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父子とは何か 【歴史奉行通信】第二十七号

こんばんは。
いよいよ涼しい季節になってきました。
一年のうちで最も過ごしやすい
季節の到来です。
いかがお過ごしですか。

伊東潤メールマガジン
「第二十七号 歴史奉行通信」を
お届けいたします。

〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓

1. 千石船を造り上げていった
男たちの苦闘の記録

2. 父子とは何かー伊東潤のエピソード

3. みなさまへのお願い

4. 伊東潤Q&Aコーナー

5. お知らせ奉行通信

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1. 千石船を造り上げていった
男たちの苦闘の記録

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さて今回は最新作
『男たちの船出』をご紹介します。

私がこの作品を執筆したきっかけは、
江戸を造った男
という作品で、
日本沿岸の航路を開拓した
河村瑞賢を描いた際に和船の構造を知り、
興味を持ったことでした。

和船というのは
日本で造られた船の総称ですが、
その構造は日本独自のもので、
沿岸航行のみを考えるなら、
とても優れたものでした。

しかし恐竜が絶滅したように、
明治維新の文明開化と同時に入ってきた
洋式船に瞬く間に凌駕され、
明治20年前後、完全に姿を消します。

しかし戦国時代末期から
江戸時代中期にかけて、
和船の技術的進化には
凄いものがありました
(明治には二千石船まで登場します)。

そこには、
今に伝えられていない
船大工たちの苦闘の歴史が
あったはずです。

私は、そのイノベーションの
過程を描きたいと思いました。

和船は、弁財船(べざいせん)という
名の方が通りがよいと思います。

弁財船とは物資の輸送に使われる
大型の木造帆船のことで、
北前船(きたまえぶね)、
菱垣廻船(ひがきかいせん)、
樽廻船は、それぞれ航路、形態、積み荷から
慣習的にそう呼ばれるようになっただけで、
船の構造面から言うと、
すべて弁財船になります。

ちなみに石積みとは、
米をどれだけ積めるかによる呼び方で、
千石船なら米を千石積むことができる
という意味です。

千石の米は一俵を四斗で計算すれば
二千五百俵になります。

つまり千石船には、
二千五百俵もの米が積めたのです。

これは、にわかにはイメージ
できないほどの積載量です。

しかし弁財船には、
構造的な欠陥がありました。
舵とそれを収納する外艫(そとども)が
巨大すぎるのです。

弁財船の本体は極めて堅牢な構造で、
岩礁にでも衝突しない限り
壊れるものではなかったのですが、
舵と外艫だけは弱かったのです。

というのも、舵には身木という軸に
二枚から三枚の羽板が取り付けられており、
七百石積み船で、
長さは約二十六・四尺(約八メートル)で
最下端の最大幅は約八・二尺
(約二・五メートル)に及びます。
しかもその面積は、
約二・四二坪(約八平方メートル)という
巨大さでした。

しかも舵は
船尾から直下に長く延びており、
複雑な構造をしているので、
沿岸で座礁しやすく、
沖合でも流木や鯨が直撃しただけで
折れることがありました。

江戸時代、難破した弁財船の大半は、
舵と外艫に何らかの損傷を受けたことが
原因という調査結果もあります。

こうした構造的な問題を抱える
弁財船ですが、
急速な進歩すなわち大型化を
遂げていくことになります。

四代将軍家綱の時代、
奥羽地方などの飢饉により、
江戸への人口流入が止まらなくなりました。
つまり江戸で食糧問題が発生するのです。

そこでその問題解決を委託された
河村瑞賢は東回り・西回りの両航路を開発し、
天領の米を江戸に運ぶことに成功します。

ところが当時の船は五百石積みが普通で、
運搬量が限られていました。
そこで千石船ないしは
それ以上の大きさの船を造ることで、
大量の米を効率よく江戸に
集めようとしたわけです。

『男たちの船出』では、
河村瑞賢が主導して
千石船を造らせたとしていますが、
実際は幕閣が船手方に
船の大型化という命題を託して、
船手方が各地の「船造り」たちに
奨励して造らせたようです。

しかし航路を開発し、
造船の本場である塩飽の船手衆を
まとめていた瑞賢が、
船の大型化にかかわっていなかった
とは考えられず、
おそらく推進派として
関与していたことでしょう。

