【観戦記事/MTGA】yamachong(日本) vs. A氏(地球のどこか)【エクスプローラー】
MTGAプレイヤー・yamachongの8月
エクスプローラーといフォーマットが今年4月にMTGアリーナ(MTGA)にお目見えして以来、yamachongは空き時間を見つけては夢中でプレイしていた。
テーブルトップやマジックオンライン(MO/MTGO)で遊ばれている既存フォーマット・パイオニアとは使用可能セットの範囲を同じくするも、MTGAにて未実装のカードは当然使えないという不便さ――セレズニア(緑白)のファンが《寺院の庭》や《ドロモカの命令》は使えて、《復活の声》はプレイできないことにもどかしさを覚えるように――を、yamachongは妙に楽しく感じているようであった。
叶うなら、このフォーマットでMTGAにおける最高ランクであるミシックに到達したい。彼は日々そう願っていた。
しかし、誰かのミシック入りの願いが叶うころ、yamachongは泣いていた。
まさかのプラチナ帯で5連敗。おかしい……こんなことは許されない……。
それでも、これが現実であった。
彼はその原因を方々に求めようとしたが、デッキには環境におけるベストとは言えないまでも、致命的欠陥は無いように感じられた。
グルール《収穫祭の襲撃》
《ラノワールのエルフ》と、7月に実装されたばかりの『エクスプローラー・アンソロジー1』からの新戦力《エルフの神秘家》の計8枚の1マナ・マナクリーチャーから速やかに《長老ガーガロス》ら大型のクリーチャーを直接プレイ、あるいは《収穫祭の襲撃》を介して2枚同時に立たせ、盤面を制することを企図して組んだデッキである。
エクスプローラーのトップに位置していると思われる『ラクドスミッドレンジ』の(特にメインボードの)除去呪文の多くに引っ掛かり辛く、《墓地の侵入者》ら主力クリーチャーのサイズに優越するため、また消耗戦にも《収穫祭の襲撃》などで食らいつくことも可能で、有利に戦える構成に仕上がっている。
実際、yamachongはマッチ・ランク戦でラクドスに対して6勝1敗をマークしている。
それに比して、アルケミーでは禁じられている『イグナス・コンボ』をはじめとしたコンボデッキに対しては、赤緑デッキの常として抵抗力が弱く、非常に苦手としている。
それでもイグナス相手に2勝2敗と、先行を取れさえすれば戦えなくはない立ち位置と言える。
サイドボードについては、ラクドスに次いで対戦機会の多い『青白コントロール』を意識して構成している。
現状は3勝3敗と特別有利は付いていないが、渡り合えているとは言えるだろう。
しかし、ランクは上がらない。
「つまり……私が雑魚ってこと……?」
yamachongが『真理』に気付くのに、それほど時間は掛からなかった。
それでも、雑魚であろうとなかろうと朝日は昇るし、MTGAにログインしている限り対戦の機会は巡ってくる。
折れずに、目の前の盤面に双眸を凝らす。それが、彼に出来る一番のことであった。
マッチ・ランク戦 vs. ナヤ《天使火の覚醒》
yamachongのプラチナ3から2への昇格を賭けた一戦は、7秒間のマッチング時間を経てA氏(仮名)と組まれた。
6連敗だけはアカン、6連敗だけはアカン、6連敗だけはアカン……
そうつぶやく彼に明日はやってくるのか。
ゲーム1
yamachongの先手でスタート。
オープニングハンドは以下の通り。
1ターン目に両エルフをプレイできないのが不満で、かつエルフを処理されると不利に立たされそうという懸念があったが、それを乗り越えさえすれば2枚の《砕骨の巨人》で時間稼ぎしつつ攻勢に出られることを期待してか、沈思黙考の後にキープ。A氏も7枚でのキープを宣言。
筆者からは、ラクドスが隆盛する世界においてやや希望的観測が過ぎるように見えるが、この選択がどう出るか。
