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『男たちの船出』が訴えたいもの    【歴史奉行通信】第二十三号

こんばんは。
暑い夏の夜に、
伊東潤メールマガジン
「第二十三号 歴史奉行通信」を
お届けいたします。

〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓

1. はじめにー
伊東潤、30歳の夏
2. 書き下ろしエッセイ
『男たちの船出』が訴えたいもの
3.伊東潤Q&Aコーナー
4.お知らせ奉行通信

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1. はじめにー伊東潤、30歳の夏

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いよいよ夏本番ですね。

私はスイカ、
トウモロコシ、
そーめんが大好物なので、
夏は待ちに待った季節です。

結局、食べてばかりなので痩せませんけどね。

今回、タケダマキさまには特別に、
「湘南サーファーライフを楽しむ
伊東潤、30歳の夏」
をご提供します。

昨年、テレビ番組
「尾上松也の謎解き歴史ミステリー」
に出演した時のものです。
夏の一片を感じてください。
画像はこちらから↓
https://goo.gl/Cm3VXv

さて、この10月、
新作『男たちの船出』が発売されます。

それに先立ち、
8/11の読書会では
事前にお送りした
連載版のPDFをお読みいただき、

その感想や意見をお聞きした上で、
最後の仕上げ作業に
取り組もうと思っています。

もちろん
『ライトマイファイア』の時と同じように、
読書会参加者の方々のお名前も
巻末に掲載いたします(*希望者のみ)。 
お申し込みは以下または本メルマガ内
「4. お知らせ奉行通信」からどうぞ。
https://peatix.com/event/399422

今回は、最新作『男たちの船出』の
書き下ろしエッセイになります。

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2. 書き下ろしエッセイ
『男たちの船出』が訴えたいもの

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いつの時代も
イノベーションから逃れることはできません。

イノベーションを拒んだ時、
そこに待っているのは没落や衰退です。

歴史上には、
渡来人の文字や
技術を取り入れることによって
権力を握った蘇我氏四代から、

幕末に工業立国を出現させた
鍋島閑叟(直正)まで、
様々なイノベーターがいました。

とくに織田信長は
三千挺もの鉄砲を用意し、
長篠合戦で武田軍を撃破しました。

鉄砲は武田軍も装備していたのですが、
信長が圧倒的な勝利を飾れたのは、
鉄砲製造工房と黒色火薬を独占し、
さらに鉄砲の長所と短所を吟味した上で
運用面の工夫をしたからでした。

