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「線は、僕を描く」 〜なつこの本棚〜

ふらりと立ち寄った書店で、たった15分ほどで50ページ余りを読み終えてしまった。
するりと、世界観に引き込まれて、はっと気づけば、その本をしっかりと握っている私がいた。本など買うつもりなどなかったのに、ほんの少しだけ迷った後、そのまままっすぐにレジに向かっていて。
立ち読みで終わらせるにはもったいない。

序盤でそう思って、レジに走った私を褒め称えたい。

買ってよかった!!!!

たくさん、心に残ったフレーズはあるけれど、
あえてというならば、
「学ぶこと。学ぶことを、楽しむこと。失敗から学べることはたくさんあるからね。」
「長く基本として残るものには、それなりの理由がある」
当たり前かもしれない。基本のキかもしれない。
けれどその言葉は、改めてハッとさせる力があった。
教えていた者として、そして今は学習者として、忘れてはならないフレーズだなと。
主人公と共に、水墨画ではありませんが教えを請うてる感覚におちいりながら読了。

さて本についてですがざっくりあらすじをいうならば、
とある青年が、ひょんなことで水墨画と出会い、己と、水墨画と向き合っていくというお話。


何よりもまず文章が繊細。
登場人物の心理描写、描かれる水墨画の詳細。
ひとりひとりの水墨画のタッチが、みずみずしく表現されていた。
読めば読むほどのめり込む文章ってこのことなのだなと。
大きな題材になってる水墨画って、無色の絵画の世界。
それなのに、その筆の動き、着想される題材の色合い、動き、登場人物が表現したいもの、足りないものが鮮やかに文章になって本の中から溢れ出てて、目の前で描かれているようで。
墨の濃淡、筆が墨に沈む音、筆を紙に置く瞬間の緊張感。
ものすごく繊細に書かれてるのに、くどくない。わかりやすくて、鮮やか。
おわってほしくなーい!
と惜しみながら読むほどに、読書が楽しかった。
久しぶりにずっとうずうずしてた。仕事中も読みたくて読みたくて仕方なかった。

この本の帯に、小説の中に絵が見える!と書かれてるんですが、まさにその通り。煽り文すごい。
本当に絵が見えた…… 主人公が水墨画と向き合うと共に、ある時から止まってしまっていた己の心と向き合って、あらゆるものと心を通わせていくその変化が、静かに、けれどたしかな様子で描かれていて、水墨画との対比もとても面白かった。

するするとあっさり読める、けれど濃密な一冊。
大満足。
単純なので水墨画観たくなる。

書籍:「線は、僕を描く」
          舐上裕將
          講談社


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