後手のA氏は《ジェトミアの庭》のタップインから開始。早々にナヤカラーないし《ニヴ=ミゼット再誕》デッキであることが露見した。
続く2ターン目には、《寺院の庭》をライフ2点を支払いアンタップイン。マナをオープンにし、意味深げにターンを渡す。
yamachongの3ターン目、3枚目の土地を引くことは叶わずも、このターンに引いた《ラノワールのエルフ》を合わせて3枚のマナクリーチャーを定着することに成功。4ターン目以降のビッグアクションを予感させる盤面となった。
A氏は、攻撃する《ラノワールのエルフ》にしばらくマウスカーソルを合わせる素振りを見せるも、結局構えていた2マナを用いず3ターン目に入り、《鏡割りの寓話》をプレイ。
5マナまで到達した4ターン目のyamachongは、《踏みつけ》を《鏡割りの寓話》のゴブリン・シャーマントークンへ差し向け、そのまま追放領域から《砕骨の巨人》をプレイ。攻勢に転じる。
少し余裕が出てきたyamachongは、ここで『ハイチュウプレミアム・ぶどう』を開封。
筆者はグリーンアップル味の製造再開を心より願っております。今回の勝利より願っているまである。
A氏は4ターン目、《鏡割りの寓話》の第2章の能力で《ジェトミアの庭》と《天使火の覚醒》を捨てて2枚ドロー。その後、2枚目の《鏡割りの寓話》をプレイ。
5ターン目、yamachongはここまで一度も土地を引き込めなかったことに落胆の様子を見せるが、それでも3枚のエルフは未だ健在。
2枚の《砕骨の巨人》を来るダブル《キキジキの鏡像》に備えて温存させつつ《反逆の先導者、チャンドラ》をプレイ。ー3能力でゴブリン・シャーマントークンを退場させる。
その後、4枚目のエルフ《ラノワールのエルフ》を戦線へ送り出し、次ターンに《収穫祭の襲撃》を唱える準備を図る。
A氏の5ターン目は、《キキジキの鏡像》から4枚目の土地《聖なる鋳造所》をアンタップイン。4マナをオープンにし、yamachongへターンを渡す。
それを受けたyamachongは、《反逆の先導者、チャンドラ》の+1能力で2マナを得ると《踏みつけ》を《キキジキの鏡像》へプレイ、残るマナをフルに使って唱えた《収穫祭の襲撃》から《栄光をもたらすもの》と《鏡割りの寓話》が戦場に出る。
この釣果に非常に気を良くしたyamachongは、相手の4マナに目もくれずに《栄光をもたらすもの》と《砕骨の巨人》でアタック。
「これは勝ったな」と歯茎を見せ始めるyamachong。
その瞬間を見計らっていたA氏の手から飛び出す《放浪皇》。飛び出すyamachongの目玉。消し飛ぶ《栄光をもたらすもの》。
「何が栄光やねん!!!!!」と狼狽するも、A氏のライフは残り9まで落ち込んでいる。それに希望を見出したyamachongは、気を取り直して次ターン《砕骨の巨人》と《エシカの戦車》を立て続けに展開。
盤面が固まってしまったことを確認したA氏は、ここで投了を宣言したのであった。
yamachong 1 - 0 A氏
これはいけるかもしれん――これまでの連敗の主因と思われる慢心が、今回も当然の如く顔を覗かせるyamachong。
ゲーム1では目にしなかったものの、大型の緑のクリーチャーが襲ってくることを予見して《バーニング・ハンズ》2枚をサイドボードより投入、《収穫祭の襲撃》1枚と《運命の神、クローティス》をサイドアウトしてゲーム2へ臨む。
ゲーム2
先手のA氏は、6枚の手札から《ジェトミアの庭》をプレイする立ち上がり。
対するyamachongの初手は以下の通り。
序盤の動きに乏しいことが気になるが、首尾良く行けば爆発力のあるハンドであると見たyamachongはこれをキープ。速攻を掛けられないことを願いつつ土地を並べていく。
先に動いたのは3ターン目のA氏、ゲーム1と同じタイミングで《鏡割りの寓話》をプレイ。プレイできるクリーチャーも居ないyamachongは、返すターンに第2章を嫌って《耐え抜くもの、母聖樹》で英雄譚を破壊。
