【渡辺の本棚】「市民と行政がタッグを組む!「自治体3.0」のまちづくり」 前編

2020年5月に発刊された、小紫雅史生駒市長の新刊の本を拝読しました。 生駒市の「自治体3.0」のまちづくりを体感すべく、本書で「仮想・生駒市職員」「仮想・生駒市民」を堪能しました。ここでは第1章・第2章について感想を書きます。

「市民と行政がタッグを組む!「自治体3.0」のまちづくり」
はじめに、「自治体3.0」を志向する市民/行政の声を聴いてみよう。

市民「最近退職者が増え、地元に戻ってきている。彼らはいろいろな経験をしているし、時間もある。活躍する場や機会を作ってくれたら街に貢献してもらえるはず」「子育ても少し落ち着き、社会と接点を持ちたい。何か良いきっかけはないか。」

行政「まちづくりに奮闘する市民を取材したり、応援するうちに、自分もその活動に一市民として参加するようになった。」「市民と力を合わせて進めた仕事はやりがいや達成感が大きい。」

著者は、まえがきで、市民が家庭や仕事のほか、地域に目を向け、まちづくりに参加すること、またそのような動きを行政が応援し、自らもまちづくりを楽しむことが今後ますます重要になる。このような流れができた自治体は、市民と行政の不幸なにらみ合いから脱し、両者が力を合わせ、楽しみながらまちづくりが進む自治体となる。これこそが「自治体3.0」であり、地方創生の根幹をなす考え方と説いている。

本書は「自治体3.0」について、第1章~第4章で構成されている。

第1章 市民を単なる「お客様」にする自治体は崩壊する        
第2章 これが「自治体3.0」の取組だ! 
第3章 「自治体3.0」を実現するため、行政がやるべきこと      
第4章 「自治体3.0」の今後の展開

第1章では、「生駒市市民満足度調査」により、地域活動への参加が多い市民層は、住みやすさへの満足度が高い、逆に地域活動への参加がない市民層は満足度が低い、との分析があった。市民の地域活動と定住意向には良い相関性があるようだ。そして、著者は、これからの自治体が目指すべきは、次の4つの基本的な方針だと考えるようになった。

「まちづくり活動を通じて、市民が街に愛着と誇りをもって住み続ける街」  
「市民が、自分たちの課題を自分たちで解決しようとする街」 
「まちづくりに奮闘する市民を行政や他の市民が応援し、ともに汗をかける街」
「行政でしかできないことは、他の街に負けないよう、行政も奮闘する街」
「自治体3.0」とは何か?「自治体1.0」「自治体2.0」と比べてみよう。

「自治体1.0」:お役所仕事、ゆでガエル、もうしばらくは何とかなる、最後は国や県が何とかしてくれる、人口減少や少子高齢化は仕方ない ⇒まだまだ多い                              「自治体2.0」:改革派市長のトップダウン、市民=お客様、お上に頼る市民意識を助長 ⇒評価すべき点はあるが、現代では持続不可能       「自治体3.0」:みんなの課題はみんなで解決、協働・協創、地域への愛・誇り ⇒このまちに住み続けたいという定住意向が高まり、まちづくりに参加した方が楽しいという市民がさらに増え、次のまちづくり活動がどんどん進む

「自治体3.0」のまちづくりのパートナーは、退職者、主婦、学生、現役世代、事業者やNPOなどあらゆる市民             

「人生100年時代」を迎え、男性86歳、女性92歳まで生きるため、退職後の生き方を考える時代。

子育て世代の女性にサテライトオフィスを開設し、コワーキングや起業支援。

大学や学生の実学志向と連携。流行を先取りし、新しい技術を取り入れるなど、時代の最先端にいる。若者の発送と行動力を自治体がうまく引き出す。

ワーク・ライフ・コミュニティとダイバーシティの融合

大阪のベッドタウンだった生駒市。                  ⇒「ワーク・ライフ・バランス」に「地域(コミュニティ)」を加えた地域に。地域にはいろいろな支援の場や機会があり、人材もいる。まずは地域に頼ってみるのところから始めるのも立派な地域への参加方法であり、落ち着いたら、逆に地域に恩返しをすれば良い。

