ポートスタンレー1982『アル・ヘイグ国務長官』フォークランド戦争
「マギー、第三ジュネーブ条約の適応が必要になります」
サッチャーの顔つきが、絶妙に変化し始めていた。尋常でない証拠だ。
一体、ここにチャーチルの言う『名誉』やサッチャー特有の物言い『尊敬』は存在するのか?
「尋問は紳士的にということなの?」
彼女はこめかみに指を当てた。
「まあ……」
実際にアスティスはフォークランド戦争終了後、旅客機の一等席を当てがってもらい、アルゼンチンに舞い戻っている。
マフィアそのものである。
更にこの五月、アルゼンチンの民間旅客機が、英国機動部隊の補給地である『アセンション島』界隈を頻繁に飛び回っているという。
後方を偵察しているのである。
フランシス・ピム外相は閣議室のテーブルに載った『ハンドバッキング』が妙に黒光りしているのを感じた。
「……また、サン誌(イギリスの新聞)の連中がたちの悪い記事を飛ばしそうね」
サッチャーはジョークを飛ばした。
だが、みなは笑えなかった。
(マギーが怖い)
これこそが、閣僚たちの一致した意見だ。
ソヴィエトの中枢……クレムリンですら、戦慄を禁じえないこの時、サン誌だけはフォークランド戦争を煽<あお>っていたという。
冗談のような新聞である。
彼女は国防相のジョン・ノッドに言った。
「地獄の犬たちに伝えなさい。一カ月以内にスタンレーにユニオンジャックを掲げること」
ハリアーが東フォークランド島の飛行場を叩いたのと呼応するが如く……SASを乗せたガンシップは低空からアルゼンチン軍のレーダーサイトをくぐり抜け侵入を果たしていた。
プカラIA58……。
滑走路をハリアーが叩いたとしても、この小型機はフォークランド諸島に隠すことが可能だったという。
アセンション島からフォークランド海域に向かっている英陸上部隊三二〇〇が東フォークランド島に再上陸するために、プカラはどうしても叩いておきたかった。
*
ダウニング街十番でその晩、戦時内閣の閣僚たちはフォークランド海域の作戦地図を広げたまま、国防参謀長サー・テレンス・ルーウィンの話に聞き入っていた。
この晩から翌日にかけて、外務大臣のフランシス・ピムはワシントンに飛ぶことになっていた。
「アルが会いたいそうで……」
「面子だけは立ててあげてね。彼は私の大切なお友達だから」
彼女は皮肉っぽく言った。
サッチャーは既に、アル・ヘイグを交渉相手のリストから除外していた。
実はアル・ヘイグ『ブラックバック作戦』に腰を抜かしていたのである。
アメリカ国務省は豹変した。
「何故、ガルチェリはイギリスとの外交交渉のテーブルにつかないのか!?」
アルは絶妙に振舞った。
「何故だ?何故なんだっ!」
突然、フォークランド諸島の不法上陸を非難しはじめたのだ。
そうしてとっくに賞味期限の切れた『経済圧力』のカードを手にしてみせた。
ホワイトハウスのレーガンはしたり顔で相槌をうってみせた。
「ああもっともだよ。アル」
一級のタヌキである。
レーガンはアル・ヘイグの外交方針そのものを『アテ馬』にする形で国防省筋からサイドワインダーをアセンション島に続々と送り込んでいる。
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