4ターン目、特にアクションの無いA氏に対し、yamachongは《エシカの戦車》をプレイ。ここまでで大きな盤面の差が生まれなかったことに安堵する様子を見せる。
5ターン目、A氏は宝物トークンを含め7マナを立たせて不気味にターンを返す。
《放浪皇》を警戒したyamachongは、《エシカの戦車》に乗せることなく徒歩で猫トークン2枚をA氏へ仕向ける。果たしてA氏の手札から《放浪皇》は現れず、代わりに一方には《冥途灯りの行進》を、他方には《踏みつけ》をプレイし猫トークンを全滅させた。
その後、yamachongは《茨の騎兵》をプレイ。その能力で土地を6枚に伸ばす。
A氏は6ターン目、追放領域より《砕骨の巨人》をプレイ。引き続き《放浪皇》を予感させる4マナを残してターンエンド。
yamachongはそれに対し《栄光をもたらすもの》を唱え、その督励能力で《砕骨の巨人》を砕かんと、《茨の騎兵》と共にレッドゾーンへ送り込むべく<2体で攻撃>ボタンをクリック。
個別の攻撃選択を受けなかった《栄光をもたらすもの》は、通常攻撃か督励かの選択肢をyamachongに与えることなく戦地へ赴く。
それに気付いた刹那、凍り付くyamachongの顔面。震えだすマウスに添えられた右手。
「何が栄光やねん!!!!!」と叫ぶyamachongを気にも留めず戦況は推移していく。
《砕骨の巨人》の除去は叶わずも《栄光をもたらすもの》の攻撃は無事に通るが、《茨の騎兵》には予想通り《放浪皇》の-2能力が突き刺さる!
先のミスを引き摺るyamachongだが、気を取り直そうと忠誠度1の《放浪皇》に《バーニング・ハンズ》をぶつけて元の次元へ送り返す。
次のターン、A氏はゴブリントークンと命拾いをした《砕骨の巨人》で攻撃し、yamachongのライフは残り10。
返すターンのyamachongは今度こそ督励能力を起動するべき慎重に《栄光をもたらすもの》をクリック……させまいと、そこにはA氏から《運命的不在》が差し込まれる。ミスを完全に咎められる形となった。
《長老ガーガロス》をプレイしたyamachongに対し、さも脅威を感じていないかのように先のターンと同じ攻勢に出るA氏。
《踏みつけ》と合わせて除去するつもりかと予想するも、ライフ残量も鑑みると致し方無し、とyamachongはブロックに《長老ガーガロス》を差し向ける。
その予想が当たることはなく、A氏の手札からはまず2枚目の《放浪皇》がプレイされ、+1能力で《砕骨の巨人》を強化。
続いてyamachongの思考の埒外にあった《エンバレスの宝剣》が着地!6/5・トランプル・二段攻撃となった《砕骨の巨人》が《長老ガーガロス》を倒しつつ本体ダメージを与え、yamachongの残りライフを2まで落とす。
yamachongの盤面には、乗り手の居なくなった《エシカの戦車》のみ。
相手のライフ12を自らを守りつつ削り切る手立ては見出せず、無念の投了となった。
yamachong 1 - 1 A氏
「またまとめて攻撃してもた……」
ゲーム2を終えた彼の呟きに、筆者は連敗の原因を確かに見たのであった。
ゲーム3
先行のyamachongの初手は以下の通り。
マナを伸ばした先のゴールはこの後に引ける信じて、今回も7枚でキープ。
対するA氏も、思考時間をほとんど取らずに7枚でのキープを宣言した。
yamachongは、最速での5マナクリーチャープレイを期して、初動から2ターン続けてのエルフプレイを選択。
A氏はそのうちの1枚を《踏みつけ》し、返すターンに《楽園のドルイド》を投入、yamachongと同じく次ターンのビッグアクションに備える。
5マナに到達する4ターン目のyamachongのドローは《長老ガーガロス》!
