムを起動した。
 
多くの米国省庁はすでにそれらの活動・パートナーシップを通じて戦略にコミットしている。たとえば; 

  • NSF(National Science Foundation)は、提言や表彰規定を改定して標準化活動への参画へのインセンティブを与えている。

  • 国務省、NIST、商務省、FCC、NSA、米国貿易代表、USAIDやその他の省庁は、CETの情報交換を行うさまざまなマルチのフォーラムに参画している。たとえば、ITU、Quad、US-EU Trade and Technology Council, G7、APECなど。

  • NTIAはPublic Wireless Supply Chain Innovation Fundを所管し、CHIPS and Science Actによって提供された$1.5bilの補助金を管理し、オープンで互換性のある標準に基づくネットワークについての研究開発や応用を促進している。

  • 国防省はANSIと民間セクターと共に、Global Supply Chain Security for Microelectronics and Additive Manufacturing Standards RoadmapやAlliance for Telecommunications Industry Solutions and the 3GPPなど、共同で標準化の活動を行なっている。

  • 国際開発庁とANSIは、途上国における標準開発、遵守アセスメント、及び民間セクター対応の能力開発を官民パートナーシップで支援している。

  • 環境庁のSmartWay programはISOと共に、交通におけるグリーンハウスガス会計について、信頼性・正確性がある交通関係の気候汚染物の計算・評価のグローバルなフレームワークを協力して標準化している。

  • NTIA、NIST、FCCは米国政府と協調して3GPP及びAlliance for Telecommunications Industry Solutionsで北米でホストする3GPP会合に国際標準化のための代表団が参加するよう担保している。

  • FCCに新設された国際室が、5Gや次世代技術における米国のリーダーシップを推進するために、国際的な標準化活動、たとえば、3GPPやInternet Engineering Task Forceなどに専門家を参加させる。

  • 運輸省が、様々な米国の・国際的なSDOを通じた自発的な技術的な標準の策定を支援する。

  • エネルギー省DOEが民間セクターとのパートナーシップを通じて、水素やエネルギー貯蔵からバイオテクノロジーから高性能コンピューティングまでDOE及び17のNational Laboratoriesの専門家の貢献によって多様なエリアにおける標準づくりに貢献する。

  • 財務省及びOffice of Financial Researchが金融データの標準作りやデジタルID、デジタル資産、分散台帳技術について主導・貢献する。 

戦略に規定されたこれらの活動は、国家安全保障戦略、国家サイバーセキュリティ戦略、ANSIの米国標準戦略における原則と沿ったものである。そして、標準作りの公正さを守るだけではなく、長期的な米国のイノベーションに資するものである。


◉向山淳って誰?◉
このnoteにたどり着いて「お前は一体誰だ!」と思われた方はこちらをまず是非ご覧ください。

◉SNS等でも発信しております◉

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?