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学習と仕事の一体化

「組織学習の取り組みを最も制限してきた要因はおそらく、断片化、つまり学習を人々の日常の仕事の“追加的なもの”にしていることだろう」(引用:ピーター・センゲ著『学習する組織』英治出版P412)

「学習と仕事が一体化するには何が必要なんだろう?」

私が長く抱いている問いだ。世の中には、学習のための様々な考え方、ツールがある。しかし、それが組織の中で根付き、仕事と一体化しているケースに出会うことは多くない。結局のところ、どんなに気の利いた考えも現場で使われなければ意味がないと思う。

この問いのヒントを得たいと思っていたところ、ぴったりの人物から話を聞かせてもらえることになった。三橋新さんだ。三橋さんがお勤めのSansan株式会社では、コーチングが制度となっており、多くの社員がコーチングを仕事のために活用しているという。三橋さんの取り組みの詳しい背景はこちらに詳しい。

会社が制度として導入したものの、現場からするとそれが仕事の追加的なものになっており、現場は冷めているという話を聞くことは少なくないが、Sansan株式会社のコーチング制度は様子が違う。何がそれを可能にしたのか?

三橋さんが話してくれた今に至るまでのストーリーから、私はとても大切なことを教わった。これからの自分の活動の礎になる気づきを書き留めておきたい。まずは三橋さんのストーリーを「状態」「認知」「行動」という観点でざっくりと振り返ってみる。

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スタートは、三橋さんの挫折から始まる。全力で仕事に打ち込んできた先にあった挫折。そんな時、周りから人の話を聞く事について強みがあるとフィードバックを受けたことをきっかけにコーチングに出会い、勉強と実践がはじまる。大きな投資と家族の応援を受けて、三橋さんの中では「絶対に学びだけで終わらせない」という強い覚悟があったという。

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コーチングの機会を創り出すため、コーチング部を設立し、実践を重ねていく。実践すればするほど、「コーチングは自分の天職だ」と感じ、何よりコーチングしていることが楽しかったという。この時、三橋さん個人の中で状態、認知、行動の好循環がまわっていた。


やがてコーチングを受けた身近な人たちの中で、コーチングへの好意的な認知が育まれていく。

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いつしかコーチングを受けた人たちが三橋さんの活動のファンになり、社内口コミでクライアントを連れてきてくれるようになった。三橋さん個人の好循環が近しい人を巻き込んだ好循環へと展開していく。


やがてその口コミは、組織の上層部にも届くようになり、コーチングが正式に会社の制度となったという。私には、三橋さん個人で回り始めた好循環が、近しい人を巻き込み、やがて組織全体を動かしていったストーリーのように聞こえた。

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制度を導入して学習を創り出そうとするケースとの決定的な違いがここにあると思った。それは、内側の2つが熟した先に制度が生まれたプロセスだ。三橋さんが一人でコーチングをはじめてからコーチング制度ができるまで4年以上の歳月がかかっているという。4年以上にわたって内側を育んでこられた。その先にコーチング制度が生まれている。

この話に私はリアリティを感じた。Sansan株式会社のコーチング制度は、人の営みをコントロールしようとする制度ではなく、人の営みを支える制度なんだと思った。

仕事と学習が一体になるには、変える対象として「組織」を定め、そこをコントロールしようとするよりも、人の営みを育んでいくことが大事なのではないか。人の営みを育むには、まずやっている自分が楽しく、充実していて、それから、顔が見える一人一人の身近な人たちが喜んでいる。それが大切なのではないかと感じた。まさに「近きもの喜べば遠き者来る」だ。


自分の気づきを三橋さんとシェアする中で、三橋さんが面白い事を言った。それは、「他社からコーチング制度の話を聞きに来られると皆さん“自分にももっとできることがある”と言ってくれるんですよ」と。続けて「そういえば社内でコーチングしている時もそうだった。コーチングを受けた人が“自分にももっとできる事がある”と言ってくれるんですね。もしかするとコーチングだけをやっていた訳ではないかもしれない」と。

誰かの覚悟をもった未知への一歩は、他の誰かの一歩創り出す。学習は、チーム、システムの中で生まれ、育まれる。そんな観点で学習を捉えてみると、私の学習は私だけのものではなく、それが育まれる環境や仲間への感謝が芽生える。同時に自分自身のシステムへの関わり方について身が引き締まる。


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