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資金繰り対策の4ステップ

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う影響は日を増すごとに大きくなっており、企業経営や資金繰りに不安を抱える方が多くいらっしゃると思います。
私は2020年1月にマネーフォワードシンカにジョインしましたが、以前は事業再生コンサルタントとして、企業経営や資金繰りに不安を抱える多くの企業の支援を行ってきました。
事業再生コンサルタント時代に直面した場面と、今回のような外的環境による資金繰り不安では、状況は異なりますが、資金繰り対策としてやるべきことでは共通することも多いと思います。
そこで今回は「資金繰り対策の4ステップ」について書きたいと思います。少しでもご参考になりましたら幸いです。


1.PL予測を見直しする

新型コロナウイルスの感染拡大によって、業績への影響を大きく受けている企業も多いと思います。
そのような場合、まずはPL予測の見直しを行うべきと思います。
ただ新型コロナウイルスの影響については予測も難しく、今後の見通しについても考え方は人それぞれあるかもしれません。
そこで事業計画の作成にあたって大変参考になる言葉として、京セラ創業者の稲盛和夫さんの名言があります。

「楽観的に構想を練り、悲観的に計画し、楽観的に実行する」

こんな時だからこそ「ピンチはチャンス」として、前向きな構想を描くことは大切だと思います。
一方で、計画段階では悲観的にリスクを徹底的に洗い出すことが重要です。
資金繰りは環境悪化であったり、資金調達が不調に終わったり、急な支出が生じたりと、急激に悪化することもあります。
そのような場合に備え、複数のシナリオ(楽観・成り行き・悲観)を作成し、シナリオ別にリスクを織り込み、見通しを立てることも有効です。

経費については、削減策を既に検討・着手されている企業もあると思いますが、以下についても検討してみてください。

①総勘定元帳を活用した削減対象の洗い出し
例えば、過去数か月分の費用項目の総勘定元帳を一つ一つ見たりすると、意外に削減出来そうなものが見つかり、それらを積み上げていくと相応の金額になったりします。
②経費削減策の実行前提に見落としがないかの確認
例えば、契約期間満了前に解約を検討している契約に中途解約違約金や、事前解約予告期間など条件面で注意すべき点がないかなど。

2.1年先までのキャッシュ残を月次で把握する

PL予測に連動させて、最低でも1年先までの資金繰り予測を月次で把握すると良いです。その際の留意点は以下です。

①資金繰り予測は悲観ケースで見る
ここでPLをシナリオ別に作成することの意義があります。
不測の事態に備えては早めに動くことが何よりも重要なので、資金繰りは悲観ケースをしっかり見ておくと良いです。

②PLと連動しない支払いの反映漏れがないか
PLは発生主義で計上されるため、必ずしも資金の動きと連動しないことがありますので、注意が必要です。例えば以下のものです。
・消費税などの税金納付
・仕入の前渡金
・年間契約の費用の一括払い(前払費用)
・既に契約済みで、将来支出が予定されているもの(資産購入・保証金の支払い等)

③月次残高が必要安全手元資金を維持しているか
季節性等の影響で一時的に資金残高に余裕が少なくなる月がある場合は、月中の入出金トレンドを確認すると良いと思います。
例えばバーンレート10百万円でも、15日・20日・25日に給与や経費の支払いが15百万円先行し、月末に5百万円回収する場合、前月末の必要安全手元資金は10百万円でなく15百万円となりますので注意が必要です。

④財務3表の作成について
創業段階やアセットライトなビジネスでBSの重要性が低い場合は別として、運転資本(売掛金・在庫)や固定資産が相応に発生するビジネスの場合は、財務3表をしっかり作成することを推奨します。
財務3表を作ることの意義は、上記のように整合性の担保や認識漏れの確認をできることにあると思います。

3.資金調達は複数の選択肢を持ち、早めに動く

今後1年内の資金残高に余裕が少ない場合は、資金調達や支援策の活用に早めに動いた方が良いと思います。
経済産業省では、事業者向けに1.6兆円規模の支援策を発表しましたので、積極的に活用を検討してみてください。

経済産業省:
新型コロナウイルス感染症で資金繰りにご不安を感じている事業者の皆様へ

新型コロナウイルス感染症で 影響を受ける事業者の皆様へ(支援策パンフレット)

マネーフォワードでは各府省及び地方公共団体等が実施している補助金・助成金等の検索情報サイト「新型コロナウイルス 支援情報まとめ」を開設しましたので、ぜひご活用頂ければと思います。

また、融資ニーズも高まっていると思いますが、現在の支援策で融資に関する代表的なものは以下3つと思います。

・新型コロナウイルス感染症特別貸付(日本政策金融公庫)
・危機対応融資(商工組合中央金庫)
・セーフティネット保証4号(信用保証協会)

日々のニュースで既に多くの事業者が申請されていると伝えられており、ますますの窓口の混雑も予想されます。余裕がある段階でも早めに動くと良いのではないでしょうか。
また、融資である以上は今後の返済可能性を確認されますので、そこでリスクを織り込んだPL・資金繰り予測をコミュニケーションツールとして積極的に活用することをおすすめします。
数字で議論することがスピーディーに手続を進めてもらうために肝要です。

その他にも、一時資金が必要な場合は、売掛金のファクタリングなども利用可能な企業はぜひ検討してみてください。

4.資金調達が不調に終わった場合に備え、バックアッププランを立てておく

資金調達は他人との交渉である以上、金額・時期含め自社でコントロールしきれません。
資金調達が不調に終わった場合にも、自社の意思決定で実行できることとして、バックアッププランを準備し、発動条件も決めて備えておけると良いかと思います。


5.さいごに

事業再生の現場では、まず資金繰り対策をすることが多いですが、その際に経営者の方に「資金繰りで頭がいっぱいであったが、気持ちが楽になった」と言って頂けることが多かったです。
資金繰りが厳しくなると、経営者もかなりマインドシェアが奪われてしまうということだと思います。
先行き不透明な状況ですが、何よりも生き延びることが重要なため、足元の数字を丁寧に追いかけ、PL・資金繰り予測も適時に更新し、対策もいくつか選択肢を確保しておくことが大切だと思います。

※投稿内容は私個人の意見であり、所属企業・部門の見解を代表するものではありません。