合戦という出たとこ勝負の要素が強いものに、

信長は「(技術力により)戦う前に勝つ」

というイノベーションをもたらしました。

イノベーションは、
歴史を変えるほどの威力を持っているのです。

*************

さて、日本は海に取り囲まれた島国です。

しかも内陸部は山あり谷ありで、
物を運ぶのに適していません。

そのため早いうちから
海運業が発達してきました。

ところが江戸時代前期までの
造船技術には限界があり、
本州を一周することさえ困難でした。

というのも本州沿岸には三カ所の難所があり、
そこを通過するのが大変だったからです。

その三カ所とは
津軽海峡、
熊野灘から遠州灘にかけて、
そして佐渡海峡です。

江戸―大坂間を行き来する
船が多いこともあり、
遭難件数は熊野灘から遠州灘にかけて
断トツなのですが、
海の荒れ方のひどさは佐渡海峡でした。

統計データがないので
定かなことは言えませんが、
件数ではなく遭難率については、
おそらく一位だったのではないかと思います。

というのも地球の自転の影響で、
潮流は西から東に向かって流れていきます。

ところが日本海には、
佐渡島という巨大な岩塊が立ちはだかり、
そこで潮流は二分されています。

さらに佐渡近海の海底の隆起は激しく、
潮流は極めて複雑な動きをします。

そのため江戸時代、
佐渡島は最短距離にある最大の港である
新潟との行き来は少なく、
庄内藩の酒田港との行き来が
多かったほどです。

かの河村瑞賢も、
立務所(りつむじょ)という中継基地を
酒田から佐渡島の小木(おぎ)とし、
新潟をスルーしています。

江戸時代初期、
佐渡海峡を通れるのは
一年のうち四~六カ月ほどで、
残る半年ほどの交通は途絶していました。

それほど当時の造船技術では
海に勝てなかったのです。

しかし、どうしても
海に挑まねばならない事情が発生します。

*************

十七世紀に入ると、
旱魃(かんばつ)や不作によって
飢饉(ききん)が起こり、
江戸への人口流入が始まります。

これは爆発的で、
瞬く間に江戸は世界一の人口を抱える
大都市へと変わっていきました。

とくに明暦の大火によって
焼け野原となったことが逆に幸いし、
保科正之(ほしな・まさゆき)らによって
商業を中心とした
新たな都市計画が始まることで、
それに拍車が掛かります。

これにより江戸を飢えさせないために、
東北の天領で収穫された米や
穀物を江戸に運び込まねば
ならなくなったのです。

しかし当時の陸運力は限られており、
海運に頼らざるを得ません。

とはいっても、
それまでの小型船では
積載量も限られている上、
船の数が多くなれば
事故による損米率も上がります。
そこで経済効率のよい大船を
開発しようということになったのです。

ところが千石船を造るとしても、
五百石積み船を、
そのまま大きくすればよいわけではありません。

巨大な帆は取り回しが楽ではなく、
また和船の弱点と言われた
船尾の舵を巨大化すれば、
水深が浅い海には入れません。

さらに大きくなればなるだけ
船腹に横波を受ける面積も大きくなり、
横転しやすくなります。

こうした致命的ともいえる和船の弱みを、
試行錯誤を重ねながら
克服していかねばならなくなったのです。

***********

主人公の嘉右衛門は
老境が近づいた船大工頭で、
弟の海難死によって
大船造りに否定的になります。

しかしイノベーションしていかないと、
塩飽の造船業は衰退を余儀なくされます。

そこで大船を造ろうという息子の弥八郎と、
それに消極的な嘉右衛門との間で
確執が始まります。

そこに一人の男が現れることで、
事態は動き出します。

その男とは河村瑞賢です。

瑞賢は塩飽の造船技術を高く買っており、
塩飽で千石船を造らせようとしますが、
事はそう容易には運びません。

人という生き物は、
変化を受け入れ難いものです。

とくに年を取るほどに、
それまで成功体験に固執し、
新たなことに挑戦することに
消極的になります。

しかし環境の変化は待ってはくれません。

「そこにとどまっていること」
は衰退や没落を意味するのです。

『男たちの船出』は、
イノベーションの生みだす
様々なジレンマを、
塩飽の船大工たちの視点で
描いた人間ドラマです。

この物語の主人公である
船大工の嘉右衛門と弥八郎、
そしてそれを取り巻く人々は変化に、
いかに対応していくのか。
彼らは変化を受け入れ、
適応していくことができるのか。

それは読んでからの
お楽しみとさせて下さい。

***********

いつも伊東潤メルマガ「歴史奉行通信」を
お読みいただき有難うございます。

当メルマガの感想等は
是非ツイッター等のSNSでツイートください。
ハッシュタグを
「#伊東潤メルマガ」「#歴史奉行通信」
と付けていただければ幸いです。

歴史奉行通信は、
読者の方々の意見を取り入れながら
内容を変えていきます。

ご意見やご希望、
また質問もどんどんお寄せ下さい。

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3.伊東潤Q&Aコーナー

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毎回気になるQ&Aコーナーです。
今回は下嶋直人様からです。

