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日本が誇るゲーム音楽 第一回「 Castlevania」


日本が世界に誇る文化、ゲーム音楽。2020東京オリンピックでは各国の入場曲にゲーム音楽が使われて話題になりました。この記事では僕がすばらしいと思うゲーム音楽と、その魅力について解説していきます。

Castlevania(邦題:悪魔城ドラキュラ)

日本のゲーム音楽を語る時、外せない作品の一つが「Castlevania」です。30作以上が発売されている長寿シリーズで、その第一作は1986年、ファミリーコンピュータ用ソフトとして発売されました。B級ホラー映画のような、おどろおどろしい世界観のアクションゲームです。日本発の作品ですが、海外での評価が高く、海外タイトルの「Castlevania(多分、CastleとTransylvaniaを合わせた造語)の方が通りがよいです。2017年にはNetflixで映像化され、今なお影響力を持っています。

このシリーズは音楽の評価が高いことで有名です。音楽性としては、バロック音楽とロック・メタルのミックスを、ファミコン音源で表現したような感じです。クラシックとロックの融合というコンセプトは、1974年にキング・クリムゾンが「Red」を発表し、1984年にイングヴェイ・マルムスティーンが「ライジング・フォース」を結成していて、当時としては新しい風を感じさせる音楽性だったのかなと想像します。私見ですが、ゲーム音楽作曲家は皆、Castlevaniaの音楽が大好き!2018年、「大乱闘スマッシュブラザーズSP」にCastlevaniaシリーズのたくさんの楽曲がアレンジされて収録されることになった際、多くの作曲家がこぞって手をあげ、曲の取り合いになったそうです。

僕にとって「Castlevania」の音楽が魅力的なポイント

(1)新しいゲームジャンルを表現したサウンドデザイン

少し話がそれますが、僕は2015年、iOS用ゲーム「99ドラゴンズ」の音楽を手がけました。これは「スマホ向けRPG」「ポチポチゲー」と呼ばれるような「隙間時間に、手軽にRPGの雰囲気を味わえる」ジャンルの作品でした。

当時このジャンルは発展途上で、音演出について「定番」といえる方針が存在していませんでした。(注:僕はそう思いました。同種の作品をいくつかプレイしたら全部音楽性が違うから……)ソファに座ってじっくり楽しむものではなく、パズルゲームのように瞬間的に頭を働かせるものでもない。既存のゲームジャンルをスマホで遊びやすいようにアレンジしたものということで、目を引く新しさは無いものの、地味に新しいゲームジャンルだったんだと僕は思います。

そして、その新しいプレイ感覚、時間あたりの刺激の量、ユーザーに集中させる時間配分などに対応したゲーム音楽の演出手法が、この時はなかったのだと考えています。アクション要素があるからゆったりしたものは合わず、かといってロック調にすると忙しすぎる上に多様性が損なわれ、ほどほどのビート感とバラエティ感を両立させるのに苦労しました。

このことを思い返すにつけ「Castlevaniaを参考にすればよかったな」と思うのですが、それは以下のようなすばらしい音演出があるためです。

この映像は、1995年に発売された「Castlevania: Symphony of the Night(邦題:悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲)」です。上に引用した第一作目と比べると、ハード性能が進化し、様々な楽器の音が取り入れられています。

引用箇所では、バロック風のハープシコードが、西洋の古城のイメージと、アクションゲームの忙しいプレイ感覚に非常によくマッチしています。それまでアクションゲームの音楽というと、ロック、メタル、フュージョンなどのジャンル音楽や、ビートのある音楽が主流でした。そこにクラシカルな音楽を、中途半端にロックの要素を足したりせずにマッチさせた音演出は、僕にとって目が眩むような新しさでした。

この作品では、ゲーム内容が反射神経を問うシンプルなアクションゲームから、広大な古城を探索する新しいジャンルに変化を遂げています。その時、作曲家の山根ミチルは僕と同じ課題……新しいゲームジャンルに対応する新しい音楽演出を生み出す必要に迫られたのでは?と考えています。(*注)
比較するのもおこがましいですが、僕のケースと同様、音楽のバリエーションを出しつつ、忙しすぎず、それでいてアクション感を出す必要があったことでしょう。山根ミチルはその期待に見事に応え、その後のシリーズに引き継がれるCastlevaniaの音楽スタイルを確立したと思います。

