雨の日の煙草
中野に自主企画のフライヤーの折り込みをお願いしに行った。制作さんにあとはやっておくよと言っていただいて、仕事がなくなる。
さて、これから何をしようかなどと思案しながら帰り道。
歩いていると小さな煙草屋が目に入った。
そういえばここ、何度かお世話になったなぁなどと思いながら灰皿の前に立つ。
中野駅から少し。
レンガ坂を登り切って、左に曲がって歩いていくと小さな煙草屋がある。
店舗の前に灰皿を置いているような昔懐かしい感じの小さな煙草屋。灰皿が置いてあるところには屋根があって、雨の日はそこで雨宿りをしながら煙草を吸う。
その日はちょうど強い雨が降っていて、雨宿りをしながら煙草を吸いたい気分だった。
喫煙所は二人くらいしか立てないような小さなスペースで、先客が一人。横に並び立ちながら、ポケットの中を探る。
確かライターと煙草を右のポケットに入れてきたはずだと思いながら探る。なかなか見つからないものなのだ。ポケットは深い。
ふと手に2つの金属の感触、たばこケースと、zippoのライター。
居た。
二つを右手で掴んで、たばこケースを開けて、中から左手で一本煙草を取り出す。
甘い匂いがする。バー―ジニアの葉にバニラのフレーバーを付けたもの。手巻きの不格好な煙草を手に取り、咥える。
たばこケースをポケットの中に。
続いて、ライターを蓋を開けてホイールを擦る。火が付く。風が強いから少し揺らめく。
咥えた煙草に火を持っていく。少しだけ吸い込む。
煙草の先に小さな赤い火が灯る。紙と葉が焼けていくような小さな音も聞こえる。ライターの蓋を閉める。ライターも右のポケットへ。
口の中に甘くて苦いような味が広がる。安心する味。雨で適度に加湿されたからなのかいつもより口当たりが柔らかい。
口から煙を出す。味が変わるなぁなんて思いながら吐く。それまで頭の中にあったものが整理されていく感じ。
寒かったから、吐いた煙が白いのか、それとも自分の吐く息が白いのか、なんてそんなことを考えながら、一時だけ休まった気分だ。
ふと、先客が煙草を灰皿に入れ、傘を開きながら雑踏に出ていく。
煙草をふかしながら、人を見る。雨に濡れないように走る人、談笑しながら歩く人。様々だ。
ふと、灰皿に向かって二人、歩いてくるのが目に入った。
行かなければ。先に来た人間は先に出るのがルールみたいなものなのだ。
傘を開きながら雑踏に繰り出す。
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