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スイス•フランス3泊5日?! 前編

5/16 23:45(KIX)→5/17 13:20(ZRH)
バンジージャンプとかジェットコースターと同じ感覚。
怖くて不安で逃げ出したくなるのに、終わった後にその刺激の虜になってしまう。一人で海外に行くというのは、私にとってそんな感覚なのです。

関空を発つ夜中23時45分。私の不安はそこをピークに、あとは後戻りできないスカイダイビングのように、再びこの地に降り立つまで楽しむ以外にありません。

「私にはできない」みんなが口を揃えてそう言うことを、もし自分ならできる時。あなたはそこへ飛び込みますか?それとも…。

スイス•チューリッヒ空港

2023年4月21日。フランスとのオンライン打ち合わせ。
お相手は「Japan is style」というアヌシーにある日本製品を扱うショップのお二人。こちらは私とマスターの二人。4人で話し合ったのは5月18日から22日まで行われるイベントに出展しませんかというお誘いについて。
私とマスターの中での答えは、ほぼ決まっていました。


コロナになる以前、2016年にシンガポールのイベントに出展したのを皮切りに私たちが立ち上げたブランド「DESIGN SETTA SANGO」は海外の様々なイベントから出展のお誘いを頂いては可能な限り「YES」の答えを用意してきました。

2016年台湾に日帰りで行ったこともありました。2017,2018年イタリアのミラノサローネ、2019年アメリカのニューヨーク。
輝かしい海外進出の一方で、そのニューヨークが「最高地点」になってしまうのではないかというジレンマのような思いも抱えてきました。

ミラノサローネという世界最高峰のデザインウィークを体験し(しかも2018年は娘2人も連れて家族4人で現地のアパートを1週間借りて滞在)、ニューヨークではキングコングの西野さんとお話させてもらいその場で雪駄を買ってくださり、写真も一緒に撮ったりして。

その素晴らしい思い出を自分たちの成功体験として、一生の宝物のように大事大事に抱え込んであとはその成功にしがみ付く人生になりはしないかという、ある種の怖さ。

2020年以降も海外進出は続いていました。アメリカのサンディエゴの桜まつりに商品を出展、フランス・スイス・イギリスでの販売開始。しかしそのどれも、商品を海外へ送るだけで、私たちが実際に現地に赴くチャンスはありませんでした。

商品のみの海外進出。
企業としては決して珍しくはありませんが、どうにも「私たちらしくない」。

ちゃんとお客様の顔を見て声を聞きたい。
海外で私たちの商品を販売しているショップのスタッフと、オフラインのコミュニケーションが取りたい。

毎日カフェやパン屋の店頭に立って、一杯のコーヒーを淹れ、レジ打ちする私たち夫婦の譲れないこだわり。
代表取締役が食器洗いし、パンの袋詰めをする毎日を送っている企業は少ないはずです。だってそんなの、会社の発展のためになりそうも無いからです。社長ならもっと、大きな利益をもたらす社長にしか出来ない仕事をするべきです。
でも、現場で体を動かすのが私たち夫婦のやり方なのです。
「私にはできない」をやるのが私たちです。


4月21日の打ち合わせでフランスでのイベント出展と実際にフランスまで私が訪問することを決めましたが、イベントは5月18日から。
この時点で既に時間が差し迫っていました。

スイスの店舗も打ち合わせで訪問するスケジュールを組み、なるべく安い航空券を手配。スイスからフランスへ移動するバスの予約。宿泊の手配もしなければ。
慎重に熟考したい一方で、航空券は日ごとに値が上がっていくし、ホテルはさっきまで空室のあった宿が次に見た瞬間には満室になっているという状況でした。
言語もわからない、土地勘も無い場所で私がたった一人で移動できる距離と時間を確保しつつ、膨大な旅費を回収できるだけの成果を上げられる仕事を組み込まなければいけません。
その結果が「3泊5日」という弾丸プランでした。遊びのための延泊は今のわが社には許されません。そして何より、娘たちと長く離れて遊びたいという思いは私の中にはありません。

