刑法③正当防衛〜必・緊・相〜

刑法の第3回は正当防衛をとりあげてみます。

法律を学んだことがなくても馴染みのある言葉ではないでしょうか。「いやそんなの正当防衛だろ」といったツッコミで返すのは日常的な場面でもままあるでしょう。

まずは条文。しつこいですが、これ基本です。

刑法36条1項
「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」

「急迫不正の侵害」が少しとっつきにくいかもですが、客観的に侵害であるならほぼ不正だと思うので、ここで重要なのは「急迫性」です。

ポイントとして、正当防衛は「やられたらやりかえす!」ではありません。日本のルールでは、やられたら裁判で損害賠償を請求するというのが正規の方法だからです。あくまで、やられそうなときにとりうる手段なのです。

いままさに殺されそうなのに、警察を呼べだとか、あとで賠償してもらえばいい、というのはあんまりでしょうよというのがこのルールを正当化しています。「まぁあとでいろいろやっとくんで、とりあえず殺されてもらっていいすか?」なんて受け入れられませんので。かといって、やりすぎたらもちろんあきまへん。

ここで物差しになるのが、必・緊・相(ひっきんそう)なのです。すなわち、必要性、緊急性、相当性を満たす場合に「正当」な防衛行為ということができるのです。

実はこの3要素は、法律上のあらゆる場面において、いや社会生活上のあらゆる場面において、行為の「正当性」をはかる物差しになります。

順番に行ってみましょう。必要性があるかとは「それ、やんなきゃだめなわけ?」ってことですね。続いて緊急性は、「それ、今じゃなきゃだめなわけ?」で、相当性というのが一番難しいのですが、「今やらなきゃいけないのはわかったけど、そんなにやる?」というやつです。伝わりますか?笑

刑法の事例で考えてみましょう。いまあなたは、まさに殴りかかろうとしてきている相手と対峙しています。このピンチを避けるには、戦うか、避けるか、ですね?避けるのが多分一番いいでしょうが、相手はどんどん向かってきてもう逃げ場がない、となると?戦いますよね。その戦い方の問題です。やられないために、まずは戦う「必要性」はあるといえるでしょう。そして今まさに相手が向かってきてるので「緊急性」もあり、です。

さて「相当性」。これはどの程度までオッケーなの?ってことです。条文でも「防衛のため、やむを得ずにした行為」とされているように、積極的な攻撃は基本的にNGです。まず、相手を「やめろー!」と突き飛ばす、これは全然ありでしょう。腹パンをきめて動きを止める、この辺もセーフだと思います。しかし、サッと刃物を取り出してスパッと切りつける、とか、ピストルで脚を撃ち抜く、などはやりすぎじゃないですか?これらは、緊急の必要性があるものの、やりすぎぃ!ってことで「過剰防衛」になってしまいます。過剰防衛は正当防衛と別に条文があり、「罰しない」ではなく「刑の減軽または免除ができる」となるのです(あとは裁判所の判断に委ねられる)。

さて事例に戻ります。殴りかかってくる相手をいきなる撃つのはやりすぎなのですが、状況は刻一刻と変化します。警察官が「止まれ!止まらんと撃つぞ!」といって脚を打つ場合のように、どんどんヤバい雰囲気になってくれば撃つのも仕方ない、という判断につながることもあります。

ただその場合でも、警告したからいい、というわけではないですよ?暴れてる奴の体格とか、暴れっぷりとか、話にならない感じとか、そういう全ての状況を考慮して、「そりゃあ撃つよ。脚なら死なないし、いいでしょ」という判断になっていくのです。

これを一般社会に持ち込んだとき、「おいお前何やってんだ!お前なんてこうしてやる!」という場面で、どういう手段を取るのが正当なのかということに活かせるのです。めちゃくちゃパワハラされた、とかでもいいかもしれません。まずパワハラには対抗する必要性も緊急性もある場面が多いでしょう。そこで相当性。上司のお茶に毒を入れてやったぜ!とかはやりすぎでこっちが悪くなるけれど、雑巾の絞り汁くらいなら…?あなたならどう思います?

※パワハラに対してはふつうに証拠を集めて民事的に責任追及するのが最も有効だと思います。しかし追い詰められてそれどころじゃない状態の人は、自分を責めずに立ち向かっても正当防衛か悪くても過剰防衛と評価されるのではというのが自論です。

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