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【こそあど論法】加藤厚労大臣 2018年1月31日参議院予算委員会

2018年1月31日の参議院 予算委員会にて、高度プロフェッショナル制度のニーズの労働者へのヒアリング結果について、浜野喜史議員が加藤勝信 厚生労働大臣(以下、加藤大臣)に問う場面があった。
この答弁で加藤大臣は、これ・その等の指示代名詞の曖昧さを利用したこそあど論法(法政大学教授・上西充子氏が考案)で意図的に聞き手をミスリードさせた疑いが強い。

本記事では、以下2点を対比させることで、そのミスリードの手法を視覚化していく。
・聞き手の一般的な解釈
・加藤大臣が後日の答弁で主張した解釈

また、本記事は上西充子氏の以下2記事およびtwitter投稿を参考に作成している。

高プロのニーズ聞き取りについて、加藤厚生労働大臣が1月31日に虚偽答弁を行っていたことが判明
https://news.yahoo.co.jp/byline/uenishimitsuko/20180608-00086165/
働き方改革関連法案:高プロへの「ニーズ」に関し、加藤大臣が1月31日に披露していた悪質な「ご飯論法」
https://news.yahoo.co.jp/byline/uenishimitsuko/20180610-00086306/

1問目の答弁 ✳︎2018/6/15公開

まず、浜野議員の1問目は下記の通り

厚労大臣にお伺いいたします。この(裁量労働制と高度プロフェッショナル制度という)二つの制度、働く者の側からの要請があったというふうに理解してよろしいでしょうか。

これに対する加藤大臣答弁を視覚化した結果。

以下、キーワードごとに解説していく。

第2段落 「私もいろいろお話を聞く中で」

こう言われたら、聞き手は「加藤大臣は複数の人から話を聞いた」と解釈するだろう。
だが、加藤大臣は、この答弁をする際に「何人かから」と言いかけたのを止めて、「いろいろな話を」と言い直している。
✳︎1/31答弁の該当箇所はリンク先の動画で確認可能(0分7秒ごろ)
つまり、「何人か」とは発言せずに、あたかも複数人から話を聞いたと錯覚させる意図があったと推測できる。

さらに、ヒアリングの場所についても、聞き手は「国会で具体的な例を挙げて説明しているのだから当然、加藤大臣は正式なヒアリングの場を設けて話を聞いた」と解釈するだろう。
だが、加藤大臣は2018/6/12の参議院 厚生労働委員会で石橋議員に対して、「たまたま会合で会った、高プロの対象となる方に話を聞いた」という趣旨の答弁をしている。
✳︎6/12答弁の該当箇所はリンク先の動画で確認可能(4分0秒〜4分58秒)

第2段落 「その方は」 と第3段落 「研究職」 の関係性

「その方は」という話の続きで、例えばと「研究職」を挙げているので、聞き手は当然、「その方=研究職」と解釈するだろう。

だが、加藤大臣は2018/6/14の参議院・厚生労働委員会にて、福島みずほ議員からの
「1/31答弁で『その方』は『研究職』だと聞き手は思うだろう。虚偽答弁ではないか」
との指摘に対し、
議事録で改行が入っているから、『その方』と『研究職』は別の話
という驚くべき趣旨の答弁を行った。
✳︎6/14答弁の該当箇所はリンク先の動画で確認可能(12分46秒〜14分2秒)

確かに1/31答弁の議事録に「その方」と「研究職」の間に改行がある。だが、音声を聞くと改行箇所の間(ま)は約0.2秒。息継ぎすらしていない
大半の聞き手は繋がった話と捉え、「その方 = 研究職」と解釈するだろう。
✳︎1/31答弁の該当箇所はリンク先の動画で確認可能(20秒ごろ)

さらに、「『その方』とは誰なのか。コンサルなのか」との福島議員からの質問に対し、加藤大臣はこのように答弁している。

『その方』はITの関係でコンサル。ま、コンサルというかですね。システムエンジニアリングと、それから実際の、ユーザーというんでしょうかね、その間でいろいろプロジェクトをつくっていく、そういう立場の方でありました。

つまり、加藤大臣は「その方 ≠ 研究職」、「その方 = ITコンサル(のような人)」と明確に認めたのである。
✳︎6/14答弁の該当箇所はリンク先の動画で確認可能(14分3秒〜14分41秒)

第3段落 「研究職」のヒアリング実施者

第3段落で加藤大臣がまるで自分が直接聞いたかのように紹介した研究職の例を改めて紹介する

例えば、研究職の中には、1日4時間から5時間の研究を10日間やるよりは、例えば2日間集中した方が非常に効率的に物が取り組める、こういった声を把握していたところ(以下略)

実は、これは高プロのニーズの12名へのヒアリング結果のNo.1と酷似する。
(画像は、福島みずほ議員twitter投稿より引用)

この点について、2018/6/12の参議院 厚生労働委員会で石橋議員からの追及に対して、加藤大臣はこのような趣旨の答弁をしている

「1/31答弁で紹介した研究職の例は、ヒアリング結果No1と同一であり、厚生労働省の担当者がヒアリングした。この研究職は私が把握した例として紹介したが、私が直接話を聞いたとは一言も言ってない

✳︎6/12答弁の該当箇所はリンク先の動画で確認可能(6分10秒〜7分30秒)

しかし、本記事の冒頭で視覚化した通り、あたかも自分がこの「研究職」に直接話を聞いたかのように意図的に誘導しており、虚偽答弁の疑いが強いと言えるだろう。

2問目の答弁 ✳︎2018/6/16公開

まず、浜野議員の2問目は下記の通り

現裁量労働制対象の方々からも意見があったと、そして、新設される高度プロフェッショナル制度につきましてもご意見があったということですけれども、そういう意見があったというような記録ですね、これは残っているんでしょうか、ご説明願います

これに対する加藤大臣答弁と浜野議員のやり取りを視覚化した結果。

浜野議員は「記録がないのか」としつこく4回も確認し、加藤大臣は明確に否定しないので、聞き手は当然「記録はない」と解釈するだろう。

しかし、記録はあった。先ほど本記事でも紹介したように12名のヒアリング結果はA4用紙で2枚にまとめられて存在している。
この矛盾について、2018/6/12の参議院 厚生労働委員会にて石橋議員が追及したところ、加藤大臣はこのような趣旨の答弁を行った。

それから、記録がないと言っているわけじゃなくて、記録を残すあるいは公表することを前提に話されたものじゃありませんよということを言っているのであって、別に記録がないということを言っていないんですよ。だって、手元にあるんですから。それは、メモがありますよ。ただし、それ自体は記録をすることを前提に取ったものじゃありませんから公表をすることは難しいということを、ここで公表してくださいと言うから言っているので、虚偽答弁というのは違います。

✳︎6/12答弁の該当箇所はリンク先の動画で確認可能(9分4秒〜10分32秒)

これは、「記録は残っているのか」という問いを「記録を残すことを前提に話を聞いたのか」という問いにすり替える ご飯論法である。
視覚化した通り、「記録は無い」という誤った解釈を意図的に誘導しており、虚偽答弁の疑いが強いと言えるだろう。

改訂履歴

初版:2018/6/15 23:35公開

第2版:2018/6/16 19:22公開
・2018/6/12 参議院 厚生労働委員会の石橋議員に対する答弁を踏まえて、全面的に改訂
・「2問目の答弁」を新規公開

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