いつも通りに営業をこなしてからの、夜中の関空。

出発の日。朝からいつも通りに出勤し、夕方18時に帰宅。
お風呂に入って身支度を整えて、夜20時に関西国際空港へ。
13時間のフライトを経てドバイに。
ドバイ空港で3時間乗り継ぎ時間の後に6時間かけてスイスのチューリッヒに到着。
さっきまでレジしたりラテ淹れていたはずが、もうスイス。

空港からチューリッヒの市内に出る電車に乗ったところで、素敵な奇跡が私に起こります。

スイスのトラム(路面電車)

電車の中で話しかけて下さったスイス人のマダム(推定65歳)が、私の行きたい駅までご一緒して下さることになったのです。
よほど私が頼りない旅人に見えたようで(実際その通りなのです)、「今日は、あなたの降りたい駅のレストランでランチすることに決めたわ!だから一緒に行ってあげる。素敵なレストランを知ってるのよ。」と言って下さったのです。
目的の駅までは2回の乗り換えが必要で、今思ってもあのマダムがいらっしゃらなければ、私は打ち合わせの現場にいつまでたっても到着できなかったと思います。

マダムは私が目的の打ち合わせ場所を見つけると、颯爽と笑顔で手を振り去って行かれました。お礼がきちんと伝わったかどうか、私は死ぬ間際まで彼女の優しさを忘れないでしょう。家族の話を沢山聞かせてくれた親切で明るくて、スマートなスイス人のマダム。

スイス•チューリッヒのNISHI JAPAN

さて、マダムのお陰で到着したのがスイス・チューリッヒの「Nishi Japan」さん。
代表の西浜さんと担当の斎藤さんと打ち合わせ。
実際に販売して頂いている店舗の見学と撮影。

その後に近くのカフェに移動し、マスターとLINEのビデオ通話で繋いで4人で今後の展開について打ち合わせしました。
マスターは自宅からのオンライン参加だったので、片付いていない我が家をスイスのオシャレなカフェで目の当たりにするという、やや恥ずかしい展開でしたが、内容はとても充実したものでした。
やっぱり対面で進める打ち合わせのスムーズなこと。
交わす握手の温かさ。
美味しいカプチーノ。

打ち合わせで入ったカフェ

無事にスイスでのミッションをクリアし、ホテルにチェックインしたのが夜18時ころ。空が暗くなるまであと3時間ほど。翌日は4時起きなので無茶はできませんが、まだ外に出られる時間。
川沿いの美しい街並みの大きなスーパーまでトラム(路面電車)で向かうと、わずかながらお散歩タイム。
(この時、短い時間でしたがInstagramでライブ配信をしました。日本時間では夜中にも関わらず、観てくれた方ありがとうございました。)

スーパーで半額シールの貼られたお総菜やパン、少しのお菓子も購入。物価の高さに驚かされましたが、これで晩ご飯にありつけます。
ホテルの部屋でそそくさと食べ、就寝。
約47時間ぶりにベッドに横たわって就く眠りの心地よさったら。

チューリッヒからアヌシーへ移動バス

翌朝は4時に起き、5時にチェックアウト。5時半にバス停へ。
なんとそこでバスの遅延が発生し、気温8度の中で1時間近くバスの到着を待つこととなりました。
いつ来るか分からないバスを震えながら待つ異国人の心細さよ。本当にこのバス停であっていたのか、予約はできていたのか、オロオロ、うろうろ。
バスが現れた時は嬉しくて、怒りや不満の感情を忘れていました。

バスの移動は5時間。スイスを離れて、フランスのアヌシーに向かいます。その時に自分が16時間しかスイスに滞在していなかったことに気づきます。日本人は忙しないと申しますが、その極端な例が自分自身でした。