丁度良いドローににわかに沸き立つyamachongのテンション。
《砕骨の巨人》でA氏のライフを14まで落とし、《長老ガーガロス》をプレイしターンを終える。
それを看過できないA氏は、自らのターンに《楽園のドルイド》を追加しつつ、《長老ガーガロス》へ《運命的不在》を使う。攻め手を《砕骨の巨人》だけの状態に戻す。
となると次なる大物が欲しいyamachong。祈りながらドローしたのは《栄光をもたらすもの》!
運だけクソ野郎と化したyamachongはノータイムでそれをプレイ。督励能力で《楽園のドルイド》を破壊してマナを4つに縛りつつライフを削り、A氏の残りライフを6に。
4マナを立ててターンを渡すA氏に対し、押せ押せムードのyamachongはそれに構わず《砕骨の巨人》と《ラノワールのエルフ》を攻撃させる。
それを受けるA氏は間髪入れずに《放浪皇》をプレイ、《砕骨の巨人》を追放して盤面を落ち着かせる。
残った《放浪皇》に《バーニング・ハンズ》を当てて退場させ、ターンエンド。
《砕骨の巨人》を失うも《栄光をもたらすもの》は健在、相手のライフは残り7、という状況を見たyamachongの表情からは明らかに慢心が読み取れる。
4マナをオープンにしてターンを返すA氏に一抹の不安を感じながらも《栄光をもたらすもの》と《ラノワールのエルフ》で攻勢に出るyamachong。
しかしそこに突き刺さるのは《残骸の漂着》!
「ふーーーーん、なるほどね」と呟くyamachongの声は確かに震えていた。
それでも《バグベアの居住地》が戦場にある上に、このターンに《長老ガーガロス》を引き込んでいたyamachong。2枚目の《残骸の漂着》さえ無ければ、と祈る。
祈りが通じたか、次のA氏のアクションは追放領域からの《砕骨の巨人》。
攻撃を咎める要素がブロッカーのみとなったここを好機と見て、yamachongは《バグベアの居住地》を起動、《長老ガーガロス》を含めもてる全軍で攻撃。《バグベアの居住地》は《楽園のドルイド》、生成されたゴブリントークンは《砕骨の巨人》でブロックし、A氏のライフは1。
《長老ガーガロス》からビーストトークンが出たのを見届けてターンをA氏に返し、趨勢を黙して見守るyamachong。
4マナ目を戦闘で失ったA氏は土地を引き込めず、十数秒思考時間を取ったのち、投了を選択したのであった。
yamachong 2 - 1 A氏
「5連敗と言えば、私が参加したグランプリ神戸2015を思い出すんです。」
A氏との対戦後、yamachongはそう筆者に切り出した。
「5連敗を挟んで、2勝7敗で初日落ちだったんですよ。大変異でカード(《棲み家の防御者》)を裏に伏せてプレイする際に、何を思ったのかカード名を高らかに宣言してしまったり、めちゃくちゃだったんで当然なんですけれどね……(笑)」
なにわろとんねん。
「無論、私と同じラインで戦うプレイヤーたちはボコボコに負け散らかした上でそこに座っているわけですが、それでも対戦相手も周りの人も皆楽しそうだったんですよね。私も楽しかったですね。」
yamachongは続ける。
「負けるのはしんどいのは間違いないです。でも、それ以上に楽しいから連敗続きでも何とかやっていけるんですよね。いつまでもあの時のマインドでやっていれば、いずれ良い結果が出るんじゃないかって思っています。」
そう晴れやかに語るyamachong。その表情は、連敗の悲しみとはもう無縁のように見えた。そんな彼に筆者は尋ねた。
――そうですか、ところでさっきのドラゴンの督励の話ですが、
「おいカメラ止めろ」