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第六十四号 『城をひとつ』文庫化記念特集

〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓


1. はじめにーー『城をひとつ』
文庫版 いよいよ発売

2. 著者インタビュー「戦国時代のスパイ大作戦」
(2017年4月 アサヒ芸能インタビューより)

3. 『城をひとつ』各挿話の史実解説

4. おわりに / Q&Aコーナー / 感想のお願い

5. お知らせ奉行通信
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1. はじめにーー『城をひとつ』
文庫版 いよいよ発売

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緊急事態宣言が遂に出されましたね。

気候的には過ごしやすい季節に
なってきたにもかかわらず、
どこにも行けないのは辛いところです。

それでも散歩やウォーキングは
構わないようなので、
皆さん、健康の維持に努めましょう。
私も夜明けと共に
根岸台公園まで歩いていますが
(往復で約1時間)、
高齢者の多さには驚きです。


さて、4月25日に文庫版
『城をひとつ』が発売されます。
今回は内容を的確に伝えるため
『戦国北条奇略伝』という
副題を付けました。
ですから正式なタイトルは、
『城をひとつ 戦国北条奇略伝』となります。

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この六編から成る連作短編集は、
自ら敵中に入り込み、
信用を得て相手を思う通りに動かし、
内部から崩壊させるという
「入込」という戦術を専らとする
大藤一族の活躍を描いたものです。
それぞれ戦国北条氏の転機となる
戦いを舞台にしていますので、
戦国関東史をウォークスルーする
という意味でも読む価値のある作品だと
思います。


なお今回は、
『城をひとつ 戦国北条奇略伝』の発売が
約一カ月前倒しとなったため、
その特集とさせていただきました。
「完全版 令和の時代に司馬遼太郎を読む」
の第二部と第三部は、
次回以降に掲載させていただきます。
楽しみにしていた方々には
謹んでお詫び申し上げます。


『城をひとつ 戦国北条奇略伝』の
予備知識を付けていただくために、
単行本発売時のインタビューと
解説を掲載します。


まずは2017年4月に受けた
「アサヒ芸能」のインタビュー記事からです。

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2. 著者インタビュー「戦国時代のスパイ大作戦」
(2017年4月 アサヒ芸能インタビューより)

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デビュー以来、
本格的な歴史小説で多くのファンを
魅了してきた伊東潤氏が、
関東の戦国大名・北条氏と
その好敵手たちとの攻防を描いた
短編集を上梓した。
北条氏の陰の仕事を担う大藤一族が
敵方に潜入し、戦う前に有利な状況を
作り出すべく暗躍する本作は、
スリル満点、後味スッキリの
戦国スパイアクションだ。
伊東氏に話を聞いた。

戦国北条氏の作品を数多く
ものにしてきた伊東氏は、
彼らの魅力についてこう語る。

「諸大名が軍事力を駆使して
領土を拡張する戦国時代にあって、
北条氏は領民第一の政治を行うことで膨張しました。
法の支配の徹底や
常に平等性を意識した政策など、
北条氏の政治は現代の民主主義に
通じるものがあります。
それゆえワン・ノブ・ゼムの戦国大名ではない北条氏の目指していたものを、
より多くの方に知ってもらいたい
という思いから、
彼らの作品を書き続けてきました」

本作の主人公は、
北条氏を影で支えた大藤一族。
馬商人や僧侶などに化けて
敵の陣営に潜入し、
味方のふりをしながら
敵の内部を混乱に陥れて、
北条氏を勝利に導いていく。

「大藤一族は
歴史的に実在した一族ですが、
史料が少なく、
その実像は分かっていません。
わずかに残された史料から推測すると、
敵方に先乗りし、合戦前の
“下ごしらえ”をしていた痕跡があるので、
彼らを潜入攪乱要員に仕立てて
物語を考えていきました」


ーー北条氏が隆盛していく転機となる
合戦を舞台にした連作短編集ですが、
苦労した点はどこにありますか。

「北条五代を通じて重要な戦いを抽出し、
史実を踏まえながら、
大藤一族の暗躍を物語にしていくことは
容易ではありませんでした。
しかも、小弓公方足利義明、上杉謙信、
古河公方足利晴氏、織田信雄といった
名だたる武将の性格を逆手に取りながら
トリッキーな物語を紡いでいくことを
自分に課したので、
これまでにないほど苦労しました」

外資系企業のコンサルタント出身で、
ビジネスの世界でも
成功を収めてきた伊東氏だけに、
緻密な構成力は本作においても発揮され、
エンターテイメント作品としての
完成度も高い。

「史実に沿って
登場人物の心情だけを描くことが
歴史小説ではありません。
斬新で独自の歴史解釈を織り込みながら、
読者に『面白い!』と
思っていただくものを書いていくことが、
自分の使命だと思っています」

ーー題材を選ぶ際には、
どのような点に注意していますか。

「自分の強みを意識することです。
私の強みは、歴史解釈力と
ストーリーテリング力の融合なので、
常にその点を意識しながら
題材を選び、構想を練っていきます」

本作は派手な合戦シーンはないものの、
城マニアとして中世城郭を研究し、
情報戦略の知識にも長けた
伊東氏が創り出す物語なので、
非常にスリリングで、
後味もスッキリしている。

「戦国ファンの人はもちろん、
スパイものや潜入捜査官ものが
好きな人でも楽しめる作品なので、
多くの方に読んでいただきたいですね」

(以上)

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3. 『城をひとつ』各挿話の史実解説

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さて、それではメルマガ読者様だけに、
本書で取り上げた
各挿話の背景となる史実について
解説しましょう。
基になるのは拙著
『実録戦国北条記』(PHP文庫)と
『北条氏康 関東に王道楽土を築いた男』
(PHP新書)になりますので、
前後の流れを知りたい方は、
そちらをお求め下さい。

なお用語解説はしませんので、
用語、人名、地名などが分からない方は、
Wikiなどで検索しながらお読み下さい。


■江戸城乗っ取り事件
(表題作『城をひとつ』)

大永四年(1524)正月十三日、
北条氏綱は、扇谷上杉氏領国への
侵攻を開始する。

さかのぼること十日前の正月三日、
朝興は山内上杉憲房と攻守同盟を
結ぶため河越城に向かっており、
氏綱はその隙を突いたのだ。

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