この進化は、ゲームとして演出面に力を入れて成長を続けてきたCastlevaniaの歴史と、そのための音楽を追求し続けてきた音楽家たちの努力によって成されたものだと信じます。

  (*注)ファンの方には「ドラキュラII 呪いの封印」があるだろうと突っ込まれそうですが、ディスクシステムの時代とは音楽の幅が全く違う状況で、時代とゲームジャンル両方の進化に合わせた音楽を作った点が、僕にとって魅力なのです。

(2)音楽をカバーするミュージシャンに恵まれている

そしてこれらの音楽を、熱心に演奏する演奏者がたくさんいます。以下は、上で引用した場面のBGM「木彫パルティータ」をチェンバロ多重録音で表現した演奏。

クラシック音楽の要素を多分に持っているため、クラシックの演奏者にとってやり易いいんじゃ無いかと思います。これは僕のお気に入り「レオンのテーマ」ピアノソロ。

重要なのは、Castlevaniaのファンは全員その音楽に関心があるので(間違いない)、ゲームファンの数だけ音楽ファンがいる環境です。Castlevaniaの楽曲を演奏するとゲームファンに注目されやすく、楽曲としても演奏もしやすいという特性から、多くのカバー演奏が産まれているのだと思われます。こちらはメタルバンドとヴァイオリンソロによる「Bloody Tears」。演奏者がノリノリです。

これからのゲーム音楽の課題点

今後、僕らもゲーム音楽を通じて音楽の面白さを伝えていくことがあると思うのですが、その際ゲームファンの音楽への愛着を理解することと(プレイヤーは皆、10時間~100時間くらい同じ音楽を聴き続けるので!)、楽曲の演奏のしやすさ・しにくさに着目していく必要があると思っています。

そこで、ゲーム音楽コンサートなど構想する時、注意したい点があります。それは、昨今はゲームの映像表現が極めて高い水準に進化しており、それにともなって音楽演出の方法論が変化してきている事実です。平たくいうと、Castlevaniaのようなメロディアスな音楽は減少傾向にあり、そもそもゲームプレイ中に同じ楽曲を繰り返し耳にする状況自体が減っています。

近年のゲームの例として、2019年に発売された「DEATH STRANDING」を挙げてみます。(*Castlevaniaシリーズではありません)このゲームは荒廃した未来世界で宅配便をするというコンセプトで、プレイヤーはまるでUberの配達員のように、荷物の効率的な配送ルートを考え、険しい山や川を越えていく体験をします。ハリウッド俳優が多数起用され、映画の世界に入り込むようなゲームプレイは、マリオや Castlevanaと同じ種類の娯楽として語るのが難しいほどに進化しています。

引用箇所を見ていただくと、音楽はなく、自然音とトランシーバーなどの機器が発する効果音によって成り立っていることがわかります。ほとんど映画のようなビジュアルに、ループするメロディアスな音楽をつけづらい状況を想像いただけるでしょうか?

もちろんこの作品にも素晴らしい音楽はありますが、ハリウッド映画の劇伴のような、個々の曲が印象に残りづらい楽曲であったり、主人公が移動中に音楽プレイヤーで聴いているような体裁で歌モノを流したりと、Castlevaniaの演出とはかなり異なる形になっています。

令和のゲーム音楽では、Castlevaniaのようなメロディアスな器楽曲は必ずしも主流ではありません。音楽の扱われ方は大きく変わっていて、必然、プレイヤーのゲーム音楽に対する見方も変わってきています。プレイヤーの印象に残りにくく、演奏しづらいゲーム音楽が増えていきている状況と考えるならば、ゲーム音楽を通じて何ができるか?について、議論を深めていきたいです。


知らんことだらけで勉強になった。

僕はゲームを全くやらないので知らないものばかりです。とは言え、ゲームの劇伴をこうやって聴いてみると、面白いですね。そして、よく知ってますね。

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