バスはいくつかの停留所を経由してアヌシーに向かいます。
途中、ある停留所で停まった時のこと。突然、5人ほどの身なりがきちんとした男性が乗り込んできました。そして乗客全員のパスポートをチェックしては「どこから来たのか、どこへ行くのか、誰かと一緒か、誰かに合うのか、滞在何日目か、あと何日滞在するのか、目的は、その後はどこかへ向かうのか」などなど、かなり踏み込んだ質問を投げかけていくのです。私は、それが何のためのチェックなのか、彼らがどこの公的な人間なのかも分からず、とにかく自分の順番が回ってきたらちゃんと答えられるのかドキドキしながら待っていました。
私の順番が回ってきました。パスポートを見せます。
男性は軽く会釈して私にパスポートを返し、そのまま次の乗客へ移っていきました。
どうした事か、質問はひとつもされず、私の緊張は肩透かしを食らったのです。
ちなみに私の後ろに座っていた黒人の男性は、何がダメだったのかわかりませんが強制的にその停留所で降ろされていました。怖い。
日本人のパスポートには、守り神がついているなと実感しました。


森と山とハイジが住んでいそうな三角屋根の建物をいくつも見過ごして、ようやくバスは私をアヌシーに連れてきてくれました。
目的地に着いたというだけで得られる嬉しさは、日本では味わえないものです。

アヌシーで最初に私を迎え入れてくれたのは、アヌシー在住の日本人ダンサー・ナオさん。
共通の友人を介して、旅行前からコンタクトを取っていました。現地で日本人の方と行動を共にできるのは心強い事この上ないです。
クシャっとした笑顔と屈託ない話し方で、ナオさんの人柄が出会って5秒で伝わりました。この人、好き。
天気が良いのを「アヌシーがジュンさんを歓迎してるんですよ!」と言ってくれる素敵な女性。
娘のヒカルちゃんと一緒に3人で、私が予約したアパートまで向かいます。

Airbnbという民泊システムを使って取った宿。Airbnbあるあるなのですが、チェックインが難しい!
宝探しみたいに隠されたカギを探し出し、暗号みたいな暗証番号を入力し、手順に沿ってクリアすると、自分の部屋のカギが手に入ります。これもナオさん無しではきっと見つけられていなかったと思います。本当に色んな方に助けられてばかり。
エレベーターのない4階の部屋に無事入ることが出来た私はようやく、大きなスーツケースから解放されました。

ナオさんとヒカルちゃんとラクレット

ナオさんが予約してくれたお店でランチタイム。
この地域の名物である「ラクレット」を食べました。大きなチーズを熱でトロリと溶かし削りながら、ジャガイモや生ハムにかけて頂きます。
めちゃくちゃ美味しくて、いくらでも食べられるかと思いきや、そのボリュームと重たさにやられました。お腹がはちきれる1歩手前でした。

祝日だったので、お店は満席。本来ラクレットは冬の食べ物なのですが、アヌシーは有数の観光地のため、年中ラクレットやフォンデュが食べられるお店が多いそうです。

スイスではスーパーのお総菜で済ませた私が、こうしてちゃんと飲食店に入りキチンと食事をとれたのは、65時間ぶりだということに、今この文章を書いていて気づきました。
ナオさんのフレンドリーな人柄の温かさも相まって、心からホッとできた食事でした。

ランチが済むとナオさんと共に「Japan is style」さんへ。なんと「Japan is style」担当ヨウコさんとナオさんはお知り合いだったのです。
私の幸運は相当なものです。

アヌシーのJapan is style ヨウコさんと

店舗内を見学・撮影させて頂いた後は、「Japan is style」さんのスタッフであり女優業もされているLilaさんにモデルをお願いして、アヌシーの美しい景色と雪駄スタイルの撮影を行いました。

行ったことのない場所で知らない人の写真を商品宣材写真として撮るというのは、なかなか難しいことです。
通常であれば撮影場所のロケハンをし、モデルさんの雰囲気や服装を知った上で撮影に挑みます。
ぶっつけ本番のフランス。時間は2時間ほど。
「頑張ったけど、いいの撮れなかったねー」では済まされません。コストが掛かってますから。

誤算だったのが、アヌシーの街並みが美しいがゆえに、沢山の観光客がどこに行っても溢れていること。私だってその中の一人なのだけれど、それにしても人が多い。私の知っている人通りの多さで例えると、渋谷・原宿と同じでした。

