見出し画像

ネット配信サービスに力を入れる米主要メディアグループ

 米国では、Disney-ABCのDisney+等、Comcast-NBC UniversalのPeacock、ViacomCBSのParamount+、WarnerMediaのHBO Maxなど主要メディアグループがネット配信サービスに本腰を入れて取り組んでいる。8月12日に発表されたDisneyの4-6月期(年度は10-9月)の業績を見ると、米メディア界の潮流が見て取れる。

Disneyの4-6月期業績

 全体の売上が170億2200万ドル(前年同期比+45%)で、営業利益23億8200万ドル(前年同期比+120%)、映画、テレビ、ケーブルチャンネル、ネット配信等からなるメディア部門Disney Media and Entertainment Distributionとテーマパークを中心にしたDisney Parks Experience and Productsの2セグメントに分けられている。
メディア部門 売上   126.81億ドル(前年同期比+18%)
       営業利益 20.26億ドル(前年同期比-32%)
パーク・物販等 売上      43.41億ドル(前年同期比+307%)
                          営業利益  3.56億ドル(前年同期は-19億ドル)
 コロナ禍前の2年前の数字と比較したいところだが、おそらく本稿にもかかわる理由でセグメント分けが変わっているので、ここではとりあえずテーマパークが昨年のコロナ禍による厳しい状況から回復しつつあることを確認しておこう。(2年前同期のパーク等売上は65.75億ドル、営業利益17.19億ドル。) 

ネット配信サービス売上が3分の1に
   

 ここからが本題、メディア部門の内訳を見る。 
リニアチャンネル  売上       69.56億ドル(前年同期比+16%)
      営業利益   21.87億ドル(前年同期比-33%)
ネット配信 売上    42.56億ドル(前年同期比+57%)
      営業利益   -2.93億ドル(前年同期-6.24億ドル)
コンテンツ 売上      16.81億ドル(前年同期比-23%)
      営業利益  1.32億ドル(前年同期比-58%)

  リニアチャンネルLinea Networksは地上波ネットワークABCとその直営局、Disney、ESPNやFoxから移ってきたFXなどのケーブルチャンネル、さらには国外のチャンネルが含まれている。コンテンツContent Sales/Licensing にはDVDの販売や映画興行の収入が含まれる。

 さてネット配信、原文ではDirect-to-Consumerとなっている。すなわち、放送局、ケーブル事業者、映画館など中間に入るものがなく、直接消費者にコンテンツを届けてナンボというニュアンス。Disneyものを中心とするDisney+、スポーツのESPN+、総合チャンネル的なHulu(ケーブルテレビ同様の多チャンネルサービスHulu Live TVも提供。日本のHuluは日本テレビ傘下。)からなる。ネット配信サービスは売上が前年同期比 57%増で金額も43億ドルと全体の3分の1となり、リニアチャンネルの70億ドルに迫りつつある。(参考までにNetflixの4-6月期(年度は1-12月)の売上73.42億ドル(前年同期比+19.4%)、営業利益18.48億ドル。)Huluが初めて単期で黒字になったことも明らかにしている。加入者と広告収入の増加が要因 という。特にHulu Live TVの個別広告(Addressable)、広告差換(Dynamic Ad Insertion)といった技術の活用が効いているとコメントされている。Disney+も大きく加入者が増えているが、南アジア向けの料金の安いDisney+Hotstarの加入者が多く、番組・製作費や配信コスト増が上回ったとしている。
加入者数 Disney+ 1.16億(前年同期比+102%)
                  ESPN+        1490万(前年同期比+75%)
     Hulu+    4280万(前年同期比+21%)
       うちHulu Live TV 370万(前年同期比+9%)
(参考:Netflix4-6月期末加入者数2億918万(前年同期比+8.4%))

主要メディアグループの動向

   あくまでも4-6月期単期の数字で、業績や加入者数の推移はコロナ禍の影響をどう見るかというところもあるが、各グループともネット配信に力を入れ加入者増を図っている。例えばDisneyはアイスホッケーNHLの2021-2022のレギュラーシーズン、地上波ABCとケーブルチャンネルESPNで合わせて28試合放送するのに対し、ネット配信のESPN+とHuluで合わせて75試合を投入、またParamount+の「スタートレック」続編などネット先行で配信するオリジナル作品も多い。劇場が閉じているという事情はあったが、Disney+のMulan、HBOMaxのWonder Woman 1984など新作映画もネット(又は劇場と同時)で封切られた。Peacockは東京オリンピックの男子バスケットボール、体操、陸上など人気競技のライブ配信を行った。

広告収入に期待高まる

 ネットの特性を生かしたターゲット広告でより多くの収入が見込めるとして、広告付き無料又は低額のサービスも増えている。Hulu は広告付6.99ドル(料金月額。以下同じ。)、広告なし12.99ドル(10月8日からの料金。いずれも1ドル値上げ。)、Paramount+は広告付5.99ドル、広告なし9.99ドルとそれぞれ2種類のサービス、Peacockは広告なし9.99ドル、限定広告付4.99ドルに加え広告付無料の3種類のサービスを提供している。有料のネット配信サービスが増えたことの負担感から広告付サービスの方が利用者が多く、WarnerMediaとの合併に合意しているDiscoveryのネット配信サービスDiscovery+は、広告付4.99ドルの方が、広告なし6.99ドルよりも売上が大きいと明らかにしている。さらにFoxのTubi、ViacomCBSのPlutoTV、Comcast-NBC UniversalのXumoなど無料広告付多チャンネル配信サービス(FAST: Free  Ad Supported TV:AbemaTVのイメージ)   も広告収入が2021年の21億ドルから2023年には41億ドルに倍増するなど成長が見込まれている。 (参考:2020年の米テレビ広告収入600億ドル、ネット配信広告収入134億ドル)

 米主要メディアグループはなぜネット配信に力を入れるようになったのか。ここでは、米国で地上波も含めテレビの基本的な見方だったケーブルテレビ、衛星放送等有料テレビの加入者が2012年には88%を超えていたのが2020年には58.8%まで減少、一方いずれかのネット配信サービス加入者は78%に達しており、ウォールストリートでもネット配信に前向きであることをプラスに評価する、という事実関係の説明で止めておきたい。今後なぜ日本でネット配信サービスが出遅れたのか、ということと照らし合わせて考えてみたいと思っている。米国ではいろいろな経緯を経て、今では巨大コンテンツ企業が放送(地上波ネットワーク、ケーブルチャンネル)を持っているのに対し、日本では無線局免許を持った放送局がコンテンツの主要な作り手であるという構造の違いが一つの要因とうすうす思っているがどうだろうか。また視聴率、広告収入の仕組も関係があるのだろう。いずれにせよ、グローバルな競争が激しくなっていく中で、日本のネット配信サービス、メディア企業はどう展開していくのか注目していきたい。


参考:
https://thewaltdisneycompany.com/app/uploads/2021/08/q3-fy21-earnings.pdf
https://www.nexttv.com/news/hulu-exceeds-expectationsturns-to-profit-in-quarter
https://nscreenmedia.com/q2-us-tv-market-in-one-page/
ほか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?