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花ざかりの校庭 雨上がりの夜空に

【梗概】
浅子は三角関係に終止符を打ちたいと、麻里に彼の電話番号を教えた。
「これって、ハンディ?」
しおんは麻里の話にニヤつく。

浅子さんとの関係、どうしたらいいのやら……。
高志は思った。
たぶん彼女はかつてつきあっていた彼氏と同様のことを、自分にやらかしている……わけだ。
高志は心の中で納得していた。
……どうやったら、俺を嫌いになれるか、浅子さんはもがいてる。
彼は麻里を見る。
彼女はあかくなり、俯く。
かすかに石鹸の香りがした。
そして震えていた。
決心して来たことがわかった。
ここではぐらかしたりすれば、彼女は惨めになるだろう。
浅子との関係をどうすればいい?
ふと、空を見ていた彼女の横顔を思い出した。
未来を夢想するような横顔。


あんな愛らしい彼女を見たのは初めてだった。
貪欲に彼を求めてくる彼女。
彼女が見せた純真な愛らしさは高志の情欲を急き立てくる。
浅子が欲しい。
彼女の総てがほしい。
離したくない。
哀しみとか切なさがこらえきれない時、浅子は彼の前でわがままになった。

俺のこと好きだったんだろう?
病院のテラスで、泣きじゃくりながら、別れたくないって叫べばよかったのに。
       ★
麻里は首をかしげている、
「ちょっと。高志くん?」
「はい?」
「妄想しすぎ」
「そんな顔してた?」
「うん、してた」
麻里は優しく笑っていた。
「ねぇ、高志くんこっち見てくれる?」
「えっ?」
目の前の麻里が脚をあげた。
「この浮気者っ!」
出し抜けにパンっと、音がした。
鈍い痛みが股間から伝わってくる。
「うっ!」
麻里は彼の股間を蹴りあげていたのだ。
「浮気者っ!私のこと好きって言ったじゃない!」
麻里は怒っていた。
「痛い……」
高志は声を震わせた。
高志は泣きそうになるのを堪えて頷く。
「ごめん」
高志は首をふる。
「いや。許さないっ」
「あの人のこと好き?浅子さん」
「勘弁してくれ」
麻里は首をふった。
「しない」
高志は冷や汗をかいていた。
「浅子のほうがいい」
「私に好きって言ったでしょう!浮気もの」
高志はまだ痛がっていた。
汗をかいている。
「痛かった?」
「うん」
「浅子さんのこと好き?」
麻里は高志をじっと見ている。
彼は首をふった。


かつての亜麻色の乙女は言った、
「浮気するから蹴られるのよ」
「これがきみのやり口か?」
麻里は赤くなっている。
「奪えって、浅子さんが言ったもの」
「バカな」
「そう。バカ。浅子って女ほんとうにバカ」
「いや……」
「私、あの人の代わりじゃないから」
「うん」
「私のこと好き?」
高志は浅子の悲しげな顔を思い出した。
「キスして」
高志はしようとはしなかった。
「……まだ、浅子さんのこと好き?」
麻里は肩を落とす。
「嫌い?」
「ううん、好き」
「で、浅子さんのことも好きなんだ?」
ふいに高志は防御の姿勢をとる。
「蹴らないってば」
麻里は笑顔になる。
「うん、好き」
麻里は突然、激昂した。
「ふざけんなっ、この女ったらしっ!」
いきなり高志の股間を蹴りあげた。
雨上がりの夜空に、高志は悲鳴をあげていた。
通りすがりの背広服が麻里に声をかけた。
「お嬢ちゃん、そいつ痴漢か?」
麻里は首をふり、微笑んだ。
「いいえ、彼氏です」
「マジかよ?」
「はい」
「彼氏を蹴っちゃダメだろう?」
「浮気したんです」
「ほんとか?きみ」
「違いますよ、俺たちまだ、何もしてないです!」
高志が真っ青な顔で言った。
麻里はふくれた。
「キスしたじゃん!」
「唇が触れただけ」
「好きって言ったじゃん!」
「空耳だろ」
「ふざけんなっ!」
麻里はまた蹴ろうとする。
「あんまり蹴ったら死んじゃうよ」
男は喧嘩はやめるように、と言ってその場を去った。
麻里は赤くなって頷いていた。
二人は公園のベンチに腰かける。
「浅子さん綺麗だもんね」
彼女はポツリという。
「別に」
「じゃ、綺麗じゃないの?」
麻里は彼女の姿を思い出していた。
「うん、綺麗じゃない」
「ばればれの嘘。私が見ても憧れちゃうし」
「泊まっていけよ」
高志は言った。
常夜灯の光りがせつないくらい夜に滲んでいた。
麻里は高志の肩に頬を寄せる。
彼の腕が彼女の肩を包み込む。
「今夜、そのために来たんだろ」
暗闇のなか、微かに麻里は頷いていた。
麻里は目を閉じて高志の温もりを感じていた。



       ★

同時に二人愛せるなんて理解できない。
麻里は古びたキッチンに立って考える。
麻里は高志の夜食をつくっていた。
「俺、やるから」
彼は言う。
「いい、私がやるっ!」
少し邪険に言う。
「いや、俺がやる」
「しつこいっ!」
高志は一旦、麻里から逃げ出した。
「そんなに恐がらなくてもいいのに……」
「あれ、痛かったんだぞ」
「わかってるわよ」
「女にわかるわけねーだろ」
「何よ、その下品な言葉遣いは。せっかくパスタ作ってやってんのに……」
「パスタって、それ使うかな?」
生麺が鍋のなかでゆれていた。
「あっ、そうだった……かしら?」
麻里はとぼける。
「きみはパスタ、食ったことがあるのか?」
「うん、しょっちゅう……」
ふいに、義理の母のことを思い出した。
彼女は一瞬、黙り込んだ。
何かしら懐かしい思いがよみがえる。
「……ほんとよね」
麻里は箸を高志に渡した。
「ごめん、作って」
高志は鍋を覗きこんで、
「ああ、これからだとラーメンくらいしかできないけど」
「袋麺?」
「いや、これにガラスープと醤油……」
彼は麻里に冷蔵庫からいくつか出して欲しいものを説明した。
「へえ、さすがだね」
「独り暮らし長いし」
「しおんと同じ」
「倉木か?」
「うん」
「仲いいの?」
「まあね」
麻里は笑う。
「まさか、彼女は今日のこと知ってる?」
「……ううん、誰にも言ってない」
「だよな、言ってたらヤバイよな」
高志はおかしそうに笑った。

「……もし倉木が知ってたらどうする?」
「えっ?」
二人はテーブルで向かい合ってラーメンを食っていた。
「泣きながら一人できみが自室に帰る……」
「どういうこと?」
「俺がきみを誘わなかったらの話だな。それこそ惨めだぞ……」
麻里は少し泣きそうになる。
「言い過ぎた、悪かった……」
「好きな女の子いじめるのって、あなた小学生みたい」
「悪い、それよりラーメン、うまい?」
「うん」
二人はテーブルのその後、テレビをみた。
といっても、内容はさっぱりわからない。
高志の手が彼女の腰に触れた。
麻里は彼にくっついていく。
お互いの距離が密着したところで、麻里はアタマのなかが妄想で溢れそうになった。
高志が音楽の話をしていた。
途中、麻里は何度もお手洗いに行き髪をととのえる。
高志も察しているみたいだった。
そして夜は深くなっていく。

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