かくして千石船造りが始まるわけです。
ところがそこには、
様々な技術的問題が横たわっていました。

この物語は、
それらの問題を乗り越えて
千石船を造り上げていった
男たちの苦闘の記録です。

もちろん和船の構造的な問題や
イノベーションのジレンマといった
テーマばかりではなく、
父子の確執、老いの問題、
代替わりの難しさといった数々の
「人間本来の問題」も取り上げていますので、
誰にでも楽しめる作品となっています。

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2. 父子とは何かー伊東潤のエピソード

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とくにこの『男たちの船出』では、
父子の微妙な感情の襞が紡がれていきます。

私事で恐縮ですが、
私の父は穏やかな人物で、
私のような悪ガキに対して、
一度も手を上げたことがありませんでした。

私と違って無口で「クール」な人物で、
何事に対しても感情を表すことなく、
冷静に対処していました。

父は金沢区の福浦で
社員二十人ほどのアルミ・ステンレス加工の
工場を経営していました。
前職がIHIの技術者だったので、
高度成長期の流れに乗って独立したわけです。

子供の頃、父の車に乗せられ、
よく会社に連れていってもらいました。
そこでは皆が大きな機械を操作し、
何かを造っていました。
それがどれだけ誇らしかったか――。

父は朝早く出勤し、
夜遅く帰宅しました
(父は車で出勤していたので、
外で酒は飲みませんでした)。
むろん土日もなく働いていました。

私の大学卒業時には、
後継者問題は浮上しなかったのですが、
私が三十歳の時(1990年)、
父がステルス性胃癌に罹患してしまい、
余命いくばくもないことが判明したのです。

ここで私は人生の岐路に立たされました。
母親は
「お父さんが大切にしてきた会社だから」
と言って跡を継ぐべきだと言ったのですが、
私は日本IBMでの仕事が
軌道に乗り始めており、
継ぐつもりはありませんでした。

その時、父は
「潤に私と同じような苦労を
掛けさせたくない」
と言って、会社を人手に渡し、
静かに旅立っていきました。

かくして私は自由の身となったわけです。

この話からも分かる通り、
『男たちの船出』に自伝的要素は
さほどありません。
しかし執筆している最中、
何度か父のことを思い出しました。

あの時、どんな気持ちで、
手塩にかけてきた会社を
他人に売り渡すことを
自分に納得させたのかを思うと、
そんな気持ちに寄り添えず
反発していた自分が情けなくなります。

こうして執筆を終えた今、
初めて父に寄り添えた気がします。

『男たちの船出』が、
皆さんに「父子とは何か」を
考えるきっかけになってくれれば幸いです。

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3. 終わりにー
みなさまへのお願い

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ここまでお読みいただきまして
有難うございました。

最後に皆様にお願いです。
このメルマガの感想などを
ツイッター等のSNSに上げて
いただけないでしょうか。
尚、アップいただく際は
「#歴史奉行通信」
「#伊東潤メルマガ」
のハッシュタグをつけてください。

とくに今回は『#男たちの船出』発売に
向けて、皆様の「父と子」についての思い出話や
「伊東の話」の感想などを、
お聞かせいただければ幸いです。

伊東潤のメルマガ
「歴史奉行通信」は、
読者の方々の意見を取り入れながら
内容を変えていきます。

ご意見やご希望、
また質問もどんどんお寄せ下さい。
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次回のメルマガは10/17(水)予定です。

では、また!

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4. 伊東潤Q&Aコーナー

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いつもQ&Aコーナーに
ご質問をお寄せいただき
有難うございます。
今回は江身子様からです。

Q.
先生は講演も沢山されていますが、
今までの講演で満足度の高いテーマや
今後扱いたいテーマがあれば
教えてください。
(江身子 様)

A.
今年の講演は小さいものも
含めると十回以上なので、
確かに月一ペースを
やや超えるほどやっていますね。

地方講演が多いので、
地元の歴史的事件や偉人を
取り上げてほしいというリクエストが
多いのですが、
実際は好き勝手にやらせてもらえる方が
ありがたいですね。

持ちネタでは
「歴史家ら学ぶ七つの教訓」
「強みを築いて競争に勝とう
(ストレングス・ファインダーの紹介と
戦国武将の話)」
「幕末諸藩から学ぶ決断の難しさ」
といったところが得意ですね。