自分の仕事に関係するイベントやワークショップ、自治体やPTA、NPO活動に参加して地域社会の現場や課題と向き合う機会を得れば、仕事で役立つ可能性が大いにある。

兼業・副業が当たり前になり、ある組織に勤務しながら、他の仕事や地域活動、家庭のことをする「半勤半X」が増える。

ダイバーシティ「職住近接」                     仕事⇔家庭⇔地域社会 の融合                    コミュニティビジネス⇔職住近接⇔コミュニティ
行政課題の複雑化・専門化 

例えば「発達障害」。

一定の制度整備もされているが、その後も医学的な見地の集積、障害に対する様々な考え方や対処方法の変化などが生じており、まさに発展途上で、全容解明されていない課題。

知見の集積が進めば進むほど、課題解決のためには高度で専門的な人材が必要。

「大人の発達障害」「アスペルガー症候群」「学習障害」など、障害特性が異なるうえ、年齢や性別、置かれている家庭や社会状況などによって必要な対応が異なる点も問題を難しくしている。

第1章 感想
「自治体3.0」には、仮想・生駒市職員としても、仮想・生駒市民としても、躍動感を覚えました。市民と行政が「自治体3.0」を共有できたら、街に愛や誇りを持って、ずっと住みたいという意識を醸成できそうです。まちの課題解決を行政に任せるばかりでなく、協働・共創する市民でありたいと思いました。ベッドタウンからダイバーシティへと、都市が改変していく過程は地理の研究としても興味があります。市民活動に発達障害など新たな課題については、発達障害を持つ人が快適に生活できるコミュニティの構築を目指す自治体があってもよいのではないかと思いました。発達障害を持つ方が頑張らないで生きられる街を実現できないか考えてみたいです。
生駒市の「自治体3.0」の取組

第2章では「自治体3.0」に向けての生駒市の取組が9事例紹介されている。

高齢者をネガティブワードにしない!生駒市の介護予防の取組      商店街の店主の想いが街を変える!「生駒駅前100円商店街」      主婦の癒しの場が女性のスキルを街につなぐ場へ!「いこママまるしぇ」 プラレールをみんなでつなぐと街のいろいろな課題が解決した!     赤ちゃん連れでコンサートを楽しめる街!「市民みんなで創る音楽祭」  男だって負けてない!地元での飲み会から広がるまちづくり「いこま男祭」退職者が知見を活かして活躍できる街を創る「市民エネルギー生駒」   生駒の女性たちが一から作り上げた交流型プログラム「いこまとりっぷ」 ワークショップから生まれた夜の図書館イベント「本棚のWA」

第2章 感想
仮想・生駒市民として参加するなら、「プラレール」と「いこま男祭」に行ってみたい。例えば、プラレールなら、「いこま育児ネット」の取組で、子育て支援、環境保全、街のにぎわい、父親の育児参加、多様な世代の集い、市民活動の参加、とそれだけでもたくさんの出会いの「場」があるそうだ。いこま男祭は、地元に飲み友達のいない大阪で働く会社員が集まった場だそうだ。さらに「いこま〇〇勉強会」という専門的知見を学ぶ会社員の勉強会もある。緩いつながりから始まった飲み会が、まちづくりを考える場・機会へと進化しているそうだ。9つの取組それぞれどんな効果が生まれたか、検証されておりたくさんの発見がある。市民プロデュースの音楽祭の「単に与えられる街」よりも「自分がやりたいことを実現できる街」の方が、市民は定住してくれるのです。という一文が最も心に残った。この章は是非読者も読んでみて、生駒市の取組に共感して欲しい。


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