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お気に入りの美術館 府中市美術館 「インド細密画」 

前回デイヴィッド・ホックニー展で初めての記事を一気に書いてから、
少し間があいてしまいました。
今回は簡単になぜ美術館に通うようになったのかを書きたいと思います。
美術展の感想の前に少しだけお付き合いください。

私は都内で会社員をしています。
少し前まで平日は仕事に忙殺され、
休みの日はただただ体を休めていました。

そんな風に過ごしているうち、
休日は翌週からの仕事のために体を休めるための日なのか?
それが私のやりたいこと?と考えるようになりました。
このままじゃ酸素の足りない水槽で泳いでいる魚のように苦しいままだ。
自分のために時間を使おう。
そして、しばらく遠ざかっていた美術鑑賞を再開することにしました。

なんで、好きなことを忘れていたんだろう。
今は手探りで、美術展の感想を書くことに精一杯です。
コレ!という正解がわからないから、毎回文章が迷走することも。
感じたことを稚拙ながらも言葉にしたいという
欲求に突き動かされて、書いています。
自分の気持ちに正直に向き合い、文章を書くこと。
そのため解説的なことはあまり取り上げないと思います。

この後もお付き合いいただければ、嬉しく思います。



さて、皆さんはお気に入りの場所はありますか?
お気に入りの場所でくつろぐ時間は特別に感じます。

私のお気に入りの場所は東京都府中市にある府中美術館です。
都内の美術館の雰囲気とは違ってこぢんまりとしてますが、キュレーターのかたの心意気や創意工夫が伝わる暖かい展覧会を創っている美術館だと感じます。
会場の最後まで、小さなお子さんが楽しめる素敵な美術館です。
今回は府中市美術館「インド細密画」展 2023年9/16(土)-11/26(日)を鑑賞してきました。

会場に入ると「絵画鑑賞とは絵と一対一で向き合うこと」(正確に覚えているわけではないのですが)と書かれていて、うんうんと納得しながら入場。
絵と対話しながら好きに楽しんでよいですよ!とお墨付きをいただき、
背中を押された気分です。

私は今までインドに強い興味を持ったことがありませんでした。
宗教に基づく制度が残る国、主人公たちが激しく踊り出すインド映画、
そしておいしいインドカレー!。
それが今回で変ったのか、と言えばそうではありませんでしたが(笑)
しかし、インド文化の一端を感じられたのは収穫です。

今回は細密画の美術展のため、とくに線描の美しさが目を引きました。
描かれた人物たちは目をより大きく描きたいという欲求から、横顔を描くことが浸透していった(横顔なら目を大きめに描いても不自然にならないから!)など、小さな絵画の中に情報が盛り込まれています。
平たい顔民族の私としては、お顔の造形がはっきりしていて、写実的であったとしても十分に魅力的な瞳を持つ方が多いように感じますが…

作品はA4サイズでほどのものが多く、線は繊細な表現かつ色彩に溢れています。絵本の挿絵を見ているよう。
絵本の挿絵を見ていると、知らず知らずのうちにストーリーに引き込まれる感じです。
挿絵って絵本のストーリーを増幅させる役割があるでしょう。
1点1点の作品がそのような存在感を持っているのです。

そして何より色使いがとっても楽しい。
現代に通じるポップな色使いです。
ピンクの背景にイエローの配色、
鮮やかなブルーの背景に白、
高貴な方の衣装は薄く透けてみえます。
細部まで柄が丁寧に描きこまれ、つい顔を近づけてみたくなってしまいます。会場はそれほど混雑していなかったため、私も周りに配慮しながら
目一杯顔を近づけて鑑賞してしまいました。
(夢中で顔を近づけて見入っている大人の方が結構いらっしゃいました)
小さな絵画に情報量が盛り込まれており、顔を近づけて見入らなければ処理が追いつかないほどです。

花柄の衣装を身に纏っている貴族男性を描いた作品もあり、
小さな小花が、手を抜かずにしっかり描きこまれています。
丁寧な仕事に心を掴まれて、可愛いものが好きな方は
キュンとするかもしれません。
また男性が小花を片手にお決まりの立っているポーズがあり、
”芸術を愛する”という意味を現わしているそうなのです。
高貴な方々にとって、”芸術を愛する”とは自身の知識・教養の深さを
示すことだったのかもしれませんね。


先ほど作品はA4サイズとご紹介しましたが、
このサイズだとプライベートな場所に飾られたのかなとなどと妄想。
家族と楽しむためだったり、こっそり自分に浸るためだったかもしれません。こんな絵に描かれる私、今日も素敵!とか。
そんな風に感じるほど、作品の肯定感の主張がお強い。
人物の主人公感が伝わってくる作品が多いです。


テーマの選択もインドの国民性をあらわしていて、とてもユニークです。
神と彼の妻が理想の夫婦として描かれていたり、
インドの音楽をテーマにして人物が描かれていたりします。
シヴァ神は名前だけ聞いたことがありましたが、ストーリーがインドで国民的人気のため絵画に取り上げられていたそうです。
貴族や王様も登場しますが、みんなが好きなヒーロー(クリシュナ)を登場させたりして、冒険や夫婦愛をより身近に取り入れようとしていたんだと感じます。
「恋人を愛するように、神を愛せよ」がインドの生活の一部だと聞くと、自分にはない価値観だけれど気持ちが全く理解できないことはないし、
ヒーローや神々の活躍を見て心を踊らせた人々がいると思うと、
人間の感情は普遍的でいつの時代も変わらないと感じました。

また、「もしかしてインド⁉」と伝わる独自性を持つインド音楽も
絵画のテーマとなっていることも興味深かったです。
インド古典音楽は、それぞれ演奏する時間が決まっている作品があるそうです。音楽に元からあるストーリーを描き手が想像を広げ、わかりやすく伝えてくれる。
清らかな女性が描かれた絵画は、澄んだ音色の音楽かなと想像したりするのも楽しい。
絵を見ているのに音色を想像させるなんて、やっぱり芸術は奥が深い。


インド細密画展を観た私の感想は
アンミカさんの「白は200色あるんやで。」との言葉に掛けると、
「色の組み合わせは無限にあるんやな。」でありました。

例えば、洋服は3色以内にまとめるとかっこいいとか
インテリアも色が多すぎるとまとまりません!とか暗黙のルールが
ありませんか。
人によってはチェック柄のシャツに、ストライプのボトムスを合わせても
その人らしさがにじみ出ている場合もあります。
ようは表現の可能性を閉ざさないことに価値があると感じました。

知りたくなったらいくらでも知識が得られる時代。
だからこそ、今自分が感じる感情をどんな言葉で現わせられる?
色はどんな感触に近い?どんな香りがしそう?などと
自分と対話しながら、ゆっくりと鑑賞出来ました。

展示室を出たところに、お子さんにも作ることができる簡単な工作?を楽しめるスペースがありました。
以前もそのようなスペースがあったので、毎回用意されていると思われるのですが、大人も参加すると楽しいです!
お子さんと一緒に行っても、過度に静かにしなければならない圧迫感を感じさせない素敵な美術展なので、興味を持たれた方はぜひ足を運んでみてください。


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