Q.
武田信玄の息女を携えて、長安の下に。
との寛政普に出る市兵衛は先祖のようです。
松姫支援ののち江戸に上洛し、
徳川家臣団として、
駿府で代官だったとの記録を確認しましたが、
松姫の同行者を確認できる資料には
どの様なものがあるかご教示ください。
(下嶋直人様)

A.
私は武田氏研究を専門的に
やっているわけではないので、
残念ながら分かりません。
お役に立てず残念です。
(伊東潤)

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伊東潤のメルマガでは
皆様のお悩みを、
歴史上のエピソードに
なぞらえてお答えしていきます。

是非お気軽に以下のリンクよりお送りください。
https://goo.gl/forms/QC0Pu5E4B76NjAyg2

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4.お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他

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【新刊情報】
☆『鯨分限』(光文社)文庫版
8/8発売予定
紀州太地の捕鯨集団
「太地鯨組」棟梁にして快男児・太地覚吾。
斜陽の村を救うべく日本全国を駆け巡る。
だが未曽有の海難事故が、
激変する国の有り様が彼を襲うー。

今回の単行本化にあたり、
大幅に手を入れているので
格段に読みやすくなったと思われます。
解説は、和歌山県出身の坂井希久子さんです。
作品情報はこちら
https://goo.gl/5ozXFN

☆『ライト マイ ファイア』
(『アンフィニッシュト』改題) 
(毎日新聞出版)好評発売中

伊東潤の全知全能を傾けた
社会派ミステリー超大作です。
詳細は伊東潤のHP「恐々謹言」の作品ページをご覧下さい。
https://goo.gl/ZVrmqm
以下よりご購入も可能です。
https://amzn.to/2IocxYX

☆文庫版『池田屋乱刃』(講談社) 好評発売中
いったいあの夜に何が起こったのか――。
伊東潤が迫る
志士たちのドラマと池田屋事件の真相。
https://amzn.to/2rdZWkJ

【読書会情報】
<第十回読書会>
8月11日(土)15:30開始
今回は、今年10月発売予定の新刊
『男たちの船出』を
事前にPDFでお送りし
その感想を読書会で論じ合い、
それを作品に反映させていきたいと思っています。
『ライト マイ ファイア』と同じ
読者参加型のイベントです。

原稿をお送りして
読んでいただく必要がありますので、
是非お早めのお申し込みをお願いします。
http://ptix.at/0l5QVV

<第十一回読書会>
10月13日(土)13:00開始
テーマは、デビュー作『武田家滅亡』です。
十一回はスペシャル・イベントとして、
新宿アルタのHMVにて
金属恵比須のミニライヴを見た後、
会場(コルク)に移動し、
いつものように読書会を行います。

*タイムテーブル(予定)
12:50  新宿アルタ9階HMVに集合
13:00  ライヴ開始
14:30  ライヴ&サイン会終了、会場へ移動
15:30  読書会開始
18:00  懇親会開始
20:30頃 終了
お申し込みの開始は
9月上旬を予定しております。
伊東潤のHPおよびSNSに注目ください。

【ラジオ出演情報】
NHKラジオのレギュラー放送は、
いつも通りあります。
私の担当は土曜日で隔週です。
だいたい朝の7:30から始まります。
今は第二と第四土曜になります。
「マイあさラジオ」
http://www4.nhk.or.jp/r-asa/

【講演情報】
8/25(土)の講演は、
メルマガ読者様を抽選で3名ご招待予定です。
ご希望の方は、
以下のフォームよりお申し込みください。
(締め切り:8/7(火))
*当選者のみご連絡させていただきます。
https://goo.gl/NFynaV

8/25(土) 
「新視点・幕末伝 諸藩の明暗と津和野藩」
https://goo.gl/mbWQCT

9/15(土) 
「戦国時代の鎌倉と玉縄城の発見」
13:30~16:40
場所 : 鎌倉生涯学習センター 
キララ鎌倉ホール
演題 : 「伊勢宗瑞と後北条氏」
https://itojun.corkagency.com/event/2017/

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