これから取り組みたい講演テーマと言っても、
演題は主催者の指定なので何とも言えません。
(伊東潤)

インタラクティブを心がけている
伊東潤のメルマガでは、
皆さまからの質問に最大限にお答えします。
是非お気軽に以下のリンクより
お送りください。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbG

また、伊東潤のファンのための
Facebookグループ、
「評定衆(ひょうじょうしゅう)」が
オープンしました。
ファン同士の会話を楽しみたい方や、
ニュースをいち早く知りたい方は、
是非こちらよりご参加ください。
私も不定期で登場します。
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5.お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他

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【新刊情報】

☆『江戸を造った男』文庫版(朝日新聞出版)10月5日発売!

江戸前期に財を成した商人・七兵衛
(後の河村瑞賢)は
海運航路整備・治水・鉱山採掘
などの幕府公共事業を手掛け、
知恵と胆力で次々と難題を解決してゆく。
新井白石をして
「天下に並ぶものがいない富商」
と唸らせた男の波瀾万丈の生涯を描く
長篇時代小説。

詳細は伊東潤のHP「恐々謹言」の作品ページをご覧下さい。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbI
アマゾンURLはこちら
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbJ

☆『男たちの船出』(光文社)10月18日発売!

「『男たちの船出』は、
イノベーションの生みだす
様々なジレンマを、
塩飽の船大工たちの視点で
描いた人間ドラマです。

この物語の主人公である
船大工の嘉右衛門と弥八郎、
そしてそれを取り巻く人々は変化に、
いかに対応していくのか。
彼らは変化を受け入れ、
適応していくことができるのか。

それは読んでからの
お楽しみとさせて下さい。」
(伊東潤)
(*HP、Amazon共に詳細ページ
近日オープン予定)

【読書会・主催イベント情報】
現在予定している、
読書会および主催イベント情報一覧です。

10月13日
第11回「伊東潤の読書会」は
『武田家滅亡』が題材。
残席わずかとなっています。
お申し込みはこちらからどうぞ
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbK

11月24日
コルクラボ文化祭でプチ読書会を開催予定。
題材は『池田屋乱刃』所収の『二心なし』。
書籍のアマゾンURLはこちら
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbL

12月8日
第1回「城めぐりオフ会」
小田原城日帰りツアーを
計画中(懇親会は新宿)。 

12月15日
第12回「伊東潤の読書会」は、
来年二月発売の『真実の航跡』が題材。

2019年
2月
第13回「伊東潤の読書会」は
第2回「ファンベース・セッション」の予定。

4月
第14回「伊東潤の読書会」は
連作短編集『家康謀殺』が題材。

5月
第2回「城めぐりオフ会」
『武田家滅亡』1泊2日ツアーを計画中。
一日目 : 新府城・武田八幡宮・躑躅ヶ崎居館・甲府城・恵林寺(宿泊は石和温泉)
二日目 : 勝沼氏館・天目山方面(大善寺・四郎作古戦場・鳥居畑古戦場・景徳院・栖雲寺)

【TV / ラジオ出演情報】

テレビ番組は収録予定があります。
放送予定が決まりましたらお知らせします。

NHKラジオのレギュラー放送は、
いつも通りあります。
私の担当は土曜日で隔週です。
だいたい朝の7:30から始まります。
今は第二と第四土曜になります。
「マイあさラジオ」
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbM

【講演情報(*主催イベント以外)】

10/28(日)
「海音寺潮五郎記念文化講演」
(入場無料)13:30~15:45
(伊東の講演は14:00~15:35
「幕末雄藩列伝 薩摩藩・佐賀藩・水戸藩」)
かごしま県民交流センター内県民ホール
TEL. 099-224-9514
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbN

11/10(土)
「神奈川新聞文芸コンクール」
(入場無料)14:00~16:00 
神奈川新聞本社
上記コンテストに応募した作品について、
当コンテストの選考委員を務めた伊東が講評します。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbO

12/24(月)「お城EXPO」
伊東の講演は11:00~12:30
「関東戦国史と城郭攻防戦」
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aRbjaad7qpzihmbP

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