有名な観光スポットは早々に諦めて、人通りの少ない古びた小道や脇道に流れる小川沿いで撮影することにしました。これが正解でした。

観光客が途絶える隙を狙ってシャッターを押す

Lilaさんの撮影が終わると、ナオさんがモデルして下さることに。これは想定外の事でしたが、さすがダンサー。体全部を使って表現してくれる雪駄の魅力と街の美しさ。撮ってる私がしびれちゃうような雰囲気を作り出してくれました。

絶対にナオさんの関節は私の関節と別物だ

撮影を終えて程よい疲れ。
ナオさんとパティスリーでケーキを買って、カフェでお茶して、娘へのお土産を買って。

何度でも「ありがとうございました」を繰り返してお別れしました。
ちなみにナオさんは、私が翌日乗るべき電車のチケットもその場で購入を手伝って下さいました。感謝っ。


宿に帰る道すがら、少しだけ散歩。
スーパー寄ってお水を買って、パン屋さんでパン買って。道に迷ったりしながらまだ明るいうちに帰りました。
(ここでInstagramライブ配信しました。個人アカウントに載せてる旅のあれこれ話をしたやつです。このタイミングでした。)

その晩はどこかで夕食でもと思っていましたが、ランチで食べたラクレットのエネルギーがすごかったようで、眠るまで全くお腹すきませんでした。
ただ寒かった。
暖房が効かず、ホスト(部屋を貸してくれている宿主)に問い合わせたものの解決せず、ナオさんを頼ろうかとか、うちのお店のフランス人スタッフのシリちゃんに聞こうかとも思いましたが、疲れが溜まって億劫になり、毛布を重ねて重ねて就寝しました。

朝のアヌシー湖

翌朝は7時起き。アヌシー湖周辺を歩きます。
昨日の昼間は観光客でごった返していた場所も静かな美しい自然を味わうことが出来ました。
犬の散歩をしている人、ジョギングをしている人、そして私。
30分ほどベンチに腰掛けて湖を眺める時間は、もう二度と私の人生には訪れないかもしれないなと感じるその反面、30分アヌシー湖を眺める時間が持てた人生に感謝じゃん、と思ったのです。

さらに歩いて旧市街地へ。幸運は続きます。
祝日の朝に開かれるという朝市が始まったばかりでした。私は朝市のことなど知らずに、ふらふらと市街地に足を踏み入れたのですが、この朝市が本当に楽しかった!

アヌシー旧市街の朝市

果物を買う人、サラミの味見をする人、大きなカゴにフランスパンを5本も買って帰る人。
生活の匂いと、日々の営みに交じる私という異邦人。
真似してパンとカプチーノを買う。マカロンを食べ歩きして、手作りのアクセサリーを物色する。「ボンジュール」と笑顔で話しかければ、サラミの味見を勧められ、尻込みして断ってしまった事を今でも後悔しています。
(この朝市を歩きながらインスタライブした様子は多くの方にご覧いただいたようで、「フランスに行った気分になった」と言ってもらえて何よりでした。)

匂いや温度もお伝えできたらいいのに

おもちゃの屋台をだしていたおっちゃんに話しかけると「俺、日本のギターもってるよ」とYAMAHAのギターを持ち出して、目の前でビートルズの「Let it be」は弾き語りしてくれたのは嬉しかったです。

この旅で唯一ともいえる自由時間4時間を楽しんだ私は、この旅の一番の目的ともいえる「Matsuri Expo」というイベントへ出発します。
アヌシーから1時間ほどのエクスレバンとう街で開催されている日本文化を紹介するイベントです。
フランス在住の日本文化に興味を持つ多くの方と触れ合うことになるのですが、そのメインイベントのお話は後編にて。

私はちゃんと接客できるのか?そしてこの旅の最終日。帰国の朝に起きたハプニングとは一体。もう少し続きます。

アヌシーでとうとう川に入って撮影する。
いい写真のためなら構うもんかです。

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